E2230 – 持続可能なデジタルキュレーションおよびデジタル保存の研修

カレントアウェアネス-E

No.385 2020.02.13

 

 E2230

持続可能なデジタルキュレーションおよびデジタル保存の研修

関西館図書館協力課・東郷陽介(とうごうようすけ)

 

 2019年9月,米国の博物館,図書館,文書館およびその他の文化資源保存機関の連携促進を目的とする非営利組織Educopia Instituteは,“Sustaining Digital Curation and Preservation Training in the U.S.: Compiled Project Reports”という報告書を公表した。これは,米国の博物館・図書館サービス機構(IMLS)の助成を受け,2018年7月から2019年6月にかけて実施されたプロジェクト“Sustaining Digital Curation and Preservation Training”で公表された2部の報告書を1部に編集したものである。

 この報告書はデジタルキュレーションおよびデジタル保存の研修の内容とプログラムを構築・普及・維持するうえでの問題の紹介から始まっている。そして,プロジェクトの概要を紹介した上で,持続可能な研修を構築するための要点を示している。本稿では,この報告書の概要を紹介していく。

●現状の問題や課題

 報告書では,デジタルキュレーションおよびデジタル保存の継続的な研修は,急速に進化する情報環境下にいる図書館員・アーキビスト・キュレーターのスキル向上のために重要であるとしている。しかし,これらの研修機会を,様々なレベルや需要を持つ参加者に対し継続的かつ高い質で提供するには,多額の助成と研修プロジェクトを支える職員が必要となる。つまり,一旦その資金が途切れる,あるいはその職員や関係者が研修に対する優先順位を下げてしまうと,研修プログラムを維持できなくなるという危険が生じうると指摘している。

●プロジェクト“Sustaining Digital Curation and Preservation Training”について

 このプロジェクトの主な目標は,前述の問題や課題を受けて,デジタルキュレーションおよびデジタル保存に関する継続的な教育資源を開発または提供している様々な利害関係者と共に,持続可能な計画の筋書きや関係性を調査することである。そして,このプロジェクトには,米国の図書館等のネットワークLYRASISやノースイースト文書保存修復センター(Northeast Document Conservation Center:NEDCC)などの継続教育に関する関係者が多数参加し,会議を行い,主に研修講師・研修主催者・資金提供者の関係や連携の強化,カリキュラム・対象者・資金調達モデルなどの分野に焦点を当てた。

●持続可能な研修構築のための重要な要素

 要素としては,組織・ガバナンス,カリキュラム,対象者,資金調達モデルが挙げられているが,ここでは組織・ガバナンスとカリキュラムについて紹介する。

 まず組織・ガバナンスに関しては,主催機関とプログラムとの関係性がプログラムの成功に直接的に影響を及ぼす。例えば主催機関の目的と研修の目的との結びつきがスタッフ等の継続的な支援につながる。また,研修の立ち上げ時に重要な役割を果たした人が継続的に関わることによって,知識や経験が提供されて研修の継続性が確保される。

 カリキュラムに関しては,そのカリキュラムが個人のスキルや知識を高めてくれることを示すことが重要な要素となる。また,デジタルキュレーションおよびデジタル保存の実務が急速に変化している故に,研修内容に対しての定期的なレビューや更新も重要となってくる。そして,対面もしくはオンライン上の研修カリキュラムを提供するための役割や責任を持つ職員は,研修生の学習経験に大きな影響を与えるので,質の高い学習経験を提供するための指導に関する専門知識を明確化し身に付けることが研修プログラムを構築する上での核となる要素になる。

●結論として

 報告書では,本プロジェクトは参加機関同士の協力を継続し,新たなプロジェクトを開始するための土台を築いたとしている。また,持続可能な研修のための重要な要素を特定することで,すべての機関が研修プログラムの持続可能性を改善もしくは促進しようとする際に考慮すべき重点分野に対する共通認識を明確にしたとしている。このプロジェクトは正式なモデルを生み出したわけではないが,研修プログラムがより高いレベルで持続可能性を達成するため実行すべき活動が何か,を説明してくれるものである。

 報告書ではまた,以上のような持続可能な研修の構築に対する考えは,同じような問題を抱える他のテーマの研修に関しても,同様に参考になるのではないかとも述べている。本稿では取り上げきれなかった内容も多くあるので,ぜひ一読されたい。

Ref:
https://educopia.org/sustaining-digital-curation-and-preservation-training-compiled-reports/
https://educopia.org/wp-content/uploads/2019/09/Report_20191001.pdf