E2357 – ウィズ・コロナ時代の北米の大学図書館サービス<報告>

カレントアウェアネス-E

No.408 2021.02.18

 

 E2357

ウィズ・コロナ時代の北米の大学図書館サービス<報告>

早稲田大学図書館・御園和之(みそのかずゆき)

 

   2020年12月10日,私立大学図書館協会オンラインセミナー「ウィズ・コロナ時代の大学図書館サービス~北米の現場から~」が協会加盟館の所属者を対象に開催された。筆者が所属する,本協会の国際図書館協力委員会では,例年,海外の図書館等を訪問し見識を深める海外認定研修を実施しているが,新型コロナウイルス感染症感染拡大の影響により,2020年度は中止となったため,その代替として実施したものである。企画・運営に関しては,丸善雄松堂株式会社様の多大なるご協力をいただいた。全国から135人の参加があり,また,東亜図書館協会(CEAL)日本語資料委員会のメンバーからも,特別に参加の希望があった。

   本セミナーは,北米の大学図書館に勤務する以下3人の日本研究司書による事例報告と,パネルディスカッション・質疑応答の2部構成で進められた。

  • 野口契子氏(米・プリンストン大学東アジア図書館)
  • バゼル山本登紀子氏(米・ハワイ大学マノア校図書館アジアコレクション部)
  • ファビアノ・ロシャ(Fabiano ROCHA)氏(カナダ・トロント大学図書館)

●第1部 事例報告

   パネリスト3人から,それぞれの大学図書館における事例報告があった。2020年の感染拡大第一波の際の,大学キャンパスの図書館も含むロックダウンからの段階的なサービス復帰の流れ,図書館員の勤務の様子,感染防止対策などの紹介があった。新しい,または,拡充されたサービスとして,学習研究支援のためのオンラインコンテンツ作成, Zoomによるレファレンス,スタッフと非接触でのリクエスト資料受け取りサービス(curbside pick up), トロント大学図書館のScholarly Communications and Copyright Office(SCCO)シラバスサービスなどの紹介があった。SCCOシラバスサービスは,教員が作成するリーディングリストに掲載された資料の著作権の状況を調査し,電子化して受講者に提供する教育支援の仕組みである。

   なかでも,特に大きな力を発揮したものとして,各館が提供する“Controlled Digital Lending”(CDL)や,HathiTrust(CA1760参照)が提供する“Emergency Temporary Access Service ”(HathiTrust ETAS)の紹介があった。CDLは,各館が所蔵資料を学生・教職員からのリクエストに応じてデジタル化し制限付きで貸借を行うサービス,HathiTrust ETASは,各館が印刷版を所蔵している資料に限り,著作権で保護された“HathiTrust Digital Library”上のデジタル化資料本文への合法的なアクセスを一時的に可能とするサービスである。

   事例報告全体を通して,確固たる方針のもと,安全面に十分配慮しつつ,可能な限りの利用者支援を図ろうとする姿勢が伝わってきた。利用者支援では,「デジタル資料の提供」,「資料のデジタル化」が重要な役割を担っているようだった。

●第2部 パネルディスカッションおよび質疑応答

   著作権とデジタル資料のテーマを中心に,話題提供と質疑応答があった。コロナ禍において,北米の著作権法で認められているフェア・ユース(米国),フェア・ディーリング(カナダ)が機能して,デジタル資料の貸借など,デジタル情報へのアクセスのサービス拡張を後押ししたが,その点で,日本の図書館とはサービスの格差が拡大したとの指摘があった。

   北米の大学図書館では,E-preferred(デジタル資料の優先収集)の方針が示されることが多いが, CEALから,この方針に対する懸念が表明されたと紹介があった。その理由として,日本をはじめとする東アジア研究に関する資料の電子化は,あまり進んでおらず,日本の電子書籍は,教育プラットフォームへの掲載が一部分であっても許されない,同時アクセスの制限が厳しいなど,リソースシェアという点で制約が多いことなどが挙げられた。このような電子書籍の利用環境を,北米,日本の図書館,著作権者,出版社が協力してお互いの利益となるよう,改善していく必要があるとの主張があった。

   パネリスト3人は,海外の日本研究者・学習者を支援する立場として,海外からの日本のデジタル資料の利用につき,法改正を含めたアクセスの改善を望んでいる。そのため,このオンラインセミナーの開催時に,折しも実施されていた,文化審議会著作権分科会法制度小委員会による「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめに関する意見募集」に対し,ぜひ意見を寄せてほしいとの呼びかけが3人からあった。

   今回のオンラインセミナーは,北米の大学図書館における新型コロナ対応の実例について現場の図書館員の話を聞ける貴重な機会であった。特に,デジタル資料と著作権に関する問題提起は,コロナ禍で来館サービスに制限がある状況だからこそ検討が急がれる課題として,参加者に強い印象を残したようだ。実施後の参加者アンケートでは,「リアルタイムで海外の現場の話を聞くことができたのは,オンラインセミナーならでは」,「Zoomなので参加しやすかった」などの声も寄せられた。当委員会では,これらの反響を受け,このような海外と日本を結ぶ形式のオンラインセミナーの開催を2021年度以降も継続していくこととなった。コロナ禍で生まれた新しい研修形式として定着を目指したいと考える。

Ref:
“国際図書館協力委員会 セミナー”. 私立大学図書館協会.
https://www.jaspul.org/ind/committee/kokusai/seminar.html
Controlled Digital Lending by Libraries.
https://controlleddigitallending.org/
“Emergency Temporary Access Service”. HathiTrust.
https://www.hathitrust.org/ETAS-Description
“Student Journal Publishing”. University of Toronto Libraries.
https://guides.library.utoronto.ca/student_journals/library-publishing-services
“Course readings and reserves support”. University of Toronto Libraries.
https://onesearch.library.utoronto.ca/copyright/course-readings-and-reserves-support
Rocha, Fabiano Takashi. A Report on Preparing the Council on East Asian Libraries’s (CEAL) Statement on Collection Development and Acquisition Amid the COVID-19 Pandemic: in Collaboration with the North American Coordinating Council on Japanese Library Resources (NCC) and the Society of Chinese Studies Librarians (SCSL). Journal of East Asian Libraries. 2020, 2020(171), p. 30-40.
https://scholarsarchive.byu.edu/jeal/vol2020/iss171/5/
“図書館関係の権利制限規定の在り方に関するワーキングチーム”. 文化庁.
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/toshokan_working_team/
“文化審議会著作権分科会法制度小委員会「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に関する意見募集の実施について”. 文化庁. 2020-12-04.
https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/92686401.html
文化庁. 「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)に関する中間まとめ」に関する意見募集の結果について. 61p.
https://public-comment.e-gov.go.jp/servlet/PcmFileDownload?seqNo=0000213032
田中敏. デジタル化資料の共同リポジトリHathiTrust―図書館による協同の取り組み. カレントアウェアネス. 2011, (310), CA1760, p. 14-19.
https://doi.org/10.11501/3485918