E2468 – 大学における研究データポリシーの策定について<報告>

 

カレントアウェアネス-E

No.429 2022.01.27

 

 E2468

大学における研究データポリシーの策定について<報告>

文部科学省科学技術・学術政策研究所・林和弘(はやしかずひろ)

 

  2021年11月2日,文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)により,科学技術・学術政策研究所講演会「大学における研究データポリシーの策定について」がオンライン開催された。

  オープンサイエンスの潮流がユネスコ,経済協力開発機構(OECD),欧州連合(EU)等でも認められる中,第6期科学技術・イノベーション基本計画では,より付加価値の高い研究成果とイノベーションの創出を目指す政策として,機関リポジトリを有する全ての大学・大学共同利用機関法人・国立研究開発法人については,2025年までにデータポリシーの策定を行うこととしている。国立研究開発法人においては,すでに内閣府がデータポリシー策定のためのガイドラインを公表し,データポリシーの策定を進めている。その一方,大学については,アカデミアが自発的に検討を行い,大学ICT推進協議会(AXIES)は「大学における研究データポリシー策定のためのガイドライン」を2021年7月に公表した。

  本講演会では,筆者による司会進行の下,AXIESのガイドラインの策定に携わった研究者を講師に迎え,大学の研究データポリシー策定の背景・現状・課題についての話題を提供し,今後の大学における研究データポリシーの策定に向け,アカデミアと行政との対話の場を設けた。行政,大学関係者を中心とした,600人を超える参加者が聴講した。

  まず,赤池伸一氏(NISTEP上席フェロー/内閣府科学技術・イノベーション推進事務局参事官(総合戦略担当))による上記趣旨説明の後,今回のメインとなる,船守美穂氏(国立情報学研究所(NII)オープンサイエンス基盤研究センター准教授)による講演が行われた。大学における研究データポリシーの策定の背景に始まり,オープンサイエンス推進に向けた全般的な合意や,研究助成機関や国際学術雑誌による研究データ管理の要求等によって,日本の学術機関において研究データ管理 (RDM;E2241,CA1818参照)の環境整備・人材育成を行う重要性が高まっていることが説明された。その上で,ハード面の環境整備の一環としては,RDMを促進する基盤として,NIIがNII Research Data Cloudを開発したことが紹介された。

  一方,ソフト面としては研究データポリシーの策定が進んでいる。先行している国立研究開発法人では研究開発が組織的に進められる一方,大学においては研究活動が様々な分野で研究者の自由な探究心の下に行われ,機関の研究データに対する責任や役割が異なる。こうした状況を踏まえ,大学が組織としてRDMにどのように対応するかの検討を自発的に重ねてきたことが説明された。そして,京都大学・名古屋大学・東京工業大学が研究データポリシーを策定して学内のRDM体制の構築に取り組んでいることや,海外大学の事例を参考にし,「大学における研究データポリシー策定のためのガイドライン」の公表に至ったことが解説され,ガイドライン作成で得られた知見を含めて,大学における研究データポリシーの策定にあたり,各大学が検討すべき事項が紹介された。

  また,海外大学において,研究データポリシーは,オープンサイエンスの流れに基づくポリシーと,大学のコンプライアンスの対応に基づくポリシーの,大きく2つに分かれる傾向があることや,研究者はこれまで自身で研究データ管理を実施してきたことから,研究データをトップダウンで管理することに抵抗があり,その点を配慮する必要があることなどが示された。

  この講演を受けて,赤池氏より,内閣府としては,大学も含め機関の責任において研究データの管理・利活用を図るべきという立場に立っていること,研究データポリシーの策定は機関における研究者との責任の分担を明確にする意義があること,また,行政側としては研究開発の過程で生まれた研究データの管理・利活用も積極的に評価するべきと考えていることなどのコメントがあった。

  続いて松井啓之氏(京都大学図書館機構副機構長・経営管理大学院教授)より,京都大学の研究データポリシー(E2295参照)に関するコメントがあった。研究データの管理権限は研究者に帰属することを定めており,ポリシー策定後,各部局が実施方針を策定したり,RDMを支援する大学各部署の役割を明確にすることで実効性を高めようとしていると解説した。一方で,京都大学としてのRDMの戦略を更に検討する必要がある,とのコメントがあった。

  青木学聡氏(名古屋大学情報連携推進本部情報戦略室教授)からは,名古屋大学において研究データポリシーを策定し,大学がRDMをどのように行うか意思表明したこと,図書館など関連部署の役割が少しずつ明確になると同時に大学の情報基盤として何を整備するべきなど具体的な議論が始まったことが紹介された。

  三宅隆悟氏(文部科学省研究振興局参事官(情報担当)付学術基盤整備室長)より,研究データが戦略的資源であるという認識を共有して学術界全体でデータ駆動型研究を推進する流れを創生し,日本の国際競争力・協調力の向上につなげていきたい,とのコメントが寄せられた。

  最後に,この対話の場をきっかけに,また,このような政策と現場の対話を繰り返すことで,データ駆動型科学や再現性,透明性の高い科学等,Society5.0やオープンサイエンスが指向する新しい科学と社会に向けた取組をそれぞれが進めることを確認して閉会した。

Ref:
“科学技術・学術政策研究所講演会「大学における研究データポリシーの策定について(仮)」(11/2(火))”. NISTEP. 2021-10-22.
https://www.nistep.go.jp/archives/48742
科学技術・イノベーション基本計画.
https://www8.cao.go.jp/cstp/kihonkeikaku/6honbun.pdf
国際的動向を踏まえたオープンサイエンスの推進に関する検討会. 研究データリポジトリ整備・運用ガイドライン. 2019, 13p.
https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/kokusaiopen/guideline.pdf
“大学における研究データポリシー策定のためのガイドライン”. 大学ICT推進協議会研究データマネジメント部会. 2021-07-01.
https://rdm.axies.jp/sig/70/
大学ICT推進協議会. 大学における研究データポリシー策定のためのガイドライン. 2021, 70p.
https://rdm.axies.jp/_media/sites/14/2021/07/urdp-guideline.pdf
“NII研究データ基盤(NII Research Data Cloud)の概要”. 国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター.
https://rcos.nii.ac.jp/service/
“科学技術・学術政策研究所講演会「大学における研究データポリシーの策定について」”. YouTube. 2021-11-08.
https://www.youtube.com/watch?v=p2GjRpTlAHI
宮田怜. 優れた研究データ管理(RDM)実践の24の事例集<文献紹介>. カレントアウェアネス-E. 2020, (387), E2241.
https://current.ndl.go.jp/e2241
西岡千文,藤原由華,吉田弘子. 「京都大学研究データ管理・公開ポリシー」採択の経緯. カレントアウェアネス-E. 2020, (397), E2295.
https://current.ndl.go.jp/e2295
池内有為. 研究データ共有時代における図書館の新たな役割:研究データマネジメントとデータキュレーション. カレントアウェアネス. 2014, (319), CA1818, p. 21-26.
https://doi.org/10.11501/8484054