カレントアウェアネス-E
No.500 2025.5.1
E2785
令和6年度学術情報の収集・保存に係る学協会アンケート
国立国会図書館利用者サービス部科学技術・経済課・黒田隆徳(くろだたかのり)
国立国会図書館(NDL)は、人文・社会科学を含めた国内の全ての学術分野の学協会を対象に、論文誌等の刊行物や文献相当の情報資源の刊行、デジタル化、ウェブサイトでの公開等の状況について、3年に一度、アンケート調査を実施している。令和6年度は令和6(2024)年7月17日から10月16日まで実施し、1,161機関から回答を得た。本稿では結果の概要を紹介する。
アンケートの実施状況や集計結果はNDLのウェブサイトで公開している。同サイトではNDLによる学協会刊行物の収集と利用提供についても紹介しているので、参照されたい。
●紙媒体等の納本、オンライン資料の納入の状況
NDLに納本していない紙媒体等の出版物がある機関は1割を超え、そのうち、約1割が「納本制度を知らなかった」、6割超が「納本制度の対象となるかが分からなかった」と回答した。
納入していないオンライン資料(電子書籍・電子雑誌)がある機関は約1割であり、その理由は、約4割が「オンライン資料収集制度を知らなかった」、約4割5分が「オンライン資料収集制度の対象となるかが分からなかった」であった。なお、J-STAGEや機関リポジトリでオンライン資料を公開している場合は納入対象外となるが、このケースに該当する機関は約5割であった。
●学会誌の電子ジャーナル化、デジタル化の状況
和文誌は、約6割5分の機関が一部又は全てのタイトルを電子ジャーナル化している。電子ジャーナル化していない機関のうち、約3割は予定・検討中であると回答した。英文誌は、発行機関の約9割が一部又は全てのタイトルを電子ジャーナル化しているという結果であった。また、電子ジャーナル化の仕様について、1割超の機関がテキストデータを含まない電子ジャーナルを発行していると回答した(※複数回答。以下※は同様)。
約4割5分の機関が全ての学会誌をデジタル化している一方、約1割5分は学会誌のデジタル化を予定していない。要旨集や予稿集は、約2割が「すべてデジタル化した」、4割弱が「デジタル化の予定はない」と回答した。デジタル化を妨げる要因に、約6割5分が予算・人員の不足、約3割5分が権利関係の処理を挙げた(※)。デジタル化の仕様について、4割超の機関がデジタル化に際してテキストデータを含まない又は含んでいるか分からない刊行物があると回答した(※)。
●オープンアクセスへの対応
即時・無償で一般公開している学会誌(電子ジャーナル)を発行している機関は、和文誌で約4割、英文誌で6割弱あった(※)。和文誌については、著者最終稿・出版版の機関リポジトリ等への登録を認める学会誌を発行している機関はそれぞれ2割を超えたが、登録を認めない学会誌を発行している機関も約4割ある(※)。ただし、即時の登録を認める学会誌を発行している機関は和文誌、英文誌共に1割未満である(※)。プレプリントサーバへの投稿に関するポリシーは、和文誌、英文誌共に多くの機関が「特に決めていない」と回答した。
●インターネット資料収集保存事業(WARP)によるウェブサイトの収集
6割近くの機関がNDLによるインターネット資料収集保存事業(WARP)を「知らなかった」と回答した。4割を超える機関がWARPによる収集を希望する又は関心があると回答した。
●アンケート結果を受けて
資料収集については、学協会に対して納本制度やオンライン資料収集制度の収集対象を分かりやすく周知するなどの工夫をする必要があることが分かる。また、学協会による紙媒体の刊行物のデジタル化を妨げる要因としては予算・人員の不足が大きく、学協会へ向けた支援が必要であることも分かる。
現在、NDLは学協会に対して、オンライン資料収集制度に加えて、WARPによるウェブサイト単位での自動収集という選択肢も用意している。また、NDLでは発行元の学協会から要望があれば優先的にデジタル化を行っている。デジタル化した資料は国立国会図書館デジタルコレクションで公開され、NDLの館内で利用できるほか、入手困難である等の条件に合致すれば著作権処理を行わずに個人向け・図書館向けデジタル化資料送信サービスにより、国内に居住するNDL登録利用者個人や、サービスに参加する公共図書館、大学図書館等でも利用できる。また、国立国会図書館デジタルコレクションで公開したデジタル化資料の全文テキストデータを順次作成し、全文検索サービスを提供している。本アンケートの結果を踏まえ、引き続き取組を進めていきたい。
ところで、内閣府は、研究者に対して競争的研究費の援助を受けた学術論文等を、学術雑誌への掲載後速やかに機関リポジトリ等で公開することを義務付ける方針を打ち出している。それを受けて、オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)は日本全体で円滑な学術情報の即時オープンアクセス化を実現するため「著作権ポリシー策定・公開ガイドライン」を策定し、各学協会に対して著作権ポリシーの策定を促している。私見ではあるが、デジタル化の推進に加えて、各学協会が著作権ポリシーを策定することでもオープンアクセスの推進に繋がると思われる。
Ref: “学協会アンケート”. NDL.https://www.ndl.go.jp/jp/collect/tech/society/questionnaire.html “学協会刊行物に関するQ&A”. NDL.https://www.ndl.go.jp/jp/collect/tech/society/qa.html “国立国会図書館未収かつ入手困難資料のデータ収集事業へのご協力のお願い”. NDL.https://www.ndl.go.jp/jp/preservation/digitization/data-acceptance.html “学協会刊行物の収集と利用について”. NDL.https://www.ndl.go.jp/jp/collect/tech/society/index.html 学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針. 統合イノベーション戦略推進会議, 2024, 3p.https://www8.cao.go.jp/cstp/oa_240216.pdf “著作権ポリシー策定・公開ガイドライン”. JPCOAR.https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/records/2000542 “図書館向けデジタル化資料送信サービス”. NDL.https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/index.html “個人向けデジタル化資料送信サービス”. NDL.https://www.ndl.go.jp/jp/use/digital_transmission/individuals_index.html 恒久的保存のための取組 学協会アンケートの実施に伴う収集強化等. NDL, 2022, 17p.https://www.ndl.go.jp/jp/collect/tech/pdf/kashin15_04.pdf