CA1767 – 動向レビュー:『RDA』:図書館をセマンティック・ウェブに適したものに / バーバラ B. ティレット

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カレントアウェアネス
No.311 2012年3月20日

 

CA1767

動向レビュー

 

『RDA』:図書館をセマンティック・ウェブに適したものに*

 

要旨


 目録作業とは単に目録を作成するだけではない。利用者のニーズに合う情報へのタイムリーなアクセスを提供することが目的である。図書館、文書館、博物館によって収集された資源を識別する仕事は、多くの目的(利用者タスク)で再利用されうる豊かなメタデータをもたらす。その仕事は、資源を記述し、個人や家族、団体、他の資源との関連を示し、それによって利用者が資源の代替物の中を検索し、必要とする情報により早くたどりつくことを可能にする。資源のライフサイクルを通して作成されたメタデータは、資源の作成者から出版者、書籍取次店、書店、資料のアグリゲーター、システム・ベンダー、図書館、その他の文化機関、これらの資源のエンドユーザーまで、多くのタイプの利用者にとって特に価値がある。新しい国際目録規則、『RDA:資源の記述とアクセス』は、デジタル環境に適した、相互に連結したメタデータを生み出し、図書館をセマンティック・ウェブに適したものにして、基本的な利用者タスクを満たすように考案されている。

 

序文

 もし図書館を存続させるのであるならば、我々は図書館を利用者のニーズに合致したものにしなければならない。ますます多くのサービスがウェブ上に存在するようになり、情報資源に関して必要なものは全てウェブ上にあると多くの人が期待している。

 図書館はウェブ上での存在感を得るために大きな進歩を遂げてきたが、古いカード目録の電子版を提供しているにすぎない図書館も多い。所蔵資料を列挙して直線的に表示するという目録のアプローチは、記述された資源のデジタル版へのリンクを含むことはあっても、一般的には、他の関連資源やそれを超えるものへの機械処理可能な関連付けについては除外している。列挙を基本とした目録を構築するというアプローチは、コンピュータ・システムが理解できるような識別特性と、個人、家族、団体及び他の資源との関連の明示による資源記述へと拡張する必要がある。そうすることで、利用者は必要とする情報をより速く得るためにリンクされた資源の代替物の中を検索することができる。それはまた、目録作業をより容易にするためのより良いシステムへ至ることにもなる。

 2010年中頃から、『RDA: 資源の記述とアクセス』(Resource Description and Access:RDA)は過去の目録作業の慣行に代わるものを提供してきた。資源識別のためのこの新しい規則は、長年の国際協力から生まれ、デジタル環境に適した、相互に連結したメタデータを生み出し、図書館をセマンティック・ウェブに適合したものにする方法を提供する。

 

我々はどのようにこの地点に到着したか?

 『RDA: 資源の記述とアクセス』は『英米目録規則』(Anglo-American Cataloguing Rules:AACR)の伝統の上に成り立っている。RDA開発のための合同運営委員会(Joint Steering Committee for Development of RDA:JSC)(前AACR改訂合同運営委員会)は、AACR2(AACRの第2版)が20世紀の間は役に立ってきたが、21世紀には役に立つ規則ではなくなるという懸念が膨らんでいると1990年代には認めていた。AACR2は、インターネットやコンピュータ・システムに適したメタデータがない時代に、カード目録時代からの表現方法及び列挙事項の直線的な表示で構築されたものだ。

 1990年代、AACR2が、特に新しいデジタル資源へ対応するために改訂され続けるにつれてますます複雑になっていることについて、JSCには多くの不満が寄せられた。論理的構造が欠如し、簡素かつ一貫性のあるアプローチのための共通性と基本原則よりも各種資料のための個別の規則に焦点を当てているAACR2に対して、懸念が表明された。AACR2は資料の種類ごとに編成されていたが、このことは多種多様な特徴をもつ電子資源の目録作業において問題を引き起こした。別の不満はAACR2が書誌的関連に十分に対処していないということだった。それに対して、ウェブとは関係性、すなわち相互に連結した情報のネットワークが全てである。AACR2の強い英米偏重は、それが世界中で使われているとしても、問題点として挙げられた。書誌データがMARC(MAchine Readable Cataloging)(1)フォーマット化されたレコードを有する独自の世界の中にあって、その他の情報コミュニティのデータから分離されていることも広く認識されていた。MARCは世界中の図書館の間で広く使われているが、より大きな情報コミュニティでは使われていない。

