CA1951 – 『日本目録規則2018年版』のはじまり:実装に向けて / 渡邊隆弘

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カレントアウェアネス
No.340 2019年6月20日

 

CA1951

 

『日本目録規則2018年版』のはじまり:実装に向けて

帝塚山学院大学人間科学部/日本図書館協会目録委員長:渡邊隆弘(わたなべたかひろ)

 

1. NCR2018 の完成

 2018年12月、日本図書館協会(JLA)目録委員会は『日本目録規則2018年版』(NCR2018)の冊子体を刊行し(1)、2019年1月にはPDF版を公開した(2)。『日本目録規則1987年版改訂3版』(3)を刊行した2006年前後から検討を重ね、2013年からはJLA目録委員会と国立国会図書館(NDL)収集書誌部との連携作業として策定を進めてきたものである(E1496参照)。

 NCR2018は、NCRの歴史の中で最も長期にわたって適用されてきた「1987年版」に代わるものである。さらに、FRBR等の概念モデルに準拠し、RDA(Resource Description and Access;CA1766CA1767CA1837参照)との相互運用性の担保をめざしたことで、これまでのどの版よりも抜本的な見直しとなった。

 その構成・内容や策定経緯については、与えられた紙幅には収められないため別稿(4)及び規則自体(5)に譲り、本稿では今後の実装に向けての課題等について述べることとしたい。規則の実装には様々な選択肢があり、データ作成機関によって判断されるべきものである。なお、本稿の記述の多くは私見であり、目録委員会の公式見解ではないことをお断りしておく。

 

2. 実装に向けた動向

 抜本的な見直しを行っているため、実装に一定の時間を要するのはやむを得ない。現時点で、NCR2018年版の実装スケジュールを明示しているのは、NDLのみである。NDLは2018年3月に発表した「書誌データ作成・提供計画2018-2020」(6)において、2021年1月からのNCR2018適用を目指すとした。これに向けてNDLでは適用細則の作成を開始しており、この細則は「国の中央図書館として書誌データ作成の標準化を推進する役割を担うNDLの使命」との認識のもとに公開される予定である(7)。2019年2月に開催された「平成30年度書誌調整連絡会議」で適用細則作成の概要に関する報告があり、2019年10月以降に順次公開していくとの予定も示された(8)。  

 同会議では、他機関からもNCR2018適用の見通しに関する言及があった(9)。国立情報学研究所(NII)のNACSIS-CATについては、軽量化・合理化を目指す大きな見直し(「CAT2020」)が予定されているが(CA1862E2107参照)、この段階では適用する目録規則の変更は行われない。次の更新タイミングは2022年で、そのための検討は2020年以降になるとの説明であった。また、民間のMARC作成機関(TRC、トーハン)でも検討は開始されているが、スケジュール等を公表できる段階にはないとのことである。なお、慶應義塾大学図書館は2017年から洋書にRDAを適用しているが(10)、2019年4月から和書の適用規則もRDAに切り替え、この際そのまま適用しがたい部分はNCR2018を参考にするとの説明があった。同館のRDA適用は体現形の記述部分を中心とするやや限定的な形であるため、和書への適用にあたってもNCR2018の全体が参照されるわけではないと思われるが、実際の目録作成にNCR2018の規定が考慮される最初の例といえるかもしれない。

 

3. 実装を考える上での諸課題

 RDAにも言えることだが、NCR2018は従来のNCRと比べ自由度がかなり高く、適用すると決めただけではデータ作成作業を行えない。大幅に増強されたエレメント(総数は369個)の多くは入力が任意であり、また記録の方法にも別法や任意規定が多いため、各データ作成機関では適用細則の作成など、入力方針の検討が欠かせない。さらに、NCR2018は規定対象をエレメントの記録の範囲と方法(メタデータの意味的側面)に特化し、ISBD区切り記号法のようなエンコーディング方式(メタデータの構文的側面)は全く規定していないため、用いる書誌フレームワークを各機関で選定する必要がある。

 以下、実装を検討していく際に留意すべきと思われる視点をいくつか(網羅的ではない)、私見として述べる。

 

(1) 機械可読性の確保

 FRBR等の概念モデルへの準拠およびRDAとの相互運用性の担保に伴って、NCR2018の特徴はいくつか挙げられるが、それらの多くに通底する志向として、データの機械可読性の確保がある。図書館の目録サービスにおいても、Linked Open Data(LOD)の提供による外部活用(CA1825参照)においても、システムが容易に理解・操作できるデータであることは最重要の条件であり、この視点をもった実装が求められる。

