E2421 – 子どもの読書活動における電子書籍活用の現状

カレントアウェアネス-E

No.420 2021.09.16

 

 E2421

子どもの読書活動における電子書籍活用の現状

専修大学文学部・野口武悟(のぐちたけのり)

 

   文部科学省では,2014年度から毎年度,「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」を実施している。2020年度の同調査(以下「2020年度調査」)では,「電子書籍や電子メディアを活用した読書活動の推進及び言語活動の充実に関する施策について,詳細な実態把握とその分析を行い,今後の子供の読書活動の推進に向けた一助とすること」を目的として,全国の都道府県と市町村の教育委員会(以下「自治体」)を対象としたアンケート(2020年11月)と,先進事例を対象としたヒアリング(2020年12月から2021年2月)を行っている。文部科学省では,2018年度にも「子供の電子メディアの利用実態を把握し,読書活動等の関係を捉えること」を目的に子どもとその保護者を対象とした調査を実施しており(E2171参照),2020年度調査はその継続研究といえる。調査にあたっては,秋田喜代美氏(東京大学教授(当時))を座長とする委員会が組織され,筆者も委員として参画する機会を得た。本稿では,2020年度調査の主な結果を概観する。

●自治体における電子書籍活用の位置づけと実際

   自治体が策定した「子供の読書活動の推進に関する計画」において,電子書籍を活用した取り組みが記載されている割合は,8.3%だった。その割合は,政令指定都市42.1%,都道府県28.3%など,規模の大きい自治体のほうが高かった。

   電子書籍活用の実際の取り組みは,学校図書館よりも公立図書館のほうが多く行われていた。ここには,電子図書館の導入率の差が関係しているものと思われる。取り組みの開始時期は2020年度が最も多く,24.8%だった。

●公立図書館における電子書籍の導入状況

   電子書籍を導入する公立図書館(自治体内の一部の館のみの場合を含む)は自治体数ベースで9.8%であり,今後導入予定が具体的にある自治体が4.7%、導入を検討している自治体が22.4%だった。一方で,半数を超える58.5%の自治体は導入予定なしと回答している。

   電子書籍の導入館では,「子供向け電子書籍の充実」が実際の取り組みとして最多であり,52.2%だった。また,取り組む上での課題として最多だったのも,電子書籍コンテンツについてであり,適当なコンテンツが「ない・少ない」を67.8%があげていた。さらに,今後の取り組みの展望でも「子供向け電子書籍の充実」が最多の40.0%となった。これらのことから,子どもの読書活動における電子書籍活用の推進に向けて,多くの公立図書館では電子書籍コンテンツの整備・充実にまず取り組もうと考えていることがわかる。

   同じく電子書籍の導入館に,電子書籍活用の成果をたずねたところ,「どちらとも言えない」が59.1%で最多となった。そもそも,電子書籍の導入後間もない図書館が多く,活用の成果について明確になるには,もう少し時間が必要だろう。この点については,今後改めての調査研究が必要と思われる。

●学校図書館における電子書籍の導入状況

   電子書籍を導入する公立学校(自治体内の一部の学校のみの場合を含む)は自治体数ベースで2.0%だった。今後導入予定が具体的にある自治体は1.3%、導入を検討している自治体も8.8%と少数にとどまった。導入校における導入時期は2020年が全体の46.4%を占め,学校図書館においては導入に向けた動きがまさにいま本格化し始めたと見ることもできよう。

   学校教育では2019年度からGIGAスクール構想が推進されている。GIGAスクール構想とは,簡潔にいえば,児童生徒1人1台端末の実現を目指す教育の情報化に関する施策パッケージである。(1)ハード:端末と高速大容量通信ネットワークの整備,(2)ソフト:デジタル教科書をはじめとした良質なデジタルコンテンツの整備と活用による学びの充実,(3)指導体制:指導スキルの向上や多様な外部人材の活用などの3つが構想の柱である。このうち,(1)については、文部科学省の「GIGAスクール構想の実現に向けたICT環境整備(端末)の進捗状況について(確定値)」(2021年5月公表)によれば、2020年度内に96.5%の自治体が端末の整備を完了する見込みとしている。今後は,整備した端末で活用できる(2)のソフト,すなわち良質なコンテンツの1つである電子書籍コンテンツへのニーズが多くの学校で高まるものと予想される。それに伴い,電子書籍の導入を新たに検討し始める自治体が増えることも十分に考えられる。

   なお,文部科学省が2020年度に実施した「学校図書館の現状に関する調査」の結果(2021年7月公表)においては,学校数ベースでの電子書籍の所蔵率を明らかにしている。それによると,小学校0.2%,中学校0.3%,高等学校1.4%だった。

●電子書籍導入と活用の先進事例

   2020年度調査では,すでに電子書籍を導入し,活用を進めている先進事例へのヒアリングも行っている。具体的には,公立図書館の5事例(広島県(E2337参照),札幌市,高森町(長野県),関市(岐阜県),大阪市),公立学校の3事例(矢板市(栃木県),熱海市(静岡県),熊本市(E2377参照)),私立学校の2事例(工学院大学附属中学・高等学校(東京都),追手門学院(大阪府))のあわせて10事例である。これらの事例から見えてくる電子書籍の導入と活用のポイントは次の5つである。すなわち,(1)電子書籍を「作る」「触る」「体験する」,(2)公立図書館と学校の連携,(3)電子書籍に簡単にアクセスできるような工夫,(4)コンテンツ不足問題への対応,(5)予算不足問題への対応,である。10事例と5つのポイントは,今後の電子書籍導入の検討や活用の推進にあたって大いに参考になるだろう。

   2018年4月に閣議決定された国の第四次「子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」では,「電子書籍等の情報通信技術を活用した読書も含む」としている。しかし,現状は,電子書籍の導入と子どもの読書活動における活用は緒に就いたばかりといえる。とはいえ,非来館型の図書館サービスへのニーズを高めることとなったコロナ禍や,学校教育におけるGIGAスクール構想の推進など,子どもの読書活動においても電子書籍活用の機運は高まりつつある。障害のある子どもへの読書バリアフリーや,外国にルーツのある子どもへの多言語対応などでも電子書籍の活用が期待されている。

   なお,2020年度調査の報告書は,2021年6月に文部科学省のウェブサイトに公開された。調査結果の詳細は,報告書をぜひご覧いただきたい。

Ref:
“図書館の振興”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/tosho/index.htm
令和2年度「子供の読書活動の推進等に関する調査研究」調査報告書. リベルタス・コンサルティング, 2021, 80p., (令和 2 年度文部科学省委託調査).
https://www.mext.go.jp/content/20210610-mxt_chisui02-000008064_0201.pdf
“GIGAスクール構想の実現について”. 文部科学省.
https://www.mext.go.jp/a_menu/other/index_00001.htm
“令和2年度「学校図書館の現状に関する調査」の結果について”. 文部科学省. 2021-07-29.
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/dokusho/link/1410430_00001.htm
野口武悟. 子どもの電子メディアの利用実態と読書との関係. カレントアウェアネス-E, 2019, (375), E2171.
https://current.ndl.go.jp/e2171
友石泰二. 青少年のための電子図書館サービスの誕生と小さな一歩. カレントアウェアネス-E, 2020, (405), E2337.
https://current.ndl.go.jp/e2337
原田武. コロナ禍における熊本市立図書館の取組み. カレントアウェアネス-E, 2021, (412), E2377.
https://current.ndl.go.jp/e2377