 資料を記述するためのAACR2の用語法(「一般資料種別」(general material designation:GMD))については、それが内容種別とキャリア・データを混合していたため、不満があった。GMDは、適用されるとしても不規則で、北米の目録作成者はその他の地域の目録作成者とは異なるやり方で実践していた。

 AACR2に対するこれらの不満に応えるため、JSCは、1997年にトロントで、世界中の目録規則作成者と専門家のための「AACRの原則と将来展開」についての国際会議を招集した。トロント会議の結果、具体的な問題が確認され、そして、将来の方向性のために戦略計画が示された。AACR2と同じ構造を保持しつつ、勧告された変更を取り入れて、AACR3の開発が始まった。

 世界的にコメントを求めてAACR3の最初の草稿が公表され、2005年4月までに、JSCにはその草案に対して非常に否定的な反応が寄せられた。JSCはIFLA(国際図書館連盟)における国際的な取り組みから生まれた新しい概念モデルと語彙を受け入れるまでに至っていないと、人々が感じたことは明白だった。特に、IFLAが提案した概念モデルFRBR(書誌レコードの機能要件)とFRAD(典拠データの機能要件)(2)に対してより多くの注意を払うようにという要請があった。

 これらの概念モデルは、内容とキャリアに焦点を当てて資源を記述することに、また、識別特性の観点から、個人、家族及び団体と資源とを関連付けて見ることに、新しい展望をもたらした。FRBR実体関連モデルとそれらを記述するのに使われる語彙は、草案に反応を示した国際的なコミュニティにとって重要だった。おそらく、その概念モデルの最も重要な側面のひとつは、発見、識別、選択、入手という基本的な利用者タスクに見合うように、資源の記述において識別特性を対応させることに焦点をあてたことだった(3)。利用者がまず優先される。それこそが、我々が目録作業を行う理由である。

 より広い情報コミュニティにおいて、ウェブで使用されるメタデータ・サービスとさらに互換性を持つために、列挙表示の積み重ねよりも、メタデータへの要素ベースのアプローチへ移行すべきという要求もあった。これはIFLAの概念モデルの実体関連アプローチにうまく適合した。

 この時期はまた、「国際目録原則」(4)(International Cataloguing Principles:ICP)策定へ向けてIFLAの作業がかなり進行していた。IFLA内部でさえ、1961年の「パリ原則」はデジタル環境に照らして見直す必要があると考えられていた。2003年から2007年にかけて、世界中の目録規則作成者と目録の専門家が集まって5回の地域会議が開催され、新しい「国際目録原則」の2008年版が開発された。この原則はRDAの基礎の一部となっている。

 RDAは、英米そしてそれを超えた世界中の図書館及び他の情報機関(出版者、書籍商、文書館、博物館、ウェブ・サービス開発者等)コミュニティからのコメントに応じて生まれたものである。RDAは、出版者とベンダー由来の識別情報をそのまま再利用し、図書館だけでなく情報連鎖の中の全てのステークホルダーによる資源の記述と関連付けを基にする、という考えの上に築き上げられている。

 

協同

 トロント会議の後、逐次刊行物について適切に対処していないAACR2に対する懸念が代表者の会議で取り上げられた。その結果がISBD、ISSNとAACR2の調和であり、その議論はRDAに照らして今年(訳者注:2011年)再開される。

 JSCはまた、内容、媒体及びキャリア種別のための新しい語彙の開発をともに進めるために、出版業界のような様々な専門的なコミュニティと多くの協同を始めた。その結果が、RDA/ONIXフレームワークと、一貫したデータを共有するための統制語彙のレビュー及び改訂の計画だった。

