E2672 – 英・リーズ大学図書館におけるAIの活用に関する研究報告書

カレントアウェアネス-E

No.474 2024.02.22

 

 E2672

英・リーズ大学図書館におけるAIの活用に関する研究報告書

調査及び立法考査局議会官庁資料課・鈴木茉由子(すずきまゆこ)

 

  2023年9月19日、英国のリーズ大学図書館が、図書館における人工知能(AI)とデジタル変革の可能性を調査したLuba Pirgova-Morgan氏による研究報告書“Looking towards a brighter future: the potentiality of AI and digital transformations to library spaces”を公開した。報告書の基礎となっている図書館におけるAIプロジェクトは、同館の“Knowledge for all”(すべての人に知識を)というビジョンを実現するためのステップとして位置づけられている。同プロジェクトの一環として同館は2022年に、AIに関する既存の研究レビューを基に、同大学の職員と学生計60人を対象としたサンプル調査と、同館職員と専門家への追加インタビューを行った。報告書はその結果をまとめたものである。本稿では、その概要を紹介する。

●第1章:AIに関する文献レビュー

  第1章では、AIに関する研究や図書館におけるAIの活用について概説している。例えば、図書館利用履歴等のAIでの管理を通して教育をサポートするシステムや、欧州国立図書館長会議(CENL)による国立図書館のAIプロジェクトの分析を紹介している。また、チャットボットの活用により図書館員の負担を減らすことが期待されている一方で、AIは言葉の微妙なニュアンスを理解するのが難しいこと、AIが学習したデータに偏りがある可能性等が指摘されている。AI利用に関する継続的な研究開発、倫理的・法的枠組みの整備を要するとしている。

●第2章:インタビュー結果

  第2章では、図書館員や大学講師、ソフトウェア開発者等の専門家へのインタビュー結果がまとめられている。インタビューは、「図書館空間について」「AI技術のイメージ」の二つの観点から行われた。前者については、「図書館は物理的空間とデジタル空間の両方に存在する“hybrid library”である」と多くの専門家が指摘している。図書館とは何かということをSpace(空間)、Stock(保管資料)、Services(サービス)の三つのSで表し、それらはシステム、スタッフ、戦略に支えられているとした。後者のAI技術のイメージについては、レファレンス対応等を行う図書館員の仕事の効率を向上させ、「ライブラリーパワー」をより有益なものにすることができるのではないかという意見が示されている。

●第3章:図書館の役割、AIと図書館の関わり

  第3章では、リーズ大学の図書館員の視点から、図書館の役割やAIと図書館の関わりについて考察している。図書館員の業務にかかる時間をAI技術が短縮したり、チャットボットの活用により、利用者が時間や場所を問わず簡単な質問をできるようにしたりするといった効果が期待できる。また、AIに代表されるテクノロジーが発達してオンライン資料を閲覧できることは、パンデミックや災害時に図書館のレジリエンスを高めるのに有効であり、利用者にとって資料へのアクセスを一層容易にするとも述べている。一方で、AIについては、利用者がエコーチェンバー(自分と似た興味関心を持つユーザーをフォローする結果、意見を発信すると自分と似た意見が返ってくるという状況)やフィルターバブル(アルゴリズムがネット使用履歴を学習することで利用者の価値観に合った情報が優先的に表示され、利用者の考え方に合わない情報から隔離されること)に陥る可能性がある、データ管理や個人情報の取扱いを慎重に行う必要がある等の課題を指摘している。こうした課題を踏まえて、AIが図書館サービスに与える影響を考慮する必要があるとしている。

●第4章:学生やスタッフを対象とした調査結果

  第4章では、学生や職員を対象としたアンケート調査と、図書館員へのインタビューの結果がまとめられている。アンケートの調査項目は、リーズ大学に導入できると考えるテクノロジーや、AI時代の図書館員に期待する能力等である。回答者の86.7%が、実際に手に取れる本とオンライン資料とのハイブリッドな図書館を支持している。また、約90%の回答者が、図書館が高等教育の中核であることや、図書館の信頼性の高さを支持している。一方で、機関内外での協力という観点における図書館の優秀さや、有事の際のレジリエンス能力の高さはあまり注目されていないという結果になった。さらに、来館することなくオンライン資料を閲覧することが増え、オンライン資料の提供も図書館サービスの一環であると認識する利用者が少ないと分析されている。回答者が図書館員に求める能力としては、情報リテラシーやトラブルシューティング能力等多岐にわたるという結果になった。

●展望

  以上の調査を踏まえ、AIの活用により、オーディオブックや大活字本を作成できること、利用者の読書履歴に基づいて興味関心に合わせた資料を推薦できること等から、利用者に合わせてサービスを最適化するために有用であるとしている。また、これからの時代に図書館員に必要とされる能力(テクノロジーへの理解、データや情報を管理する力等)や責任を箇条書きで紹介している。

●おわりに

  AIは、「便利」「脅威」といった一言では説明できない多様な面を持っている。第4章で示されたアンケート結果では、「AIが職員にとって代わる」という構図ではなく、図書館員の業務負荷軽減のために利用されるべきであるとの意見があった。AIの特性を理解し、図書館員とAI、両者の特長をいかして図書館サービスを提供することが求められている。ユネスコは2023年9月、教育と研究における生成AIに関する利用ガイダンスを公表した(E2650参照)。より効果的な図書館サービスを提供できるよう、図書館員もAIについて学び、AIの性質を理解するとともに、AI活用のガイドラインの充実や、倫理・法令面の整備が進むことが期待される。

Ref:
Pirgova-Morgan, Luba. Looking towards a brighter future: the potentiality of AI and digital transformations to library spaces. University of Leeds Libraries, 2023, 111p.
https://library.leeds.ac.uk/downloads/download/196/artificial-intelligence-ai-in-libraries
総務省. “第4節 デジタル経済の中でのコミュニケーションとメディア”. 令和元年版情報通信白書. 2019, p. 98-125.
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/pdf/n1400000.pdf
森木銀河. ユネスコによる教育・研究における生成AI利用ガイダンス. カレントアウェアネス-E. 2023, (469), E2650.
https://current.ndl.go.jp/e2650