E2737 – 韓国、第4次読書文化振興基本計画(2024-2028)を発表

カレントアウェアネス-E

No.488 2024.10.03

 

 E2737

韓国、第4次読書文化振興基本計画(2024-2028)を発表

関西館アジア情報課・河村真澄(かわむらますみ)

 

  韓国・文化体育観光部は2024年4月、「第4次読書文化振興基本計画(2024-2028)」を発表した。読書文化振興基本計画(以下「基本計画」)は読書文化振興法第5条を根拠として5年ごとに定められるもので、今回の第4次基本計画は2019年4月発表の第3次基本計画(2019-2023)(E2173 参照)に次ぐものである。

  第4次基本計画では、読書を取り巻く現状や第3次基本計画の総括を踏まえ、「読書の裾野拡大」というビジョンのもと、「不読者(1年間で本を1冊も読まない人)の読者(読書習慣のある人)への転換・本に親しむための基盤形成」をコア目標として掲げている。以下では、この目標達成のために設定された四つの推進戦略に沿って、計画の概要を紹介する。

●読書価値の共有と読者の拡大

  これまで読書文化振興政策は読者中心に進められてきたが、不読者の比重が拡大傾向にあるなかで、不読者対象の政策・事業を強化する必要があるとし、不読者を3タイプに類型化した。その上で、それぞれの特性に合わせたカスタマイズ型の読書振興政策を推進するとしている。

  例えば、仕事や育児等でやむを得ず読書から離れた不読者タイプには、職場と連携した読書会支援や公共施設での育児者向け読書インフラ整備支援等を行うほか、難読症等の理由で十分な読書教育が受けられなかったタイプには、代替コンテンツの普及等の施策を進めるとした。また、読書の必要性や効用に対する共感度が低い不読者タイプに対しては、社会問題解決等に役立つという読書価値の再発見を促すプログラムの企画のほか、読書を通じた文章読解力の教育プログラムの開発、読書を介した地域住民の繋がり強化の支援等を通じて、読書の効用性についての認識を高めるとしている。

  このほか、交通機関との連携、SNSやOTTサービスでのインフルエンサーの起用等を通じて、生活のなかの多様な時間・空間で自然に読書の楽しさを発見できるよう、ターゲットや目的ごとに細分化した読書キャンペーンを推進するとした。

●読書習慣の形成支援

  幼少期における家庭や保育・教育機関での読書習慣の形成は、一生の読書行動に大きな影響を与えることから、家庭向けの読書教育資料・マニュアルの開発、教育機関での読書プログラムの開発等を通じた読書習慣の形成支援を行うとしている。

  また、読書率(1年間で1冊以上の本を読む人の割合)は幼児期から学生時代までが最も高く、社会に出るとともに激減し、年代が上がるほど下がり続けるという傾向を踏まえ、ライフサイクル別の特性に合った読書習慣の形成・維持強化のための読書文化振興策が必要だとされる。具体的には、幼児・児童期、青少年期、青年期、中壮年期、老年期に分けて、読書プログラム等の支援を行うとしている。

  このほか、不読者となる可能性が高い読書疎外者(障害者、低所得者、外国籍家庭等)への読書習慣の形成・維持の支援が挙げられている。

●読書文化環境の改善

  国民の読書活動を妨げる要因として時間不足やインフラ(図書館、書店等)不足が指摘され、読書との接点の量的拡充と質的高度化が必要である。同時に、ポスト・コロナ時代の非対面環境の浸透、高齢者層や単身世帯の増加といった社会環境の変化に対応した読書環境の再構成が求められる。これらに対応するため、QRコードを活用した図書館外での電子書籍サービスポイント設置といったデジタル技術の活用、街中での読書スペースの整備支援等による「本がある文化空間の拡大」を通じて、多様なシチュエーションや場所で読書が可能となるよう、読書との接点の拡大支援を行うとしている。

  また、読書コンテンツに関しては、商業出版に馴染まない学術書の出版・電子書籍制作支援のほか、社会の多様化に対応して障害者や高齢者向けの代替資料製作の支援を進めるとしている。加えて、読書コンテンツの知財関連ビジネスに関するコンサルティング、海外進出支援等によって、読書コンテンツの多角化を支援することが挙げられている。

  このほか、地域に根差した読書の需要創出を支援する一方で、読書文化振興業務の中央・地方間の連携強化を行い、自治体の読書振興政策に対する定量評価導入や読書振興に関するモデル条例の普及等、読書基盤の体系化を進めることにより、地域社会の読書基盤の強化を図るとしている。

●読書文化振興基盤の高度化

  読書文化振興は、相互に関連する政策領域(教育、福祉、家族等)が多いことから、多様なアクター(政府、自治体、公共機関、民間企業、関連団体等)が継続的に参加する協働の場を整備して活性化を進めていく必要があるとし、分科別会議体の運営、国と地方の役割分担の明確化等により、持続可能で実効性のある読書文化振興のためのガバナンス構築を図るとしている。

  また、読書分野でも急速にデジタルシフトが進んでいることに対応し、官民協力デジタル読書技術フォーラム(仮称)の定例化やデジタル読書文化振興のための委託研究の実施、生成AIや全国の図書館の蔵書・貸出履歴といったビッグデータの活用によるサービス高度化の支援等、デジタルシフトの流れに対応するための読書振興体系の構築を行うとしている。

  加えて、読書政策の効率性向上のため、国民読書実態調査における統計調査の方法論の再検討、読書政策の成果管理体系の改善、読書関連の法制度(公貸権、文化費所得控除等)の導入に関する調査・検討等、読書分野の政策体系を発展させていくことが挙げられている。

  読書文化振興法第6条は、関係する中央行政機関の長、道知事、人口50万人以上の大都市の市長等に対して、本基本計画に沿った年度別の実施計画を策定し、施行計画及び前年度の施行結果を毎年3月末までに文化体育観光部長官宛に通知するよう定めており、国・自治体等の各レベルにおいて基本計画の目標が浸透するよう企図している。

Ref:
“보도자료”. 문화체육관광부.
https://www.mcst.go.kr/kor/s_notice/press/pressView.jsp?pSeq=21012
中村穂佳. 韓国,第3次読書文化振興基本計画(2019-2023)を発表. カレントアウェアネス-E. 2019, (375), E2173.
https://current.ndl.go.jp/e2173