 2003年に、JSCの代表者はダブリン・コア、IEEE/LOM及びセマンティック・ウェブ・コミュニティの代表者たちとロンドンで会合し、その結果、RDAレジストリとRDAのための図書館アプリケーション・プロファイルを開発するためにDCMI/RDAタスク・グループが立ち上がった。図書館のデータをセマンティック・ウェブ環境でアクセスできるようにすることへの第一歩として、RDAの統制語彙とエレメント・セットは、現在、ウェブ上でレジストリとして使用可能となっている。

 JSCはまた、様々な図書館及び文書館コミュニティと会合し、コレクションを記述するためのより原則に基づいたアプローチについて議論を始めた。その議論から生じた変化の一例は、利用者によってより理解可能で、包含する著作をより正確に示すことができるようにするために、聖書と聖書の各巻を識別するアプローチであった。JSCは、RDAのさらなる改良のために、法律、地図、宗教、音楽、貴重書及び出版の各コミュニティとその議論を再開している。

 

技術的な発展

 書誌データの連結と検索とを可能にするために、FRBRベースのシステムが誕生して10年以上が経ち、この間に世界中で試行され、また実際に使われてきた。いくつかの例を挙げれば、オーストラリア国立図書館によって開発されたシステム、VTLS 社のVirtuaシステム(タイトル変遷を通じたAtlantic誌の毎月の号全てのFRBR連結を見よ)、スウェーデン国立図書館のLinked Dataサービス、インディアナ大学のVariations3プロジェクトの音楽関係目録等がある。ダブリン・コア抽象モデルはFRBRを基礎としてできており、また、World Wide Web Consortium(W3C)内の現在の作業として、Library Linked Data Incubator Groupのような、図書館のLinked Dataを使うことの可能性を探るものがある。RDAにより我々はそのような領域に入ることになる。ケント州立大学(5)とリュブリャナ大学による最近の研究論文等は、FRBRの使用が将来の目録作業のための概念的基礎であることを再確認している(6)

 図書館がウェブ上のその他の情報コミュニティに加わること、すなわち、我々の専門知識、我々の統制(多言語)語彙及び組織化の技能を共有することは重要である。RDAのエレメントベースのアプローチは、従前の目録規則を用いて行っていたよりもうまく、個人、家族、団体、また著作について、機械がより容易に利用できる方法で識別しやすくする。我々は、従来の典拠ファイルからの統制語彙とともに、RDAのための統制語彙をウェブ上にレジストリとして既に掲載し始めている。

 たとえば、我々は、現在数多くの国立図書館等の機関の典拠データをバーチャル国際典拠ファイル(VIAF、URLはhttp://viaf.org)を通じて自由に利用できる。現在VIAFは、個人、団体/会議、及び統一タイトル(FRBRの用語における「著作」と「表現形」)という実体タイプのための、名称と識別するデータを含んでいる。VIAFは、図書館のメタデータが伝統的な目録を超える仕方でいかに再利用され表示されることができるかを示している。個別のURI(Universal Resource Identifier)を各々の情報に割り当て、利用者が好む言語と文字を表示するための切換メカニズムとして機能する可能性を持つ多言語かつ多種類文字の基盤を提供している。VIAFは様々なスキーマやMARCのような交換フォーマットの典拠データを扱うことができるが、RDAと同様に、明確に識別されたデータを持つことで、VIAFや今後のLinked Dataシステムのようなサービスが、個人、団体、著作等を記述するための詳細な識別特性を利用しやすくする。それにより、機械がそのデータを使って関連した情報をリンクし、利用者が望む情報を表示することがより容易になるだろう。

 RDAレジストリは、本タイトル、出版日、数量等といった記述及びアクセスのエレメントのための用語を含む。また、コンピュータ・ディスク、冊子、マイクロフィッシュ、ビデオディスク等を含むキャリア種別を記述する用語のような詳細なエレメントのための値もある。それらの用語はオープン・メタデータ・レジストリ(7)に掲載され、全ての用語にURIが与えられ、ウェブ・サービスによるさらなる利用を可能にするためにセマンティック・ウェブで使うことができる。これにより、図書館コミュニティは、その資源へのアクセスを、図書館だけが使うデータのサイロから、ウェブ上のより広い情報コミュニティへ移すようになる。

 

それで、違いは何か?

