カレントアウェアネス-E
No.385 2020.02.13
E2229
IFLA,資料の寄贈に関するガイドライン増補版を公開
収集書誌部収集・書誌調整課・柴田洋子(しばたようこ)
2019年3月,国際図書館連盟(IFLA)収集・蔵書構築分科会から,資料の寄贈に関する図書館向けのガイドライン“Gifts for the Collections: Guidelines for Libraries”の2019年増補版(2019 Extended Edition)が公開された。
図書館が資料を収集する方法はさまざまあるが,個人又は団体から無償で資料の提供を受ける寄贈は,図書館の蔵書構築のための重要な手段の一つである。寄贈の場合,購入費用はかからないが,寄贈の申出から実際に図書館が資料を受け入れるまでの各プロセスにおいてコストや課題が生じることが多い。これらの課題に対応するため,2003年,IFLAベルリン大会の収集・蔵書構築分科会常任委員会において,世界中の図書館のベストプラクティスを文書化し,ガイドラインとして共有する必要性が認められた。そして,2008年に本ガイドラインの初版が公開された。
本ガイドラインでは,資料の寄贈に関する図書館と寄贈者のやりとりの際に生じるリスクや潜在的な負担を軽減し,寄贈された資料を確実に利用できるようにするため,各図書館がそれぞれの方針に基づいた寄贈に対する対応プロセスを明確にすることが望ましいと述べられている。
本ガイドラインは,寄贈の依頼や受入れプロセスにおける重要な側面に焦点を当てた7つの章とAppendixで構成されている。2019年増補版では,2008年に公開された初版から大きな構成や内容の変更はないが,Appendix 2として電子文書(E-documents)の寄贈に関する留意事項が追加された。第1章では寄贈に関する方針に必要な事項について,第2章では寄贈に関する案内について,それぞれ基本的な説明がなされている。第3章では,寄贈の申出があった場合の対応について,寄贈の申出者に対して明示すべき条件や手順の内容が述べられている。図書館が寄贈の受入れを判断するまでの間に対象資料を預かる場合のリスク,管理上の負担やコスト等を考慮し,申出者に対してあらかじめ明示すべき条件や提供を依頼するべき情報等が具体的に挙げられている。第4章では,特定の資料に対して図書館が寄贈を望む場合に,寄贈条件の調整や交渉を行う際の留意点が述べられている。第5章では,資料の受入判断に必要な情報として,その所有権,来歴,物理的状態,寄贈の申出者が求める利用に関する特殊な条件や制約等が示されている。また,寄贈に関する方針を文書化しておくことで,これに従い,図書館資料として受け入れないことを迅速に判断できるという利点についても言及されている。第6章では,資料の受入処理,組織化,保存等の各プロセスにおける人的コストや金銭的コストについて検討すべき課題が挙げられている。そして,第7章では寄贈契約を締結するにあたって必要な事項についての説明があり,契約書の雛形がAppendix 1として付されている。
2019年増補版で追加されたAppendix 2(電子文書の寄贈)では,各図書館において,ボーンデジタル資料やデジタル化資料等の電子文書に固有の受入れプロセスを検討し明確な寄贈方針を策定するとともに,その寄贈方法について公開することが望ましいとされている。たとえば,資料の受入判断に必要な情報として,従来の紙媒体で必要なものに加え,ハードウェアやソフトウェアの性能や互換性,ストレージ等の技術的要件,ファイルフォーマット,ライセンス,セキュリティ等についても検討しておく必要がある。また,対象資料の所有権や知的財産権の所在を明確にすることの重要性や,寄贈の合意に至る前に,人的コストや金銭的コストだけでなく技術的なコストも見積もることの必要性について言及されている。
本ガイドラインは館種や対象資料の媒体を問わない汎用的なものとして位置づけられている。日本においても,寄贈に関する方針や手順をウェブサイト等に明記している図書館が数多く見られる。図書館が各館の蔵書構築方針や対象利用者等を踏まえながら,新たな寄贈方針の策定や既存方針の見直しを考える際に,本ガイドラインがその検討の一助となることが期待される。
Ref:
https://www.ifla.org/publications/node/92027
https://www.ifla.org/files/assets/acquisition-collection-development/publications/gift_guide_2019_edition.pdf