 一例を挙げると、記述対象が源氏物語を原作とする漫画作品(著作)の場合に、原作情報は「著作間の関連」エレメントに記録するが、その際NCR2018は、①「漫画化の原作(著作):国立国会図書館典拠ID:00633493」(識別子による記録。1つ目のコロンの前は関連の詳細な種類を表す「関連指示子」)、②「漫画化の原作(著作):紫式部.源氏物語」(典拠形アクセス・ポイント(AAP)による記録)、③「『源氏物語』(紫式部)の漫画化」(非構造記述による記録)など、いくつかの方式を提示している(11)。どの方式も規定上正しいが、③の非構造記述ではリンク機能の提供につながらず、機械可読性の観点からは望ましくない。非定型の表現でしか実相を伝えがたい複雑な関係性もあり、そうした場合に③の方式が役立つが、通常の場合にも③を用いていては、従来の規則で注記に記録していたのと変わらない。NCR2018の「新しさ」を十分発揮できる選択肢がとられることが望ましい。

 

(2) 著作の典拠コントロール

 NCR2018ではRDAと同じく、体現形と著作を結びつける関連の記録をコア・エレメントとしており(12)、全ての著作の典拠コントロールを求めている。著作(および、必要に応じて表現形)の典拠コントロールを行うことにより、FRBRモデルに基づいた構造的な資料把握・提示が可能となる。

 しかしながら、全著作に独立した典拠データを作成することは、RDAを適用する海外の図書館においても行われていない。RDAにおいてもNCR2018においても、創作者が明らかな著作に対する典拠形アクセス・ポイントは、「野坂, 昭如, 1930-.火垂るの墓」(NCR2018の例)のように、創作者のAAPと当該著作の優先タイトル(従来の統一タイトル)とを結合した形を通常用いるが(13)、このうち創作者のAAPは資料と個人・家族・団体との関連(従来の著者標目)として別に管理されている(14)。また優先タイトルも、別途必ず記録されている体現形のタイトル(本タイトル)と一致する場合も多い。こうしたことから、複雑な場合にのみ典拠データを作成し、それ以外は書誌データ内で完結させる運用が多く見られる。

 NCR2018の実装においても、著作の典拠データ作成は限定的に行うこととするのが現実的であろう。どこまでを作成範囲とするかは、各データ作成機関で決定する必要がある。なお、書誌データ内で完結させる場合も、著作の情報が不要なわけではなく、データ内の他の情報の組み合わせで当該体現形が属する著作のAAPが認識できなくてはならない。そしてその認識は、機械可読性をもって行える必要がある。

 

(3) 書誌フレームワーク

 NDLは、NCR2018に基づくデータを格納する書誌フレームワークとして、一定の見直しを前提に、現行のMARC21を引き続き用いるとしている (15)。管見の限り、北米等におけるRDAの適用において、MARC21以外の書誌フレームワークを用いた実装は把握できない。米国議会図書館(LC)により2011年から、MARCに替わる書誌フレームワークBIBFRAME(CA1837参照)の開発が進められているが、RDAに密着した仕様ではなく、入力・格納用のフレームワークとしては疑問がある(16)。NDLでは比較的早くからBIBFRAMEに注目していたが、「書誌データ作成・提供計画2018-2020」では「将来的には、書誌データの流通において、MARCに替わる新しい書誌フレームワークが主流となる可能性は高い」との認識を示しつつ、当面はMARC21を採用するとした。合理的な判断と思われる。

 とはいえ、MARC21を用いたNCR2018データの作成には、問題点もある。一例を挙げると、先に例示した著作『火垂るの墓』に対する典拠レコードを作成する際、そのAAPはタグ100(個人名標目)を用いて「$a 野坂, 昭如$d1930-$t火垂るの墓」のように表現されるのが一般的である。すなわち、著作に対するAAPではあるが、創作者である個人に対するAAPに付随する形で優先タイトルを扱う。問題は、複数の創作者による著作の場合である。RDAでは基本記入方式の伝統に則って(例えば最初に表示された)一人の創作者のAAPを用いる形を本則とするが、NCR2018では「園部, 三郎, 1906-1980; 山住, 正己, 1931-2003. 日本の子どもの歌」のように各創作者を列挙する形を本則とした(17)。タグ100に複数の個人名を入れることは想定されておらず、またタグ100自体の繰り返しも許されないため、何らかの拡張なしに本則に従った形を入力することは不可能である。書誌フレームワークに制約を受けて意味的側面が十分に表現できないことは望ましくないが、外部のデータとの相互運用性の問題もあり、難しい判断を迫られることもあると思われる。

 

4. NCR2018の「はじまり」

 本稿のタイトルに「はじまり」と入れてみた。10年以上の作業を重ねて完成したわけであるが、規則は実際に使われてはじめて意味がある。すなわち、策定は「助走」であって、完成がスタート地点、実装こそが「本番」である。本稿ではNCR2018の実装について、現段階の動向と筆者が考える課題をまとめてみた。