 AACR2は基本的には1961年のIFLAパリ原則に基づくと言われていたが、実際のところ、基づいている原則が何であるか目録作成者に示されてはいなかった。RDAはIFLAの「国際目録原則」に基づくのみならず、そのエレメントのセクションごとに原則を示している。 たとえば、RDAは「表現性」というICPの原則に従っており、それは、記述されるデータ(本タイトル、責任表示、出版事項等)には見たとおりのものを記述するよう指示している。このことは、時間を節約し、資源の作成者、出版者またはベンダー由来の既存のメタデータを活用していくことにつながる。

 「用語法の一般性」(Common usage)の原則があるが、それが意味するところは、s.l. やs.n. のようなラテン語の省略形はもはや用いられないということである。目録作成者の中にさえ、それらが何を意味しているか分からない者がいた。また、col. やill. のような利用者が分からない英語の省略形ももはや使われていない。

 RDAでは、どのくらい記述及びアクセスが保証されるかについての決定のうちいくつかは、目録作成者の判断に依拠する。たとえば、著者や作曲家等の記述を最大3人までとする、いわゆる「3のルール」は、今や本則ではなくオプションであり、RDAは利用者にとって重要な、個人、団体、家族の名称へのアクセスを奨励している。RDAは、どのような識別特性を提供すべきなのかということだけではなく、なぜそれを提供しているのか――利用者のニーズを満たすために――ということも認識するよう目録作成者の判断力を発達させるために、あらゆる記述及びアクセスのエレメントを関連するFRBRの利用者タスク(発見、識別、選択、入手)へ結びつけている。

 RDAでは、含まれている著作及び表現形、また適切である場合には著作の作成者について、名称を挙げることが要求される。「基本記入」の考え方は消えている。しかしながら、MARCフォーマット環境にとどまっている間は、最初に挙げられた作成者の名称を記録するために基本記入のMARCタグを使用するだろう。

 RDAは典拠データのための指示を提供するが、それはAACR2では扱われていなかったものである。RDAでは、個人、家族、団体、著作、表現形等を含む実体を識別するために、与えられなければならない「核」となる識別特性(たとえば名称のような)が示されている。さらに、他の特性も、すぐに利用可能な場合には提供されることになる。たとえば、団体の本部の所在地が、あるいは、表現形のためにテキスト、音楽演奏、静止画、地図のような内容種別が、含まれることがある。

 これらの識別特性、あるいはRDAにおけるエレメントは、MARCベースの環境にとどまる間は作成する必要がある典拠形アクセス・ポイントとは区別される。RDAは、 典拠形アクセス・ポイントを確立する方法を述べる一方で、典拠形アクセス・ポイントを要求はしない。その代わりに、実体を発見し識別するために必要な識別特性が、検索クエリと結果表示のための必要に応じて選択可能になるような未来に、RDAは関心を向けている。

 また、ウェブにとって非常に重要なことだが、RDAは関連を提供する。ウェブとは関連が全てである。RDAは、個人、家族または団体が、記述される資源に関して果たす役割を明確に述べるための関連指示子を提供する。映画とそこから派生した著作との関連、ある著作とそれに基づく図書との関連、音楽作品やその台本と文字著作及び脚色作品等との関連のように、様々な著作がどのように関連しているかという記述をRDAは可能にする。逐次刊行資料の個別の号を、タイトル変遷を通した連続した関連において結び付ける。RDAが備える関連は、含まれた知的・芸術的内容を、紙、デジタル、マイクロフォーム等の様々な物理的な体現形に結び付ける。

 

