E2543 – 電子書籍のメタデータに関するNISOの推奨指針

 

カレントアウェアネス-E

No.444 2022.09.29

 

E2543

電子書籍のメタデータに関するNISOの推奨指針

収集書誌部国内資料課・村田祐菜(むらたゆうな)

 

  2022年2月,米国情報標準化機構(NISO)は,「電子書籍の販売・出版・発見・配信・保存のサプライチェーンにおけるメタデータに関する推奨指針」(“E-Book Bibliographic Metadata Requirements in the Sale, Publication, Discovery, Delivery, and Preservation Supply Chain”,以下「指針」)を公開した。指針は,多様な電子書籍メタデータの関係者間の,最も基本的なメタデータ要素に関する共通理解の形成とコミュニケーションの促進を目的とする。各関係者のニーズや,米国の書籍産業研究グループ(BISG)等による既存の指針を考慮した実践的な内容となっている。本稿ではその概要を紹介する。

●基本的なメタデータ要素と現在のメタデータ流通の問題点

  第1章から3章までは,指針の範囲とするメタデータ要素や,現在の電子書籍流通におけるメタデータの流れ(ワークフロー)の問題点が述べられている。指針では,「タイトル」「名称」「日付」「書籍の識別子」「主題」の5つを必須メタデータ要素と定義し,さらに,「フォーマット」「利用規約」「統一資源識別子(URI)/国際化資源識別子(IRI)」の3つの追加属性の記録が,電子書籍への識別子適用のために重要だとしている。上記メタデータ要素は,メタデータの3つの基本的機能である「書籍の特定」「同じ書籍・版の同定」「異なる書籍・版の識別」の実現に必須である。

  続いて,メタデータの流通において,関係者間で異なる理解・慣行が存在していることが課題として指摘され,具体的に以下の3点が詳述された。(括弧内の数字は指針の節番号を表す)

  • 出版者により発売前に刊行予定リストが配信されるが,データ修正に適したメカニズムがなく,事後的なデータ更新が困難である。(3.1)
  • メタデータの流通経路は複雑であり,多くの機関により作成,改変される。複数の機関が関与したデータの利用には,最初のメタデータの訂正後に,未訂正版を元にした拡充版に上書きされる等のリスクがある。(3.2)
  • ISBNの付与慣行が統一されていないため,電子書籍の同定において,識別子としてのISBNの信頼性が低く,タイトルや名称,日付も扱う必要がある。(3.3)

●一般的な推奨指針

  第4章では,一般的な推奨事項として,主に以下の点が示された。

  • 出版者は電子書籍の冒頭に,印刷物同様のタイトル・ページ,タイトル・ページ裏を作成する。(4.1)
  • EPUB3規格(CA1796参照)等に倣って,電子書籍ファイルに機械可読なメタデータを埋め込む。(4.2)
  • 各メタデータ要素により,検索エンジン,購買システム上で書籍を発見・識別可能にする。検索エンジン対策として,schema.orgタグを使用する。(4.3)(4.4)
  • メタデータフィールドとは独立して,レコードID,レコード作成日等のレコード属性を記録する。(4.5)
  • 個別資料が電子書籍であることを明示し,雑誌記事と誤解される可能性のあるフィールドは使用しない。(4.6)
  • 出版者が最優先の情報源であり,データアグリゲーターは出版者と異なるメタデータを配信しない。(4.10)(4.11)

●個別のデータ要素に関する推奨指針

  第5章では,5つの必須メタデータ要素について,各関係者のニーズを整理・調整する形で推奨指針が示された。

  • タイトル
    出版者はBISGのガイドラインに準拠し,発売180日前までに仮タイトルを,120日前までに最終的なタイトルを配信する。(事前データは完全に更新し,出版日以降には配信しない。)
  • 名称
    創作者等の個人や団体の名称は,米国議会図書館名称典拠ファイル(LCNAF)等の公的な典拠ファイルの名称を優先的に使用し,出典を明示する。可能な限りORCIDや国際標準名称識別子(ISNI)等の識別子を付加する。
  • 日付
    「出版日付」(必須),「著作権日付」,「フォーマットの日付」,「更新日付」を記録する。出版日付はフォーマットに関わらずコンテンツが一般に入手可能になる日付,フォーマットの日付は,作品が最初に電子書籍として入手可能になる日付である。
  • 識別子
    可能な限りISBN,OCLC番号(OCN),米国議会図書館管理番号(LCCN),DOIを付与する。ISBNは特に重要であり,ISO2108(E1026参照)及びBISGのガイドラインに従い,内容,版,フォーマットごとに異なるISBNを付与するとともに,印刷版等の関連する書籍のISBNを付加する。プラットフォーム上で提供される電子書籍には,URI/IRI(可能であればDOI)を記録する。
  • 主題
    同一タイトルの異なるフォーマットの資料には,同じ主題を付与する。米国議会図書館件名標目表(LCSH)等の統制語彙を使用し,その出典をバージョンも含めて明示する。

  指針を策定したワーキンググループは,出版者,アグリゲーター,ベンダー,図書館,保存機関等の様々な団体で構成され,検討を通じて相互理解の不足が認識された点,それを踏まえてメタデータのワークフローや,各関係者のニーズの把握・調整に紙幅を割いている点は特筆される。電子書籍メタデータの標準化にむけた第一歩として,関係者間における実践的な事例の共有や合意形成に,指針は重要な役割を果たすと言えるだろう。

Ref:
NISO. E-Book Bibliographic Metadata Requirements in the Sale, Publication, Discovery, Delivery, and Preservation Supply Chain. 2022, NISO RP-29-2022, viii, 44p.
https://doi.org/10.3789/niso-rp-29-2022
BISG; BookNet Canada. Best Practices for Product Metadata: Guide for North American Data Senders and Receivers. 2015, 228p.
https://static1.squarespace.com/static/550334cbe4b0e08b6885e88f/t/55d2277be4b0a2c68568aaec/1439836027770/BISG_Best_Practices_for_Product_Metadata_6.1.15.pdf
BISG. BISG Policy Statement POL-1101: Best Practices for Identifying Digital Products. Revised Publication, 2013, 16p.
https://cdn.ymaws.com/bisg.org/resource/resmgr/Docs/Policy_Statements/BISG_Policy_1101.pdf
電子書籍へのISBN付与に関する国際ISBN機関の見解が示される. カレントアウェアネス-E. 2010, (167), E1026.
https://current.ndl.go.jp/e1026
濱田麻邑. 次世代DAISY規格と電子書籍規格EPUB3. カレントアウェアネス. 2013, (316), CA1796, p. 15-18.
https://doi.org/10.11501/8228834
吉野知義. ONIX:書籍流通における出版社のメタデータ標準化. カレントアウェアネス. 2011, (308), CA1747, p. 11-15.
https://doi.org/10.11501/3192159