E527 – インドのオープンアクセス事情

カレントアウェアネス-E

No.89 2006.08.23

 

 E527

インドのオープンアクセス事情

 

 2006年3月,ドイツで行われたオープンアクセス(OA)に関する国際会議“Berlin 4 Open Access”において,インドのOAの現状に関する報告がなされている。  

 経済成長が著しいインドであるが,学術情報の流通の面ではまだまだ発展途上である。およそ300ずつある大学および政府系研究機関の図書館のほとんどは,ごくわずかな雑誌しか契約できていない。最近では,INDESTコンソーシアム(CA1516参照)による契約などによって,先進的な研究機関では9千誌近くの雑誌にオンラインでアクセスできるようになっているものの,まだ欧米の大学図書館には及ばない。また,インドの研究者が発表する論文の多くは,見られる機会が少ない雑誌に掲載されており,国際競争の観点からも不利である。高等教育・研究にとって情報は鍵となるインプットであり,インドから国外の情報に,また国外からインドの情報に,より容易にアクセスできるようにすることが求められている。  

 このような課題を解決するものとして,インドはOAの取り組みに力を入れている。OAの電子ジャーナルは100誌ほどあり,この中には著者支払い型のものはひとつもない。最も成功している雑誌はJournal of Postgraduate Medicine誌で,毎月10万回以上ダウンロードされており,インド国外からの投稿も多く,引用数も急増したという。この雑誌を刊行している民間企業MedKnow Publication社は他にも,薬学分野の30タイトル以上をOA誌として刊行している。  

 書籍のデジタル化についても,米国のカーネギーメロン大学によるミリオンブックプロジェクト(CA1593参照)や,国内のマイソール大学による博士論文のデジタル化プロジェクトなどが進捗している。後者には,まだ8大学・機関しか参加していないものの,10万を超えるメタデータが構築されており,この中にはカンナダ語やヒンディー語のものも含まれているという。  

 これらに対し,OAの機関リポジトリの取り組みは遅れている。現在,およそ20の機関がリポジトリを立ち上げており,図書館情報学や生物医学などでは,分野別アーカイブも構築されている。しかしながら,おしなべて研究者の関心は低く,学位論文がほとんどを占めている機関リポジトリもある。このような,研究者によるセルフ・アーカイビングが進まない現状に対し,OA推進者は政府機関による助成を受けた研究のOAを義務付けるよう,働きかけを行っているところである。

Ref:
http://dlist.sir.arizona.edu/1255/
http://berlin4.aei.mpg.de/
http://www.medknow.com/
CA1516
CA1593