E2786 – 第20回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>

カレントアウェアネス-E

No.500 2025.5.1

 

 E2786

第20回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>

国立国会図書館関西館図書館協力課・レファレンス協同データベース事業事務局

 

  2025年2月20日、国立国会図書館(NDL)は、第20回レファレンス協同データベース(以下「レファ協」)事業フォーラム(E2701ほか参照)をオンライン形式で開催した。今回のフォーラムは、「生成AIはレファレンスサービスに何をもたらすか」をテーマとし、生成AI関連技術の発展がレファレンスサービスにどのような影響をもたらすのかに主眼を置いた内容であった。

  まず、4人の識者から、生成AIの概要やレファレンスサービスへの影響、図書館での活用事例等について講演が行われた。

●講演1「生成AIとレファレンスサービス:変わること、変わらないこと」/青野正太氏(駿河台大学メディア情報学部助教(所属・役職はフォーラム開催時のもの。以下同じ。))

  文献の検討や生成AIによる検索の簡易実験の結果を基に、生成AIの利点及び問題点を概観した上で、生成AIがレファレンスサービスにどのような影響を及ぼすかについての考察が示された。レファレンス業務で今後生じうる変化として、情報資源の信頼性を評価すること、利用者と情報・専門家を適切につなぐこと、サービスに責任を持つこと及び情報リテラシーを伝えることの重要性が増すのではないか等の指摘があった。一方、今後も変わらないこととして、図書館員がレファレンスサービスに取り組む必要性や、図書館員が有する専門的知識・スキルの有効性が挙げられた。

●講演2「図書館のデータと自然言語処理」/古宮嘉那子氏(東京農工大学大学院工学研究院先端情報科学部門准教授)

  自然言語処理やAIに関する基本的な用語を定義し、仕組みを概観した後、近年の自然言語処理の研究について、大規模言語モデル(LLM)を評価する研究やLLMにできないことに注目した研究が増えていることを紹介した。最後に、レファ協の登録データについて、根拠(出典)を明示し、かつ調べて分からないことには分からないと答えていることから、情報の質の観点で自然言語処理のデータとして注目できるとの見解が示された。

●講演3「図書館業務での生成AI活用の可能性:AI司書との対話」/高橋菜奈子氏(新潟大学学術情報部長)

  図書館業務での生成AI活用の可能性について概観した後、前職の東京学芸大学における「AI司書」の取組を紹介した。今後「AI司書」を発展させるには、レファレンス業務に対する分析を行い、レファレンスサービスの課題を把握すること等が必要であるとの考えが示され、例えば、レファレンスサービスの認知度を高めたり、受付時間や対応数を増やせたりする可能性に触れた。また、レファレンス業務での生成AIの活用には、(1)図書館職員個人として活用する段階、(2)図書館のサービス実行者として活用する段階、(3)図書館のサービス開発者として活用する段階という三つの段階があると指摘した。

●講演4「大学図書館業務における生成AI活用の実態の紹介:活用に役立つ基礎知識やプログラミング支援事例について」/橋本郷史氏(東邦大学医学メディアセンター大橋病院図書室)

  生成AIの利活用時に役立つ基礎知識の紹介の後、生成AIがレファレンスサービスに及ぼす影響についての考察が示された。次に、図書館業務での生成AI活用の実践例として、資料予約に係るシステム上の課題に取り組むに当たり、生成AIを活用してプログラムのコードを作成し、問題となるデータの抽出や分類を行った事例を紹介した。生成AI利活用の実践経験を踏まえ、生成AIの利用時には、「問いを立てる力」や生成AIの生成物を「評価・選択する力」が重要であり、生成AIに任せれば何でも楽ができるとは思わずに生成AIに本気で話しかけると良いのではないかとまとめた。

  また、講演後、レファ協事業事務局からは、「生成AI時代に考えるレファレンス協同データベースの特徴・留意点」と題して、レファ協が発信する情報の特徴・留意点、レファ協登録データ作成・公開時の留意点及びレファ協登録データの利用条件等について説明を行った。

●フリートーク

  その後、今井福司氏(白百合女子大学基礎教育センター准教授)がコーディネーターとなり、講演者4人及び廣田桂氏(レファ協事業企画協力員、熊本大学附属図書館)、さらにはその他のレファ協事業企画協力員も交えてフリートークが行われた。なお、生成AI利用との関係では、それぞれの図書館員がどのような質問回答を行うべきかが注目されがちであるものの、今回のフリートークでは、調べ方マニュアルを含めて、レファ協が提供しているものを扱うことを前提としたいという趣旨の説明が、今井氏よりあった。

  その前提のもと、フリートークでは、参加者から寄せられた質問への回答のほか、生成AIがレファレンスサービスを行うことはできるのか、レファ協は生成AIにどう関わっていくとよいか等について意見交換がなされた。レファ協と生成AIについては、レファ協事業企画協力員の小田光宏氏(青山学院大学コミュニティ人間科学部教授)から、「レファ協では、正確でないと思われる登録データがあった場合に、参加館が「コメント機能」で知恵を出し合うことが可能である。今後、レファ協に生成AI由来の登録データが増えた場合も、レファ協の基本に立ち返り、「協同」の意味を皆で考えることで、レファ協をより良くしていけるのではないか」との総括的なコメントがなされた。

  登壇者から録画配信について許諾が得られたプログラムについては、NDL公式YouTubeチャンネルでアーカイブ映像を公開する予定である。また、レファ協ウェブサイトにフォーラムの発表資料を掲載しているほか、後日、フォーラムの記録集も同ページに掲載する予定である。

Ref:
“第20回レファレンス協同データベース事業フォーラム「生成AIはレファレンスサービスに何をもたらすか」”. レファレンス協同データベース.
https://crd.ndl.go.jp/jp/about/forum/r6_20.html
レファレンス協同データベース.
https://crd.ndl.go.jp/reference/
関西館図書館協力課・レファレンス協同データベース事業事務局. 第19回レファレンス協同データベース事業フォーラム<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (480), E2701.
https://current.ndl.go.jp/e2701