E2295 – 「京都大学研究データ管理・公開ポリシー」採択の経緯

カレントアウェアネス-E

No.397 2020.09.03

 

 E2295

「京都大学研究データ管理・公開ポリシー」採択の経緯

京都大学附属図書館・西岡千文(にしおかちふみ),藤原由華(ふじわらゆか),吉田弘子(よしだひろこ)

 

   京都大学では,2020年3月19日に「京都大学研究データ管理・公開ポリシー」(以下「ポリシー」)を採択した。ポリシーは,本学における研究データの取り扱いについて基本的な方針を示すものである。具体的には,本学の研究者が各分野の特性に応じた研究データ管理を行うこと,研究データを可能な限り公開して利活用を促進することを原則として定めている。ポリシーの目的は,研究データの適切な管理・保存・公開を促進することで,本学の理念でもある学術研究の発展と地球社会の調和ある共存に貢献することである。ポリシーの各文言の意図については,ポリシー本文と共に公開されている「ポリシーの解説・補足」で詳述している。よって本稿は,ポリシー採択までの経緯を中心に扱う。

   ポリシー検討の背景として,内閣府による2018年の「国立研究開発法人におけるデータポリシー策定のためのガイドライン」の制定,同じく内閣府が主導するムーンショット型研究開発制度における先進的な研究データの管理ならびに利活用の推進,海外大学での研究データに関するポリシーの策定の動き等が挙げられる。

   本学では,研究データを総括的に担当する専門部署は未設置であり,関連部署は多岐にわたる。このことから,全学委員会である研究者情報整備委員会がポリシーに関する審議を掌ることとなった。研究者情報整備委員会は,本学の研究者等の教育研究活動等に係る情報の収集,保管,利用,公開等に関し必要な事項を審議するために設置されている。理事,部局長等によって構成されており,情報担当理事が委員長を務める。この委員会の下に,研究データの保存,管理および利活用について,検討ならびに審議を行うことを目的として,2019年12月11日,リサーチデータマネジメント専門部会(以下「専門部会」)を設置した。専門部会は図書館機構長を部会長とし,学際融合教育研究推進センターアカデミックデータ・イノベーションユニット(以下「葛ユニット」),図書館機構,附属図書館,情報環境機構,研究推進部の教職員7人により構成される。さらに,専門部会の下に2019年12月25日,リサーチデータポリシー策定ワーキンググループ(以下「WG」)を設置して,ポリシー案の作成を進めた。WGは,図書館機構副機構長が主査を務め,情報環境機構,研究推進部,学術研究支援室,附属図書館の教職員7人から構成された。

   WGでのたたき台となったポリシーの素案は,筆者らを含む附属図書館教職員が中心となって作成した。素案の作成に貢献した活動は2点挙げられる。1点目は,学内の図書系職員によって構成されていた海外研究データポリシー調査ワーキンググループである。ここでは,2019年5月から7月にかけて海外の研究大学の研究データに関するポリシーの調査を行っていた。主にTimes Higher Education(THE)等の大学ランキングで上位に位置する大学ならびに本学と近い順位に位置する大学を対象とした。2点目は,2019年7月から9月に実施していたMLA勉強会である。勉強会は総合博物館,大学文書館の教員ならびに附属図書館の教職員で構成され,研究データを含めた資料管理手法に関する事例報告や意見交換を実施した。その上で,調査した研究大学のポリシーを参考にして附属図書館職員が素案を作成し,WGでの検討開始よりも前に勉強会内で意見交換した。素案の作成に際しては,先行して研究データに関するポリシーを検討していた他大学から情報提供を受けた他,大学ICT推進協議会による「学術機関における研究データ管理に関する提言」等の資料も参考にした。

   WGは2019年12月25日から2020年3月6日にかけて,8回開催された。第1回から第5回のWGでは,素案をもとに,目的,定義,帰属,管理・保存,公開といった項目に沿ってポリシー案を検討した。第6回WGでは,葛ユニットの研究者とポリシー案について意見交換し,それまでの検討を踏まえたポリシー案に対して,専門部会,葛ユニットに所属する学内外研究者等から意見を収集した。学内規程との整合性について,本学の知的財産に係る業務を所掌する産学連携本部知的財産部門にもヒアリングを行った。第7回WGでは,他大学図書館と意見交換を行い,第8回WGにて,WGでのポリシー案を確定した。その後,専門部会での協議・修正を経て,2020年3月19日の研究者情報整備委員会での承認を以ってポリシーの採択となった。

   各分野の研究者等からの意見は多様であり,WGでの取りまとめに苦労したが,それらは「ポリシーの解説・補足」に反映されている。ポリシー採択後に行った英文版の作成では,日本語タイトルにおける「公開」の訳語の選択等,日本語と英語とでニュアンスのずれが生じないよう注意を要した。英文版は,外国人研究者への周知ならびに世界へ向けた本学の取り組みの発信を意図して作成した。

   ポリシーは上記の通り基本的な方針を示すものであり,各部局で分野の特性に鑑みて、より具体的な実施方針を策定することが期待される。ポリシー策定の次段階として,研究データ管理・公開を促進するため,2020年7月1日に専門部会の下に前述のWGと同じメンバー構成からなるポリシー利活用ワーキンググループを設置した。今年度,このワーキンググループでは,部局実施方針策定のためのガイドラインならびに実施方針雛形の作成を予定している。

   ポリシー策定にあたり,学内外の多くの方々にご助言をいただいた。ここに謝意を表する。

Ref:
“研究データ管理・公開ポリシー”. 京都大学.
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_policy/kanrikoukai
“基本理念”. 京都大学.
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/about/operation/ideals/basic
京都大学. ポリシーについての解説・補足. 2020, 10p.
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_policy/documents/hosoku_20200619.pdf
“国立研究開発法人におけるデータポリシー策定について”. 内閣府.
https://www8.cao.go.jp/cstp/stsonota/datapolicy/datapolicy.html
“ムーンショット型研究開発制度”. 内閣府.
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/index.html
“ムーンショット型研究開発制度の運用・評価指針(ムーンショット目標1~6)”. 内閣府.
https://www8.cao.go.jp/cstp/moonshot/shishin.html
“京都大学研究者情報整備委員会規程”. 京都大学. 2018-05-15.
http://www.kyoto-u.ac.jp/uni_int/kitei/reiki_honbun/w002RG00001415.html
“アカデミックデータ・イノベーション ユニット”. 京都大学.
http://www.cpier.kyoto-u.ac.jp/unitlist/academic-data-innovation/
“学術機関における研究データ管理に関する提言”. 大学ICT推進協議会. 2019-05-11.
https://rdm.axies.jp/sig/57/
松井啓之. “京都大学でのデータポリシー検討状況”. 第3回京都大学研究データマネジメントワークショップ. 京都, 2020-02-27, 京都大学アカデミックデータ・イノベーションユニット. 京都大学, 2020, 29p.
http://hdl.handle.net/2433/246277