E582 – 権利者と利用者のバランスをどう取るか?:知的財産権に関するレビュー(英国)

カレントアウェアネス-E

No.97 2006.12.20

 

 E582

権利者と利用者のバランスをどう取るか?:知的財産権に関するレビュー(英国)

 

 英国財務省(HM Treasury)は2006年12月6日,経済現況や政府の政策を報告する予算前報告書(Pre-Budget Report)の一部として,Financial Times紙の前編集長ガワーズ(Andrew Gowers)に委嘱していた,英国の知的財産権に関するレビュー“Gowers Review of Intellectual Property”を公表した。

 今回,このようなレビューが作成された背景には,近年高まり続けている知的財産権の重要性と,経済環境の変革に伴い生じている知的財産権に対する要請の両者を,正確に把握したいという英国政府の意向が存在している。そこで本レビューでは,1)権利と利用のバランスがとれた知的財産権制度の構築,2)知的財産権の利用を容易にする方法の模索,3)現在問題となっている知的財産権侵害とデジタル環境の関係,および「フェア・ユース」条項の妥当性の3点について,現在の潮流に即した検討を行った。

 その結果,英国の知的財産権保護制度について,概して満足のゆく機能を果たしているが,なお多くの領域で検討を重ねる必要があると指摘しており,54項目におよぶ提言がまとめられている。代表的な提言として,録音物の著作権を50年のままとすること(提言3)や調査目的のための複製に対する著作権の例外規定の明確化(提言9),図書館が資料保存のために行なう媒体変換の拡大(提言10aおよび10b),“Orphan Works”への対応(提言13および14a),知的財産権を有効に活用するための情報提供(提言26),デジタル上の著作権侵害に対する罰則の強化(提言36),取引水準審査局(Trading Standards)への取締権限の付与(提言42)などが挙げられている。

 本レビューに対して,図書館界からは好意的なコメントが発表されている。たとえば英国図書館(BL)は,本レビュー公表翌日の12月7日に,調査を目的とする複製の許容や“Orphan Works”に対する前向きな姿勢などについて,おおむね評価するというコメントを発表している。このほか,図書館・情報専門家協会(CILIP),博物館・図書館・文書館国家評議会(MLA),情報システム合同委員会(JISC)も同様に,好意的な声明を公表している。

 逆に録音物の著作権保護期間が50年のまま据え置かれたことから,音楽業界からは失望の声明が発表されている。音楽業界はまた,政治家へのロビー活動を行い,本レビューを無視するよう働きかけると発表している。

 今後,英国の知的財産権法である「1988年英国著作権,意匠,特許法(Copyright, Designs and Patents Act, 1988)」改正に結びついてゆくのかなど,その動向には注目が必要となろう。

Ref:
http://www.hm-treasury.gov.uk/media/583/91/pbr06_gowers_report_755.pdf
http://www.hm-treasury.gov.uk/independent_reviews/gowers_review_intellectual_property/gowersreview_index.cfm
http://www.bl.uk/news/2006/pressrelease20061207.html
http://www.cilip.org.uk/aboutcilip/newsandpressreleases/news061208.htm
http://www.mla.gov.uk/webdav/harmonise?Page/@id=82&Section%5b@stateId_eq_left_hand_root%5d/@id=4289&Document/@id=26808
http://www.jisc.ac.uk/news/stories/2006/12/news_gowers.aspx
http://www.thelawyer.com/cgi-bin/item.cgi?id=123399&d=122&h=24&f=46
http://www.cric.or.jp/gaikoku/england/england.html