E2736 – 「絵本で知る世界の国々」:IFLA展示会セットの紹介

カレントアウェアネス-E

No.488 2024.10.03

 

 E2736

「絵本で知る世界の国々」:IFLA展示会セットの紹介

国際子ども図書館資料情報課情報サービス係

 

  2024年3月、国際図書館連盟(IFLA)の児童・ヤングアダルト図書館分科会(E2664ほか参照)が、“The World Through Picture Books”プログラムのカタログ第3版の公開を発表した。本稿では、IFLAの取組及びその一環として構築された展示会セットの概要を述べたうえで、国立国会図書館(NDL)国際子ども図書館の関連事業を紹介する。

●IFLAの取組

   “The World Through Picture Books”(絵本で世界を知ろう)プログラムは、絵本を通して国際理解を促進するために、2011年に開始された。これは、各国の図書館員がその国の絵本を10冊ずつ推薦し、世界中の絵本のカタログを作成する取組である。2012年の第1版、2015年の第2版と、版を重ねるごとにプログラムの参加国は増加してきた。第3版は、世界の57の国と地域、37言語の530冊を収録している。この57の国と地域は、アジア・欧州・アフリカ・北米・南米・オセアニアに及んでおり、世界規模の取組であるといえる。第3版の作成にあたっては、対象年齢が拡大される等、選定基準が改訂され、第2版までの参加国も新たに絵本を選び直した。選定基準は次の通りである。

  • 対象年齢は0~18歳
  • その国の優れた出版物であり、長く読み継がれている、あるいは読み継がれると思われるもの
  • その国で出版された作品
  • その国の言語で書かれ、翻訳ではない作品
  • 子どもに読み聞かせたり、子どもと一緒に読んだりするのに適し、質の高いもの
  • 文と絵が互いに補完しあっていること、ただし、文字のない絵本でもよい
  • 前向きなメッセージを持つもの
  • 現在も刊行されていること

  選定された絵本を見ると、物語の絵本に加えて文字なし絵本、しかけ絵本等も含まれ、実に多彩である。また、国や地域によって装丁や画風、描かれているテーマに違いがあり、特色ある文化に触れることができる。一方、世界共通で見られるテーマもあり、普遍的な価値観がわかる等、様々な発見がある。

  日本の絵本は、IFLA児童・ヤングアダルト図書館分科会の日本選出常任委員及び日本図書館協会児童青少年委員会を中心に選定された。Googleフォームを通じて62の個人や団体から推薦された約270冊を選定対象とし、白熱した議論が展開されたという。同分科会の基準に加えて、赤ちゃん絵本、科学絵本、写真絵本、文字なし絵本、平和やSDGsを意識した絵本を含めるという日本独自の基準のもと、日本の絵本の多様性を体現する10冊が決定した。

  さらに、世界各地でカタログに掲載された絵本の展示会を開催できるよう、出版社からの寄贈により、貸出用の展示会セットが2組構築された。1組は日本の国際子ども図書館、もう1組はフランス国立図書館から、展示会を開催したい図書館等に貸し出される。

●国際子ども図書館での展示会

  国際子ども図書館では、2024年7月9日から8月25日まで、展示会「絵本で知る世界の国々―IFLAからのおくりもの」を開催した。会場では、それぞれの絵本の紹介を日本語に翻訳したキャプションとともに、現在までに寄贈されている42の国と地域の360冊を、直接手に取って読める形式で展示した。

  展示開催期間中に1万406人が来場した。アンケートには、「世界の絵本を一度に見られる機会はめったになく、ありがたい」「世界の価値観を知ることができ、大変勉強になった」等の感想が寄せられ、好評であった。

●展示会セットの貸出し

  国際子ども図書館では、2013年から、日本を含むアジア・オセアニア地域の図書館等に対し、返却にかかる送料以外無料で、カタログ第1版・第2版に基づく展示会セットを貸し出してきた。これまでの貸出し先は、国内42機関・海外5機関の計47機関にのぼる。公共図書館のほか、学校図書館、大学図書館、読書関連団体等への貸出し実績がある。

  過去の貸出し先へのアンケートによると、子どもから大人まで、また国内の人々のみならず海外の人々にも大いに楽しんでいただけた様子であった。具体的には、今後も貸出しを希望する声や、「文字が読めなくても、絵とあらすじから内容を想像しながら絵本を楽しめた」「国や地域による文化の違いや、世界の広さを感じられた」等の感想があった。

  カタログ第3版の完成を受け、2024年秋から新しい展示会セットの貸出しを開始する。2024年度貸出し分の申込受付は終了しているが、国内機関への2025年度貸出し分の募集については、2024年秋に国際子ども図書館のウェブサイト等で告知予定である。

  カタログ前文にも記されているように、多様な文学を読むことは国際理解を促進し、多角的な見方や視点を受け入れる寛容な心を育む。世界の絵本と出会い、国際社会を見つめ直す契機として展示会セットがより多くの人々に活用され、多様性を尊重する社会の実現に寄与することが期待される。

Ref:
“The World Through Picture Books (3rd edition) is launched and ready-to-use!”. IFLA. 2024-03-20.
https://www.ifla.org/news/the-world-through-picture-books-is-launched-and-ready-to-use/
“The World Through Picture Books”. IFLA.
https://www.ifla.org/g/libraries-for-children-and-ya/the-world-through-picture-books/
The World Through Picture Books. 3rd ed., IFLA, 2024, 289p.
https://repository.ifla.org/items/7432fab6-da33-4055-a5c0-39a48c3b1a25
The World Through Picture Books. Expanded 2nd ed., IFLA, 2015, 218p. (IFLA Professional Reports, 136).
https://www.ifla.org/wp-content/uploads/2019/05/assets/hq/publications/professional-report/136.pdf
“絵本で知る世界の国々―IFLAからのおくりもの”. 国際子ども図書館.
https://www.kodomo.go.jp/event/exhibition/tenji2024-03.html
“展示会セット「絵本で知る世界の国々―IFLAからのおくりもの」の貸出し”. 国際子ども図書館.
https://www.kodomo.go.jp/event/lend/index.html
飛田由美. IFLA児童・ヤングアダルト図書館分科会「絵本で世界を知ろうプロジェクト」と国際子ども図書館展示会「絵本で知る世界の国々」. 国立国会図書館月報. 2014, (638), p. 16-19.
https://doi.org/10.11501/8655922
飛田由美. 「絵本で知る世界の国々―IFLAからのおくりもの」展. 国際子ども図書館の窓. 2014, (14), p. 40-42.
https://doi.org/10.11501/8747103
中島尚子. 絵本で広がる世界を楽しもう!:IFLA “The World Through Picture Books”のご紹介.こどもの図書館. 2022, 69(2), p. 8-13.
永野祐子. 第88回IFLA年次大会児童・ヤングアダルト図書館分科会<報告>. カレントアウェアネス-E. 2024, (472), E2664.
https://current.ndl.go.jp/e2664