RDAツールキット

 RDAの指示は「RDAツールキット」としてウェブ・ベースで提供されている。RDAは本でも利用可能だが、関連した指示を検索できるよう様々なセクションの間にハイパーリンクが張ってあるウェブ・ツールとして設計された。RDAツールキットにはまた、MARCフォーマットとの相互のマッピングがある。開発者が製品からRDAの指示へのリンクを設定するツールがある。目録作成者が自らの手順をRDAの指示とMARCフォーマットへリンクするツールがある。RDAツールキットを通して自由にアクセスできる米国議会図書館(Library of Congress:LC)が定めた指針類もあり、また、国ごとの、地域ごとの、あるいは館ごとの使用のための指針類も追加できる。RDA ツールキットのウェブサイトは、http://www.rdatoolkit.org/である。

 

米国RDAテスト

 LCは、2007年に、英国図書館、カナダ国立図書館・文書館及びオーストラリア国立図書館との共同声明において、RDAを適用することを公表したが(8)、その公約は延期を余儀なくされた。RDAに関する全ての作業を中断するよう勧告した、書誌コントロールの将来に関するワーキンググループ(9)からLCへの2008年の報告書に応じて、LCは米国国立医学図書館及び米国国立農学図書館と共に、この新しい規則を適用すべきか否かを探るためのRDAテストを開始した。このテストは、適用に当たって技術面、運用面、財政面での影響についての情報を集める目的もあった。

 テストに備えて、LCは「研修担当者を研修する」ためのモジュール(10)と具体例を提供し、それはウェブキャスト、PowerPoint資料及びWord文書としてパブリックドメインで自由に利用できるようになっている(11)。LCの政策・標準部もメール・アドレスLChelp4rda@loc.govを用意し、世界中の誰もがRDAの指示とLCの方針について質問可能なようにしている。テストのための最初の方針決定は、ウェブサイトとRDAツールキットにも掲示された。そうしたLCの方針決定は、共同目録作成プログラムとの議論や、カナダ国立図書館・文書館及びオーストラリア国立図書館での適用決定に関する予備的提言とともに、テスト結果と参加者からのフィードバックを受けて、現在も調整されている。

 26機関の米国RDAテスト参加者は、様々な規模やタイプの図書館だけでなく、文書館、博物館、書籍商、ライブラリー・スクール、システム・ベンダー、コンソーシアム及び共同目録作成プログラムの集中プロジェクトを含んでいる。彼らは10,570の書誌レコードと12,800の典拠レコードを作成し、8,000以上の調査を行い結果を文書にまとめた。そのデータの分析により、RDAツールキットや指示に用いられる言葉への必要な改善に役立つフィードバックはもちろん、現在のMARCフォーマットを超えるための提案ももたらされた。

 テストの報告書は、諸条件が満たされたら2013年1月以降にRDAを適用するよう勧告した(12)。それらの条件は、JSC、RDAツールキットを作製した米図書館協会(ALA)出版部、システム・ベンダー、共同目録作成プログラム、また、LC、米国国立医学図書館及び米国国立農学図書館の上級管理職に対して勧告として示された。

 

RDAの利点

 米国でのテストの参加者は、RDAを使うことの利点を次のように報告した。

「利点

RDAへ移行することの利点を挙げたRDAテスト参加者のコメントは、次のように言い換えられる。

  • RDAは、利用者タスクに焦点を合わせ、世界において物事の識別特性とその関連をどのように見るかという点で、重要な変化をもたらす。
  • RDAは、我々がどのように書誌のメタデータを利用し、また再利用するかという点に新しい見方を提供する。
    • RDAは、直線的なカード目録のための段落形式の記述を作成していたカード目録の時代から、利用者へ提供する資源の識別特性へさらに焦点をあてる現在へと移行を促す。それはメタデータが図書館を超えて多種多様の目的で整理され再利用されるためである。
    • 図書館が出版者その他からの既存のメタデータを利用するのを可能にし、同じ作業を繰り返さなくて済む。
  • RDAの存在は、このより細分化されたエレメント・セットのための新しいスキーマの開発、及び資源発見のための新しくてより良いシステムの開発を促す。
  • 利用者は、RDAが(IFLAによる)FRBR及びFRADの利用者タスクに基づいた、より利用者中心ものであると気づいた。
  • テスト参加者が好ましいと思った点を具体的にいくつか挙げると次のようになる。
    • ラテン語の省略形ではなく利用者の言語を使っていること。
    • より多くの関連が見えること。
    • 「3のルール」は今やオプションに過ぎず、責任表示についてより多くの情報を持てること。
    • 典拠レコードにおいてより多くの識別データが見つかること。
    • IFLAの国際目録原則やFRBR及びFRADモデルに従っていることで、国際的な共有向上の可能性を持っていること。」(13)

