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カレントアウェアネス
No.311 2012年3月20日
CA1766
動向レビュー
RDA:ウェブの世界に乗り出す目録規則(解説)
「英米目録規則」(Anglo-American Cataloguing Rules:AACR)の第2版(AACR2)の後継規則である「資源の記述とアクセス」(Resource Description and Access:RDA)が、冊子体ではなくウェブ上での使用を前提としたツールキットの形式で2010年6月23日に刊行された(1)。RDAは、AACR2と同様に、英米圏(Anglo-American)の4か国(米国、英国、カナダ、オーストラリア)の図書館協会、米国議会図書館(Library of Congress:LC)及び英国図書館(British Library:BL)の代表者からなるRDA開発合同運営委員会(Joint Steering Committee for Development of RDA:JSC)という国際組織が開発した国際目録規則である。
RDAの全体構成が決定した2007年10月に、上記4か国の国立図書館は、RDAの採用は4か国が同時に実施する旨の共同声明を発表した。しかし、それから3か月後の2008年1月9日に、LCの諮問機関「書誌コントロールの将来に関する米国議会図書館ワーキンググループ」が最終報告書“On the Record”を提出し、その中でJSCに対して、「RDAへの移行のための利用及び経営上の論拠(ビジネスケース)が十分に明確化され、想定される利点が説得力を持って提示され、RDAで提案されている規定に関連するFRBR(書誌レコードの機能要件)の大規模で包括的なテストが実際の目録データを対象として行われ、その結果が分析される」まで、「RDAに関する作業を中断すること」という勧告を行った(2)。
この勧告に対して、米国の3つの国立図書館(LC、農学図書館、医学図書館)は、この新しい規則を採用すべきかどうかを評価するために、米国RDAテスト調整委員会を立ち上げ、2010年7月から2011年3月までの9か月間にわたって全国規模のRDAテストを実施した。そして2011年6月20日にそのテスト結果と勧告を示した報告書がウェブ上に公表された(E1191参照)(3)。この報告書は、RDAは現時点では多くの欠陥があるため、そのままの形では採用できないとして、「明瞭で、曖昧でなく平易な英語」での規則の書き直しを含めた、かなり多くの作業・活動を期限内に完了することを条件に、米国の3国立図書館は2013年1月以降にRDAを採用すべきであるという条件付き採用勧告を含んでいた。3国立図書館はそれを了とした。ここに翻訳された論文は、このようなRDAの策定の経緯、その意義、今後の課題を、RDA策定と適用のまさに渦中にいる当事者が総体的に解説したものである。
著者のティレット(Barbara B. Tillett)氏は、書誌的実体の研究者にして、LCの収集書誌局の政策・標準部長の職にあるとともに、JSCのLC代表であり、かつ条件付き採用勧告を行ったRDAテスト調整委員会のメンバーでもある。また、IFLA(国際図書館連盟)においては、RDAの基盤となっている1998年のFRBR及び2009年のFRAD(典拠データの機能要件)の策定メンバーであり、2009年の「国際目録原則覚書」のまとめ役であった。さらに2011年11月には、RDA改訂に向けて、JSCの委員長に新たに就任した。
1978年に策定されて以来、AACR2は電子資料やネットワーク情報資源といった資料種別が目録対象に追加されるごとに、revisionという名の部分的な改訂(1988年、1998年、2002年)を繰り返してきた。そして、AACR2に基づく膨大な数の目録データが図書館ネットワークを通じて世界中に広まり利用されてきた。しかし、ティレット氏が言うように、「図書館は、他の情報提供サービスによって置き去りにされる危機にあり、ウェブ上の情報コミュニティにおけるサービスの中で存在感を示すことができないでいる」という状況が生まれている。このような危機意識のもとに開発されてきたのがRDAであり、その開発はまさに現在進行中である。
RDAの開発と並行して、LCは2011年5月13日に「書誌フレームワークの変革」と題する声明(3)を発表し、MARC21フォーマットをウェブ上での利用に適した新たなフォーマット(Linked Dataなど)に変更するための検討を開始した(E1246参照)。目録作成ツールのタイトルから「目録」(Cataloguing)という語と「規則」(Rules)という語が除かれたことから明らかなように、RDAは、「目録作成のツール」から「情報資源発見のためのデータ作成のツール」へと変貌を図り、「カード目録時代からの表現方法及び列挙事項の直線的な表示」をベースとした記述と標目という枠組みから、メタデータ・レジストリに登録された要素に基づくデータ付与への移行を目指し、まさに大きく動き出そうとしている。また、2013年半ばに現行の「アルファベット順目録規則」(Regeln für die alphabetische Katalogisierung:RAK)からRDAに移行する方針を発表したドイツ国立図書館が、2011年11月にJSCのメンバーに加わっており、英米圏を越えた国際目録規則の具体化に向けた動きも始まっている。
大阪学院大学:和中幹雄(わなか みきお)
(1) RDA Toolkit. http://access.rdatoolkit.org, (accessed 2012-01-28).
(2) “On the Record: Report of The Library of Congress Working Group on the Future of Bibliographic Control”. Library of Congress. 2008-01-09.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/lcwg-ontherecord-jan08-final.pdf, (accessed 2012-01-28).
なお、日本語版として以下がある。
“On the Record: 書誌コントロールの将来に関する 米国議会図書館ワーキンググループ報告書”. 国立国会図書館.
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/pdf/ontherecord_jp.pdf, (参照 2012-01-28).
(3) “Report and Recommendations of the U.S. RDA Test Coordinating Committee”. Library of Congress. 2011-06-21.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/rda/source/rdatesting-finalreport-20june2011.pdf, (accessed 2012-01-28).
(4) “Transforming our Bibliographic Framework: A Statement from the Library of Congress (May 13, 2011)”. Library of Congress. 2011-06-16.
http://www.loc.gov/marc/transition/news/framework-051311.html, (accessed 2012-01-28).
和中幹雄. RDA:ウェブの世界に乗り出す目録規則(解説). カレントアウェアネス. 2012, (311), CA1766, p. 16-17.
http://current.ndl.go.jp/ca1766