カレントアウェアネス-E
No.102 2007.03.14
E618
被災した“家宝”を助ける方法,教えます(LC)
大切なコレクションを災害で駄目にしてしまうことなど,誰も考えたくはない。しかし現実に毎年各地で自然災害がおこり,多くの人が大切なコレクションを失う悲しみを味わっている。“家宝”ともいえる貴重なコレクションを守るための知識を,多くの人が必要としている。
2007年2月,米国議会図書館(LC)が,家宝を守るために必要な知識とコツを市民に伝授するウェブサイト“Preparing, Protecting, Preserving, Family Treasures”を公開した。平常時の保管方法,資料を痛めないような展示方法,そして悲しくも被災してしまったコレクションの修復方法のノウハウをわかりやすく教えてくれる。
例えば,書籍が冠水してしまったときにはどうすればよいのだろう?いくつか方法はあるが,まず紹介されているのが,吸水性のよい白紙を1ページごとに挟み込んで水を吸水していく方法である。この方法の場合,ブロックなどの重しを載せて,書籍の歪曲をできる限り防ぐのがコツだ。あるいは,冷凍するという方法もある。冷凍したものを長時間氷点下で放置すると水分が徐々に昇華する性質を利用して,資料をパラフィン紙などに包み冷凍する方法である。もともと極寒のグリーンランドの図書館が火災にあったときに偶然発見された方法であるだけに,寒冷な地域に住む人は知っておく価値があるだろう。これらの方法は,「吸水乾燥法」あるいは「凍結乾燥法」として,図書館員・文書館員等の専門家には比較的よく知られている方法であるが,一般に広く知られているとは言えず,インターネットを通じて広報していくことは,それだけでも意義がある。書籍以外にも,地図資料,写真,レコード,テープ,さらにはCDやDVDなど,様々なメディアそれぞれの対処方法も広く取り上げている。
さらにこのサイトでは,資料修復に経験のない人に役立つような工夫が見られる。デモンストレーションビデオが掲載されており,理解を助けてくれる。また,より専門的な情報へのリンクや,資料修復の専門家を紹介するサービスへの案内も掲載されている。
2005年,2006年と,米国では大きな洪水が続き深刻な被害を受けた図書館,また被害は受けなかったものの災害対策に多くの時間を割いた図書館が数多くあった(E369, E396, E516 参照)。このような経験を通じて米国の図書館界では,所有者自身が資料の修復を行えるようにしていく必要があること,そのために図書館が資料修復の知識とコツを市民に伝えていく必要があることについて,認識が深まったようである。資料保存に豊富な経験を有するLCが,一般市民へ知識とコツの共有化に努めていることは,高く評価できよう。
Ref:
http://www.loc.gov/preserv/familytreasures/familytreasuresmain.html
http://unesdoc.unesco.org/images/0007/000750/075091eo.pdf
http://www.jsai.jp/file/bosaitebiki.html
E369
E396
E516