 

RDA、MARC、そして、その先へ

 テストはMARCフォーマットに特に焦点を当てていなかったが、テスト参加者の反応から、より広い情報環境に図書館を移行させるための国際的な規則としてRDAの潜在的な利点を達成するためには、MARCフォーマットが障壁と見なされているということが明らかになった。その結果、勧告のうちの一つとして、MARCに替わるものの検討へ向けて確かな前進を示すことが挙げられた。その目的に向かい、LCの新しいイニシアチブ「書誌フレームワークの変革」(14)として、作業が進められている。

 

RDAの適用

 テストに参加したうち8機関ほどは、勧告にかかわらず、RDAを使い続けることを決定した。それらの機関の書誌及び典拠レコードは、SkyRiver や OCLCといった書誌ユーティリティに加えられていて、現在、コピーカタロギングに利用できる。

 LCは、約50人の目録作成者を米国でのテストに参加させた。参加した目録作成者は、研修及び規則改善の提案書作成を支援するために、また関連する方針決定へ情報を提供するために、2011年11月にRDAの使用を再開する。

 欧州でも多くの人がRDAについてさらに学ぶことに関心を示した。数か国がEURIG(欧州RDAインタレスト・グループ)に加わり、情報共有のために、2010年(コペンハーゲン、デンマーク)及び2011年(サンファン、プエルトリコ)のIFLA大会の前に会議を開いた。RDAに関心を持つこれらの団体はまた、それぞれの観点から改良のための提案を提出することになっており、JSCは2011年内に行うレビューに向けて既に提案を1件受け取っている。

 RDAの翻訳も進められているため、より多くの人々が、自分たちの言葉でRDAを読んで、自らこの新しい規則を適用することを望むかどうか決められるようになるだろう。翻訳は候補となった言語のうち、スペイン語、フランス語及びドイツ語が予定されている。RDAの翻訳に関心があるものは、ALA 出版局のトロイ・リンカー(tlinker@ala.org)宛に連絡願いたい。

 RDAを国際的なものとするという意図を踏まえ、JSCの運営は、RDAを適用する意向の国から1~3名の新メンバーを含むように拡大される。参加に興味を持つ国は、JSCの活動を監督するグループである親委員会(the Committee of Principals)のメンバーに連絡されたい。親委員会には、ALA、カナダ図書館協会、CILIP(英国の図書館・情報専門家協会)、LC、カナダ国立図書館・文書館、英国図書館及びオーストラリア国立図書館の代表者が含まれている。

 

結論

 図書館は、他の情報提供サービスによって置き去りにされる危機にあり、ウェブ上の情報コミュニティにおけるサービスの中で存在感を示すことができないでいる。我々の書誌コントロールはMARCフォーマットに基づいているが、それはセマンティック・ウェブ環境においては適切ではない。たとえば、MARCは様々な種別の日付を区別するのに十分詳細ではなく、また、多くの種別の識別データをひとつの一般注記に記述するため、機械的操作のための解析が簡単ではない。

 現在のオンライン目録は、テキスト情報を直線的に表示したカード目録の電子バージョンにすぎない。けれども、我々が提供するメタデータは、出版履歴の時間的変遷、出版地を示す世界地図等のような、さらに興味深い視覚的情報の中に再編集することができるだろう(VIAFの視覚的表示を見よ)。機械処理できないテキストによる注記に頼るのではなく、関連を検索することができるように、著作と、翻訳や脚本の土台となる小説のような表現形との間にリンクを築くこともできるだろう。図書館は、データをウェブ上でよりアクセス可能にする必要がある。

