E2562 – ニュージーランドの学校図書館に関する全国調査(2021年版)

カレントアウェアネス-E

No.448 2022.12.08

 

 E2562

ニュージーランドの学校図書館に関する全国調査(2021年版)

国際子ども図書館資料情報課・矢部萌(やべもゆ)

 

   2022年5月,ニュージーランド国立図書館(NLNZ)は,同館の学校向けサービス部局とニュージーランド学校図書館協会(SLANZA)・ニュージーランド図書館協会(LIANZA)が共同で実施した学校図書館に関する全国調査の結果“School Libraries in Aotearoa New Zealand – 2021”を公表した。

  本調査は,2018年,2019年に続く第3弾で(2020年は不実施),2021年実施の今回は学校図書館職員の労働状況,コレクションと予算,新型コロナウイルス感染症の影響に焦点を当てたものとなっている。調査アンケートのリンクは,学校図書館のメーリングリストやNLNZが刊行する学校図書館向けニュースレター等を通じて共有され,2021年11月1日から29日の約1か月が回答期間であった。ニュージーランドの学校の約2割を占める519の有効回答数を得られ,過去の調査(2018年19.7%,2019年14%)よりも高い回答率となった。

  NLNZは,この調査の結果が,各学校がデータに基づいた図書館運営を行う際の助けとなることを望むとし,また,他の教育研究と併せて活用することで,喜び,学習,ウェルビーイングにつながる読書を学校図書館がどのように支援するかについての見識を得られるだろうとしている。

  以下,結果の概要を紹介する。

●学校図書館職員の労働状況

  • ほとんどの学校図書館職員は学期間のみ勤務している(年約40週)。
  • 初等学校では84%がパートタイムで働いているのに対し,中等学校では69%がフルタイム勤務である。
  • 45%は自身の技能が,業務に求められる技能を上回っていると回答している。
  • 55%は給与が役割や責任に見合っていないと回答している。
  • 94%が学校図書館での仕事を楽しんでいると回答している。
  • 大部分が学校図書館での仕事を続けるつもりだと回答している一方,21%は数年のうちに辞めるつもりだとし,10%は積極的に他の仕事を探していると回答している。

  コメントの中には,「図書館員の仕事は過小評価されており,その結果,給与も低くなっている。現在の給与は,業務範囲の深さと広さを反映しているとは到底思えない。」といった給与への不満も見られた。

●コレクションと予算

  印刷物,デジタル資料,物理的なアイテム(モバイル機器等)の3つのカテゴリーについて,回答したすべての学校において,所蔵の大部分は依然として印刷物であった。中等学校は他の学校に比べ,デジタル資料をコレクションに含める傾向が強い。

  全体として,印刷物(雑誌を除く)の保有は,今後も強い伸びが期待されている。また,無料デジタルコンテンツへのリンクは,印刷物以外のフォーマットで唯一,同様の伸びが見込まれている。

  物理的なアイテムについて,初等学校では,生徒が借りることのできるモバイル端末を提供しているところはほとんどないが,学年が上がるにつれて,貸出を行う学校の割合も増えている。

  蔵書構築予算については,63%が2021年のそれは前年とほぼ同じであると回答しているが,回答校全体で生徒1人あたりの予算の中央値は,11.48NZドルで,2019年の13.97NZドルから減少した。また,当該の値の観測値の最大値と最小値の差は2019年に比べ減少しているものの,校種ごとのばらつきはまだ存在する。

●新型コロナウイルス感染症の影響

  図書館職員の勤務時間,蔵書構築予算,蔵書数,図書館サービスの4つの側面への影響について,ほとんどの回答者が図書館サービスをのぞいて大きな変化はなかったと回答している。

  政府から学校への運営補助金はパンデミックの間も変わらず交付され,大部分の学校は,それにより図書館職員の給与と蔵書構築費を賄うことができた。その一方,学費を払う留学生の減少などにより,勤務時間や予算の削減に直面したという回答も見られる。

  蔵書についても,構成に変化はないとする回答が大半だが,中にはデジタル資料や貸出用のモバイル機器を増やす学校もあった。また,供給網の混乱により資料収集に影響が出たという声もあった。

  パンデミックによる図書館サービスの主な変化としては,デジタルコンテンツの利用の増加,貸出冊数や期限の緩和,オンライン上の学習への支援等が挙げられた。

●おわりに

  調査結果の最後には,今後調査対象となりうるトピックが以下のとおり挙げられている。

  • 生徒の学習やウェルビーイングをサポートする学校図書館とその職員の重要性
  • 学校における革新的な学習環境としての学校図書館スペース
  • 学校図書館を支援する職員に対する給与の公平性などの雇用問題
  • 学校図書館がどのように不確実性を管理し,変化に適応していくか

  調査結果では,ウェルビーイングという言葉が度々登場するが,これは,不確実性が高まる社会において学習のみならず児童生徒の幸福・健康へもアプローチする役割が学校図書館に求められていることの表われでもあると感じた。本報告書から学校図書館の詳細な現状を解することができるのはもちろん,個々のコメントなどからはそれぞれの学校図書館が工夫を凝らし新たな試みに取り組む姿が見てとれる。学校図書館の運営は各学校に任されていることは確かだが,国や自治体等がこの結果から何を読み取り,どのように支援に活かしていくのかも注視していく必要があるだろう。

Ref:
“School Libraries in Aotearoa New Zealand – 2021”. NLNZ.
https://natlib.govt.nz/schools/school-libraries/understanding-school-libraries/school-libraries-in-aotearoa-nz-survey-reports/school-libraries-in-aotearoa-new-zealand-2021
“Report: Survey of School Libraries in Aotearoa New Zealand — 2021”. NLNZ. 2022-05-16.
https://natlib.govt.nz/blog/posts/report-survey-of-school-libraries-in-aotearoa-nz-2021
“Services to Schools”. NLNZ.
https://natlib.govt.nz/schools
“Types of schools and year levels”. Ministry of Education.
https://www.education.govt.nz/school/new-zealands-network-of-schools/about/types-of-schools-and-year-levels/
“世界の学校を見てみよう!ニュージーランド”. 外務省.
https://www.mofa.go.jp/mofaj/kids/kuni/newz_1.html
青柳まちこ. ニュージーランドを知るための63章. 明石書店, 2008, p. 230-231.