 スムーズな実装には、規則がアクセスしやすいものであることも重要である。内容の適切性や分かりやすさに関する評価とは別に、大部の規則を冊子体とPDFという線型的なテキストでの提供としていることへの批判もあるかもしれない。RDAのようなウェブ・サービスの提供を求める声もあったが、今回は提供コストを圧縮して誰でも自由に参照できる(PDF版は無料公開)形を優先した。一方で、規則を多少とも使いやすいものとする材料も提供したいと考えており、2019年3月に「エレメント・語彙等データ提供」として、NCR2018で規定している実体、エレメント、語彙のリストの用語、関連指示子について簡易な機械可読データ(1,356件)の提供を開始したところである(18)

 2019年度以降も当然ながら目録委員会の活動は続いていく。NCR2018の維持・普及活動等にあたりつつ、実装に向けた動きにも注意を払っていきたいと考えている。

 

(1) 日本図書館協会目録委員会編. 日本目録規則. 2018年版. 日本図書館協会, 2018, 761p.

(2) 日本図書館協会目録委員会. “日本目録規則2018年版”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/mokuroku/ncr2018,(参照 2019-03-28).

(3) 日本図書館協会目録委員会編. 日本目録規則. 1987年版改訂3版. 日本図書館協会, 2006, 445p.

(4) 渡邊隆弘. 新しい『日本目録規則』のすがた:何が新しくなるのか. 現代の図書館. 55(4), 2017, p. 167-176.
https://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/mokuroku/gendai_no_toshokan_55-4watanabe.pdf,(参照 2019-03-28).
日本図書館協会目録委員会.『日本目録規則2018年版』:完成までの道程. 図書館雑誌. 113(1), 2019, p. 32-33.
https://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/mokuroku/article201901.pdf,(参照 2019-03-28).
その他、関係文書・記事等を以下のウェブページに掲載している。日本図書館協会目録委員会. “日本目録規則(NCR)2018年版関連情報”. 日本図書館協会.
http://www.jla.or.jp/mokuroku/ncr2018,(参照 2019-03-28).

(5) 「序説」で本規則の背景や特徴について、「第0章 総説」で本規則が依拠する概念モデルや基本概念について説明している。また、「目録委員会報告」で策定経緯を説明している。

(6) “国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2018-2020”. 国立国会図書館. 2018-03-23.
https://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bibplan2020.pdf,(参照 2019-03-28).

(7) 前掲.

(8) “平成30年度書誌調整連絡会議報告”. 国立国会図書館.
https://www.ndl.go.jp/jp/data/basic_policy/conference/2018_report.html,(参照 2019-04-20).

(9) 前掲.

(10) 河野江津子. 新目録規則RDAの導入について. MediaNet. 2017,(24), p. 52-55.
http://www.lib.keio.ac.jp/publication/medianet/article/pdf/02400520.pdf,(参照 2019-04-21).

(11) 第43章(資料に関するその他の関連)中の、#43.1(著作間の関連)に規定されている。また、関連指示子「漫画化の原作(著作)」は、付録C.1(関連指示子:資料に関するその他の関連)中の#C.1.1.1(著作の派生の関連)に挙げられている。

(12) 第42章(資料に関する基本的関連)中の、#42.0.2.1(エレメント)に規定されている。エレメント「体現形から表現形への関連」「表現形から著作への関連」を共に記録するか、「体現形から著作への関連」を記録するか、どちらかを行うことを求めている。

(13) NCR2018では、セクション5(アクセス・ポイント)に位置する第22章(著作)中の、#22.1A(典拠形アクセス・ポイントの形)等に規定されている。なお、読みは省略した。

(14) NCR2018では、第44章(資料と個人・家族・団体との関連)中の、#44.1.1(創作者)に規定されている。

(15) “国立国会図書館書誌データ作成・提供計画2018-2020”. 国立国会図書館. 2018-03-23.
https://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bibplan2020.pdf,(参照 2019-03-28).

(16) 谷口祥一. BIBFRAMEとその問題点:RDAメタデータの観点から. 情報管理. 58(1), 2015, p. 20-27.
https://doi.org/10.1241/johokanri.58.20,(参照 2019-03-28).

(17) #22.1.2(複数の創作者による共著作)に規定されている。

(18) 日本図書館協会目録委員会. “NCR2018年版エレメント・語彙等データ提供”. 日本図書館協会.
https://www.jla.or.jp/Portals/0/data/iinkai/mokuroku/ncr2018/tabid/795/Default.aspx,(参照 2019-03-28).

 

 

[受理:2019-05-08]

 


渡邊隆弘. 『日本目録規則2018年版』のはじまり:実装に向けて. カレントアウェアネス. 2019, (340), CA1951, p. 12-14.
http://current.ndl.go.jp/ca1951
DOI:
https://doi.org/10.11501/11299455

Watanabe Takahiro
A Starting Point to Implementation of Nippon Cataloging Rules(NCR) 2018 edition