 目録作業のコストを下げるのを助けるために、我々は、他者によって作られた目録を再利用し、かつ出版者やその他の情報源からのメタデータを利用する必要がある。目録作成者が判断を下すために、また同様に重要なことだが、他の目録作成者が下した判断を受け入れるために、我々の目録作業の方法には変化が必要である。

 コストがかかる上に重複する、書誌及び典拠データの作成とメンテナンスを削減するために、図書館はこれまで以上にメタデータを共有しなければならない。記述及び典拠データをウェブで共有し、読解可能な言語/文字という利用者のニーズを満たす、状況に応じた表示へ再活用するというLinked DataのシナリオへとRDAは我々を向かわせる。

 ウェブ環境での利用に応じた様々なスキーマに対応できるような的確なメタデータを備えることで、RDAは全ての資料種別のためのデータ・エレメント・セットを提供する。それは国際的に合意された原則に基づいている。IFLAの概念モデルから実体と関連を取り入れている。RDAは全ての資源種別の共通性に焦点を当てていると同時に、音楽、地図資料、法律資料、宗教資料、貴重書及び文書類といった資源種別ごとに異なったニーズがある場合には特別な指示を提供する。あるいは、そのような資料群のより詳細な記述のためには専門のマニュアルを参照するようにしている。

 世界中のベンダーと図書館はRDAに基づくより良いシステムを開発することが奨励される。ひとたびRDAが適用されれば、システムは今日の技術的な環境に応じて再設計され、そして、インターネット環境でのリンクされた情報の発見と検索のシステムへ移行し、テキスト・データを単に直線的に表示しただけのOPACから離れていくであろう。

 書誌データの利用と再利用のために、ウェブへの移行を図書館が望みかつ必要とするような過渡期に我々はいる。RDAはその移行のための完全な解決ではないが、RDAの新しい内容標準としての役割は、その移行への道ならしをするための構成要素であり得るだろう。他に2つの構成要素がその移行を完了するために必要である。

1. RDAという十分に標識を付けられたメタデータの整合性を維持する符号化スキーマ――すなわち前述のMARCからの移行

2. 資源間の関連を表現するRDAの潜在能力を十分に活用するためにRDAに順応できるシステム

 これらの構成要素への投資の十分な利益は、今すぐには得られない。しかし、その投資が図書館の将来の繁栄と役割にとって極めて重大であるということを、図書館管理者が理解する必要もまたある。

 RDAは我々の書誌的記述とデータへのアクセスをより国際的に受容されるようにする。解決すべき課題はなお多くあるが、その方向性は定まっている。

米国議会図書館:バーバラ B. ティレット
(訳 収集書誌部収集・書誌調整課:大柴忠彦・おおしば ただひこ、
収集書誌部外国資料課:山崎幹子・やまざき みきこ)

 

* 原著論文の初出は次の通り。
Tillett, Barbara B. Keeping Libraries Relevant in the Semantic Web with RDA: Resource Description and Access. Serials. 2011, 24(3), p. 266-272.

(1) 「MARCフォーマットは、機械可読フォームにおける書誌と関連情報の表現と交換のための基準である。」MARCスタンダードのサイトはこちらから閲覧できる。
“MARC STANDARDS”. Library of Congress. 2012-01-11.
http://www.loc.gov/marc/, (accessed 2012-02-01).

(2) 1997年9月にIFLA目録部会の常任委員会で承認され、2009年2月に改正された。PDFはこちらから閲覧できる。
IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. Functional Requirements for Bibliographic Records Final Report. K. G. Saur, 2009, p. 79.
http://www.ifla.org/files/cataloguing/frbr/frbr_2008.pdf, (accessed 2012-02-01).
また、以下の文献も参照した。
IFLA Working Group on Functional Requirements and Numbering of Authority Records. Functional Requirements for Authority Data, a Conceptual Model. Final report, Dec. 2008. K.G. Saur, 2009, 101p.

(3) IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. Functional Requirements for Bibliographic Records Final Report. K.G. Saur, 2009, p. 79.
http://www.ifla.org/files/cataloguing/frbr/frbr_2008.pdf, (accessed 2012-02-01).

