E2430 – カナダの公共図書館におけるコロナ禍での取組<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.421 2021.09.30

 

 E2430

カナダの公共図書館におけるコロナ禍での取組<文献紹介>

利用者サービス部サービス企画課・芦田恵(あしだめぐみ)

 

Rosales, N. Public Library Responses to COVID-19: An Investigation & Reflection of Canadian Experiences. Emerging Library & Information Perspectives. 2021, 4(1), p. 169–185.

   新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大以降,各国の図書館ではサービスの提供に制限を余儀なくされており,カナダでも例外ではない。同時にこの困難に対する試みも数多く実施されている。例えば2020年6月に公開されたオンタリオ州図書館協会の調査結果においては,公共図書館が全面休館となった2020年3月から6月の間にもデジタル資料の充実や,オンラインイベントの開催,社会的弱者への支援等,おもにオンラインでの活発な活動が行われていたことが報告されている。

   カナダの公共図書館におけるコロナ禍対応について理解を深める一助として,本稿では,カナダ・ウェスタン大学の図書館情報学修士(MLIS)プログラムに在籍する学生らが運営する,図書館情報学分野のオープンアクセス査読誌に掲載された,同大学のロサレス(Nelson Rosales)氏による論文について紹介する。

   本論文は,大きく二部から成っており,第一部ではCOVID-19の感染拡大に対して,カナダの公共図書館が展開した取組についての調査結果を「社会的孤立」「経済的ニーズ」「情報ニーズ」「物理的空間」の4つのテーマに分類して紹介している。第二部では,それらの取組が公共図書館の将来の業務に与える影響について,「オンラインサービスと対面サービスのバランス」「柔軟な図書館空間の創出」「メディアリテラシー機能の強化」の3つの視点から考察している。

   なお本論文は,専門的出版物,図書館関係のフォーラムやウェブサイト,ブログ,2020年以降のソーシャルメディア等を調査したものであり,入手可能な情報の膨大さを考慮すると網羅的なものというより,あくまでサンプリングであるとして紹介されている。

   以下,本論文中の論点のうち2点を取り上げて紹介する。

   1つは,コロナ禍での図書館空間についての取組と,今後の展望についてである。コロナ禍によって休館や利用制限を余儀なくされる状況が続いているが,それがかえってイノベーションをもたらし,将来のサービスの方向性を示し得ることを示唆している。例えば,使用されなくなったスペースが一時的にホームレス等の社会的弱者の避難所として転用されるようになったことや,コロナ禍以前から試みが見られた屋内/屋外ハイブリッド型の図書館モデルがコロナ禍を通じて今後広がっていくかに関心を寄せている。また,イベントの開催などの屋外での図書館サービスが,建物ではなくサービスや社会的活動自体へ目を向けさせ,場所に縛られない活動を開拓するきっかけとなることも指摘している。このような考え方は,図書館は共同体の中でより開かれ,存在感を増していくべきであるという考えと同期していると述べている。

   もう1つは,情報・メディアリテラシーに関する図書館のこれまでの取組と今後求められる役割についてである。パンデミック初期の頃,カナダの公共図書館ではタブレット端末やWi-Fi環境等のインターネットや情報へのアクセス手段の提供を拡大した。また,情報リテラシープログラムのオンライン配信などの取組のほか,COVID-19に関するポータルサイトを構築する図書館もあったと報告している。一方で,偽情報やフェイクニュースに対処するためのメディアリテラシーに関しては,調査時点ではCOVID-19に焦点を当てた取組を行っているカナダの図書館はないとのことである。著者は,公共図書館が信頼性の高い情報ハブとして,偽情報の拡散を抑制するという役割を果たすため,図書館員として研鑽を積むこと,学術機関やメディア機関と連携すること,情報リテラシーやメディアリテラシーをより大衆向けの取組の中に組み込むこと等が今後も求められていると指摘している。

   本論文の最後に,著者は,先が見通せないコロナ禍において,図書館もしばらくはサービスの形を変えていく必要があり,そのようなサービスモデルが図書館の使命をどのように実現に導いているかを記録し,批判的に評価し続けることがポストコロナ時代に向けて重要であると結論付けている。

   日本におけるコロナ禍での取組については,佐倉市(千葉県)における,屋外空間に注目した移動図書館サービス(E2315参照)や,図書館サービスを市内に分散させる別府市(大分県)の「リモートライブラリー+」(E2396参照)のような図書館空間に関する実験的な取組が報告されている。コロナ禍の苦境を図書館サービスの発展につなげるためさらなる試みが期待される中,本論文で紹介されている事例や,変化の渦中にあって図書館の存在意義を問い直す姿勢が参考となるだろう。

Ref:
Rosales, N. Public Library Responses to COVID-19: An Investigation & Reflection of Canadian Experiences. Emerging Library & Information Perspectives. 2021, 4(1), p. 169–185.
https://doi.org/10.5206/elip.v4i1.13852
Ontario Public Library Response to COVID-19. Ontario Library Association, 2020, 23p.
https://accessola.com/wp-content/uploads/2020/08/2020-06-PLResponsetoCOVID-19-SurveyReport.pdf
榊田大輔. 移動図書館がつくるウィズコロナでの豊かな日常の可能性. カレントアウェアネス-E. 2020, (401), E2315.
https://current.ndl.go.jp/e2315
森本悦子. 持続可能な図書館サービス「リモートライブラリー+事業」. カレントアウェアネス-E. 2021, (415), E2396.
https://current.ndl.go.jp/e2396