E2506 – 学術情報システムのメタデータ収集・作成方針案の作成

カレントアウェアネス-E

No.437 2022.06.23

 

 E2506

学術情報システムのメタデータ収集・作成方針案の作成

佛教大学図書館/国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター・飯野勝則(いいのかつのり)

 

  「これからの学術情報システムのメタデータ収集・作成方針について(案)」(以下「方針案」)は,これからの学術情報システム構築検討委員会(以下「これから委員会」)のもとに設置されたシステムワークフロー検討作業部会(以下「ワークフロー部会」)によって,策定が進められている文書である。筆者はこれから委員会の委員,およびワークフロー部会の主査としてその策定に関与しており,本稿では,その背景と概要について説明したい。

  これから委員会は,「これからの学術情報システムの在り方について(2019)」(以下「在り方(2019)」)において,学術情報システムの5つの「進むべき方向性」を提示している。方針案は,かかる方向性を踏まえたうえで,学術情報システムにおける望ましいメタデータの在り方について,ワークフロー部会としての考え方を示すものである。とくに,教育・研究のデジタルトランスフォーメーション(DX)という視点からは,図書館をめぐるさまざまなシステムやそれらが構成するネットワークにおいて,効率的なメタデータ流通を実現し,利用者が必要とする情報を統合的に発見できる環境を構築することが必要となろう。方針案では,その実現のために,どういったメタデータが必要とされるのか,具体性を帯びた形で表現することを企図している。

  2022年2月18日,ワークフロー部会は,これから委員会のウェブサイト上で方針案のドラフト版を公開した。これは正式版の作成に向け,広く関係者から意見聴取を行うことを目的としたものである。

  ドラフト版では,メタデータを3種類に類型化した。すなわち「物理的な資料」,「電子的な資料」そして「デジタルな資料」である。物理的な資料は,すなわち“Physical”な資料であり,「紙」に代表される有体物の資料を意味する。電子的な資料は,「電子ジャーナル」や「電子ブック」といった,電子の形態で出版される資料のことである。そして,デジタルな資料は,図書館など出版者以外の手によって電子化(デジタル化)された資料を指し,デジタルアーカイブ等で公開される貴重書などは,定義上,この類型に該当するものとした。

  物理的な資料に関しては,2023年度より「日本目録規則2018年版」(CA1951参照)を適用することで,さまざまなシステムやネットワークを介したメタデータの相互運用性を高めることを提示している。また,典拠コントロールの拡大やリンクトデータを介した外部典拠ファイルの利活用などの必要性についても言及を行っている。

  また電子的な資料については,国立情報学研究所(NII)が基盤を提供し,大学図書館が共同で利用することを前提とする「共同利用システム」において,電子ブック等のメタデータを収集し,提供するための仕組みを提案している。具体的には,電子ブックを提供するプラットフォーム等からメタデータを収集することで,図書館での書誌作成といった業務を軽減させることや,電子ブックのチャプターレベルのメタデータを生成することの必要性と,提供を行うための技法等について,ワークフロー部会としての考え方を示している。

  デジタルな資料に関しては,学術機関(大学等)で構築されたデジタルアーカイブに収載されるメタデータの在り方を検討の中心に置いた。これらのデジタルアーカイブのメタデータは,多種多様であり,ジャパンサーチ等の外部システムと切り離されて存在するものが多い。このため,ワークフロー部会では,このようなデジタルアーカイブのメタデータを収集し,ジャパンサーチやウェブスケールディスカバリー,Google等の検索エンジンに流通,利活用させるための仕組みについて提言を行っている。具体的には,共同利用システムを構成する学術機関リポジトリデータベース(IRDB)を「つなぎ役」として仮定し,学術機関のデジタルアーカイブにおける多種多様なスキーマ等によるメタデータを集約する仕組みを作る。そのうえで,IRDBを外部システムに対する,一種のゲートウェイとして機能させることを企図している。

  なお,研究の過程で生成される研究データが,教育・研究DXを推進するうえで不可欠な資料であることは言をまたないが,今回の方針案ではあえて検討の対象に含んでいない。これは,方針案が立脚する「在り方(2019)」で,研究データがスコープとして設定されていなかったためである。

  ドラフト版に対する意見の募集は2022年4月30日に締め切られた。現在はワークフロー部会の中で,寄せられた意見の内容を精査し,ドラフト版への反映を検討している段階である。ワークフロー部会としては,反映および修正が完了しだい,これから委員会に審議を求め,早期の正式版公開につなげたい。

Ref:
“これからの学術情報システム構築検討委員会”. NII.
https://contents.nii.ac.jp/korekara
これからの学術情報システム構築検討委員会. これからの学術情報システムのメタデータ収集・作成方針について(2021)【案】. 28p.
https://contents.nii.ac.jp/sites/default/files/korekara/2022-02/korekara_sw20220218.pdf
これからの学術情報システム構築検討委員会. これからの学術情報システムの在り方について(2019). 2019.
https://contents.nii.ac.jp/sites/default/files/korekara/2021-02/korekara_doc20190215_0.pdf
“「これからの学術情報システムのメタデータ収集・作成方針について(案)【ドラフト版】」を公開しました”. これからの学術情報システム構築検討委員会. 2022-02-18.
https://contents.nii.ac.jp/korekara/news/20220218
“日本目録規則2018年版”. 日本図書館協会. 2022-01-28.
https://www.jla.or.jp/committees/mokuroku/ncr2018/tabid/787/Default.aspx
“大学図書館向け学術情報システムを36年ぶりに一新 学術資料のデジタル化に対応した目録所在情報サービスを2022年から順次運用開始”. NII. 2021-06-17.
https://www.nii.ac.jp/news/release/2021/0617.html
“ひろがる・つながる、その先へ : 学術研究プラットフォームとこれからの学術情報システム”. NII.
https://www.nii.ac.jp/openforum/2022/day4_contents2.html
渡邊隆弘. 『日本目録規則2018年版』のはじまり:実装に向けて. カレントアウェアネス. 2019, (340), CA1951, p. 12-14.
https://doi.org/10.11501/11299455