E2429 – 諸外国における政府情報のデジタル化の概況

カレントアウェアネス-E

No.421 2021.09.30

 

 E2429

諸外国における政府情報のデジタル化の概況

調査及び立法考査局議会官庁資料課・東川梓(ひがしがわあづさ)

 

   2021年7月,国際図書館連盟(IFLA)の政府情報・官庁出版物分科会(GIOPS)が,政府情報の公開状況と図書館に関する報告書“The Government Information Landscape and Libraries”を公開した。

   本報告書は,サブサハラ・アフリカ,カナダ,中東・北アフリカ,ギリシャ,国際政府組織,韓国,ロシア,英国,米国における政府情報の公開状況(政府図書館の設置,納本制度の整備,デジタル化の推進等)を概観したものである。以下では,国・地域によって進捗状況が大きく異なるオンラインでの公開状況に焦点を当てつつ,報告書のポイントを紹介する。

●サブサハラ・アフリカ

   アフリカ大陸のサハラ砂漠以南の地域であるサブサハラ・アフリカにおける政府情報をICTにより公開する取組は,ケニアの電子政府プロジェクトなど先進的な政策も一部行われているものの,ICT環境や人材不足等の影響により世界の他の地域と比べて進展が遅れている。

●中東・北アフリカ

   この地域では,特にアラブ首長国連邦(UAE)がICT分野に積極的に投資し,政府情報に関する質の高いオンラインサービスを提供している。また,エジプトでも,法令を検索できるデータベースが構築されている。しかし,他の国々では,政府機関図書館の意義が十分に理解されておらず,オンラインでの公開に向けた政府機関図書館の予算や設備も不足気味である。

●ギリシャ

  ギリシャでは,議会図書館が議会資料のデジタル化に取り組んでおり,国立図書館は政府サイトのアーカイブを行っている。さらに,国立印刷局のウェブサイトでは官報が無料で公開されており,2010年からは政府のポータルサイトでも法令が公開されるようになった。ギリシャでは多くの政府情報が公開されている反面,メタデータが整備されておらず,アクセスに難がある。

●ロシア

   近年,ロシアでは政府情報へのアクセスと透明性を高めるために,特定の連邦・地方政府の情報を政府のウェブサイトに掲載する等の取組が行われている。2011年に開設された政府の法律情報ポータルサイトには,法令を含む司法,立法,行政の各種政府情報が掲載されている。ただし,政府情報のウェブアーカイブは民間でしか行われていない。

●韓国

   韓国では,1997年に始まった電子図書館計画に基づき,翌年には官報を始めとする政府刊行物がデジタル化され,その後も韓国国会図書館(NAL)が社会科学と政府刊行物に関連する資料のデジタル化を,韓国国家記録院(NAK)が政府刊行物のデジタル化を進めている。

●英国

   英国では,2014年から英国図書館(BL)を含む納本図書館6館が,政府情報のためのワーキンググループを結成し,デジタル化された政府情報の収集・保存・提供に取り組んでいる。これらの図書館は国および地方政府のウェブサイトのアーカイブも行っているが,公開は一部を除き自館内に限定されている。一方, 英国国立公文書館(TNA)は,1990年後半以降の政府のウェブサイトやSNSを保存し,一般に公開している。各機関はブログ等を通じて,これらの政府情報の活用方法等を積極的に発信している。

●カナダ(英語圏限定)

   カナダでは,政府財政健全化の一環として,2013年から政府刊行物が原則デジタルで刊行されることになり,多くの資料がオンラインで入手出来るようになった。また,データの保存を目的とする政府・民間によるウェブアーカイブも進展している。さらに,トロント大学が政府刊行物のデジタル化事業レジストリを公開しており,各機関によるデジタル化作業の重複回避に役立っている。

●米国

   米国政府印刷局(GPO)によりさまざまな政府情報がオンライン上で公開されており,GPOの政府刊行物の目録検索サイト(CGP)のリンクからもアクセスできる。また,同じくGPOが提供する検索エンジンMetaLib GPOでは,CGPを含む主要な政府ウェブサイトを統合検索することが可能である。また,HathiTrust(CA1760参照)では100万点以上の官庁資料が,Internet Archive(IA)では1990年代以降の官公庁のウェブサイトが閲覧可能である。このような膨大な量の政府情報のデジタル化やウェブアーカイビング等は,専門家による政府情報の活用の新たな可能性を示しているといえよう。

   本報告書の最後に「結論」として,市民には政府情報にアクセスする権利があるが,デジタル技術が発展した現代でも政府情報へのアクセスは必ずしも容易ではないため,高い情報処理能力を持つ図書館員を養成する必要がある,と結んでいる。

Ref:
The Government Information Landscape and Libraries. IFLA, 2021, 161p., (IFLA Professional Report, 137).
https://repository.ifla.org/handle/123456789/842
田中敏. デジタル化資料の共同リポジトリHathiTrust―図書館による協同の取り組み. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1760, p. 14-19.
http://doi.org/10.11501/3485918