(4) Tillett, Barbara B. et al., eds. IFLA Cataloguing Principles: the Statement of International Cataloguing Principles (ICP) and its Glossary in 20 languages. K. G. Saur, 2009, p. 28.

(5) Maja, Žumer et al. FRBR: A Generalized Approach to Dublin Core Application Profiles. Proceedings of the International Conference on Dublin Core and Metadata Applications, 2010.

(6) Jan, Pisanski et al. Mental models of the bibliographic universe: Part 1: mental models of descriptions. Journal of Documentation. 2010, 66(5), p. 643-667.
Jan, Pisanski et al. Mental models of the bibliographic universe: Part 2: comparison task and conclusions, Journal of Documentation. 2010, 66(5), p. 668-680.

(7) “The RDA (Resource Description and Access) Vocabularies”. Open Metadata Registry.
http://metadataregistry.org/rdabrowse.htm, (accessed 2012-02-01).

(8) Joint Statement of Anglo-Heritage National Libraries on Coordinated RDA Implementation, 2007-10-22.
http://www.rda-jsc.org/rdaimpl.html, (accessed 2012-02-01).

(9) “On the Record: Report of the Library of Congress Working Group on the Future of Bibliographic Control”. Library of Congress. 2008-01-09.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/news/lcwg-ontherecord-jan08-final.pdf, (accessed 2012-02-01).

(10) RDAテスト「研修担当者を研修する」。 2010年1月15日に、マサチューセッツ州ボストン、ノースイースタン大学のジュディ・クハーゲンとバーバラ・ティレットによって提示された。
モジュール1-9:
“RDA Train-the-Trainer Webcasts”. Library of Congress.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/rda/trainthetrainer.html, (accessed 2012-02-01).
モジュールのPowerPointファイルと添付資料はこちらから閲覧できる。
“Library of Congress Documentation for the RDA (Resource Description and Access) Test: Training Materials for RDA Test Participants (January 2010)”. Library of Congress. 2011-12-23.
http://www.loc.gov/catdir/cpso/RDAtest/rdatraining.html, (accessed 2012-02-01).
• モジュール1: RDAとは何か
• モジュール2: 構造
• モジュール3: 体現形と個別資料の記述
• モジュール4: 著作、表現形、体現形の識別
• モジュール5: 個人の識別
• モジュール6: 家族の識別(2010年3月1日に、LCで撮影された)
• モジュール7: 団体の識別
• モジュール8: 関連
• モジュール9: 主要な概念、変更点等のレビュー

(11) 米国のRDAテストのウェブサイトは「資源の記述とアクセス(RDA)をテストする」として知られている。

(12) 「米国のRDAテスト調整委員会の報告と勧告」2011年5月9日。2011年6月20日に公開のために修正された。 PDFはこちらから閲覧できる。
“Report and Recommendations of the U.S. RDA Test Coordinating Committee”. Library of Congress. 2011-06-20.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/rda/rdatesting-finalreport-20june2011.pdf.
(訳者注:URLは次の通り変更されている。
http://www.loc.gov/bibliographic-future/rda/source/rdatesting-finalreport-20june2011.pdf, (accessed 2012-02-01).)

(13) 「米国のRDAテスト調整委員会の報告と勧告」(p. 111.)2011年6月20日公開。 こちらから閲覧できる。
“Report and Recommendations of the U.S. RDA Test Coordinating Committee”. Library of Congress. 2011-06-20.
http://www.loc.gov/bibliographic-future/rda/rdatesting-finalreport-20june2011.pdf.
(訳者注:URLは次の通り変更されている。
http://www.loc.gov/bibliographic-future/rda/source/rdatesting-finalreport-20june2011.pdf, (accessed 2012-02-01).)

(14) 「書誌フレームワークの変革イニシアチブ」はこちらから閲覧できる。
“Bibliographic Framework Transition Initiative”. Library of Congress. 2011-10-31.
http://www.loc.gov/marc/transition/, (accessed 2012-02-01).

 


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