E583 – 根拠に基づく図書館業務の設計:Evidence Based Librarianship(EBL)とは何か?

カレントアウェアネス-E

No.97 2006.12.20

 

 E583

根拠に基づく図書館業務の設計:Evidence Based Librarianship(EBL)とは何か?

 

 図書館業務は,図書館情報学によって示された科学的根拠(エビデンス)の活用により,向上させることができるか?図書館実務と図書館情報学の乖離は古くから指摘されているところであるが,この疑問に正面から取り組み,明確な回答を導き出そうと実践を積み重ねる活動がある。EBL(Evidence Based Librarianship)あるいは,EBLIP(Evidence Based Library and Information Practice)等の名称で呼ばれるこの活動が,徐々に広がりを見せている。

 EBLは,医学界のEBM(Evidence Based Medicine)の動きに関与し実績を重ねた医学系の図書館から発展してきたものであり,その経験を,医学分野に限らず,図書館自身の実務全般の意思決定に適用させるものである。その方法論は明瞭である。図書館業務に関する回答可能な「質問」を設定し,それを解決するエビデンスを発見し,評価し,活用し,意思決定に適用させる。エビデンスとして統合されるものは,利用者からの報告,実務者の観察,あるいは研究結果から抽出された事実である。このエビデンスの評価に基づいて,図書館の様々な業務,すなわち蔵書構築,レファレンスサービス,利用者教育,マーケティング等を行っていく。

 既に3度の国際フォーラムが英国(2001年,シェフィールド),カナダ(2003年,エドモントン),オーストラリア(2005年,ブリスベン)で開催されている。これらを通じて課題意識も明確になっている。すなわち,エビデンスの品質の確保,エビデンスの情報源が分散し一元的に得られない現状の改善,研究を解釈する図書館員のスキルの向上,そして時間的制約の克服など,様々な取り組み課題が意識されている。

 これらの課題を解決に導く具体的な行動も始まっている。2006年には,アルバータ大学(カナダ)が,EBLにフォーカスしたオープンアクセス誌を立ち上げ,すでに4号までを刊行している。同誌でEBLの理論や実践方法が紹介されているほか,様々なエビデンスの蓄積が図られている。例えばこれまでのエビデンス・サマリーには,「オープンアクセス誌はそうでない学術雑誌よりも影響力がある」,「小学生,中学生,高校生はデジタルレファレンスを使用する動機が異なる」などのエビデンスが蓄積されている。

 2006年10月には,ニューカッスル大学(オーストラリア)が中心となり,“エビデンスを活用する図書館”のための情報共有サイト『Libraries Using Evidence – eblip.net.au』が正式にスタートした。このサイトの中心となるコンテンツは”EBLIP Toolkit”であるが,ここには質問の設定の仕方,エビデンスの探し方などの情報を整理されつつある。このツールキットの開発自体もEBLの方法論で進められており,ツールキットにどのようなリソースあるいはツールが含まれるべきか,という回答可能な「質問」に回答すべく,進められている。

 いずれもまだ発展途上の取り組みであり,今後の図書館実務のあり方にどのような変化が現れるのか,またEBLの実践がどのように評価されるのか注目される。なお,日本でも,科学研究費補助金を受けて,慶應義塾大学の上田修一教授を中心とするグループにより『エビデンスベーストアプローチによる図書館情報学研究の確立』と題する研究が進められており,成果が期待されるところである。

Ref:
http://ejournals.library.ualberta.ca/index.php/EBLIP/
http://www.eblip.net.au/
http://www.newcastle.edu.au/service/library/gosford/ebl/projects/index.html#toolkit
http://www.eblib.net/
http://www.asebl.ualberta.ca/
http://conferences.alia.org.au/ebl2005/
http://www.kaken-evidence.jp/