カレントアウェアネス-E
No.363 2019.02.14
E2106
米国・公共図書館協会(PLA)2018-2022戦略的計画
●はじめに
米国・公共図書館協会(Public Library Association:PLA)は1944年設立の専門職団体であり,現在約9,000人の会員を擁するアメリカ図書館協会(American Library Association:ALA)傘下での最大の団体である。本部はシカゴのALA事務局と同じ場所にあり,15人の専任職員が配置されている。10人の理事会が運営組織の長となり,約25の委員会等が具体的な戦略的活動を議論し,会員や関連組織や支援者などに働きかけている。ただ,公共図書館員であっても加入しているとは限らない。米国労働統計局のデータでは13万人を超える図書館員(専門職)がいる。その中でも専門職意識の高い図書館員がこの団体に加入していると考えられる。
2018年現在,博物館・図書館サービス機構(Institute of Museum and Library Services:IMLS)が,他の連邦政府機関が行政活動を停止されているように,行政窓口として大きく停止されている期間では,PLAの活動が米国における公共図書館活動に大きな影響を与えていると思われる。ちなみにIMLSは新規プロジェクトや補助金付与に関しての活動が停滞しているものの,研究調査活動等は実施している。2017年に成立した博物館・図書館サービス法2017(S.2271 – Museum and Library Services Act of 2017)の改定により,その活動基金は復活しているものの限定的とされている。
そのPLAが団体としての活動計画を2018年6月に最終採択した戦略的計画(PLA 2018-2022 Strategic Plan;以下「PLA2018-2022年計画」)を紹介する。
●公共図書館活動計画
全米の公共図書館の活動指針としては,「公共図書館の戦後指針(Post-war Standards for Public Libraries)」がPLA設立以前の1943年にALAから公表され,具体的な「全米公共図書館活動計画(A National Plan for Public Library Service)」も1948年にALAから公表されている。その後,PLAが組織を拡大し発言力を高めるに至って,PLAの団体としての活動計画を作成するようになったのである。この戦略的計画は,全米の公共図書館活動計画ではなく,公立・私立を問わず公共図書館活動に関心ある図書館員が会員となっている団体の活動計画なのである。
ただ,このPLAの活動計画内容が現場の公共図書館に影響を与えるのは,州立図書館を通じての補助金申請あるいは多様な図書館活動への支援を行う民間財団への支援申請の際のプロジェクト企画に関連するからである。2008年のリーマンショック後の財政状況の悪化からまだ回復していない地域コミュニティにおける公共図書館の状況は,それ以前に比べ課題が山積している。日本ほどではないが,民間委託に運営を委ねる公立公共図書館もわずかながら増加している。連邦政府の補助金やビル&メリンダ・ゲイツ財団といった民間財団からの支援金は必須なのである。
では,PLA2018-2022年計画では何に重点が置かれているのだろうか。
●PLA2018-2022年計画
上記の博物館・図書館サービス法2017で大きく変更されたのは,対象となる博物館や図書館に部族(アメリカ・インディアン)の博物館や図書館が含まれるようになったことであり,この分野で働く専門職の教育に部族出身者の学生を積極的に導入することを示している。PLA2018-2022年計画でもこの法律改定と連動する形で重点目標を変更している。
PLA2018-2022年計画では5つの重点目標を設定している。(1)変革する-地域コミュニティのニーズに合致する公共図書館になる,(2)指導性-地域コミュニティのニーズにあう公共図書館とそのスタッフを育成・支援するためにPLAは指導性を発揮する,(3)アドヴォカシーと意識活性化-連邦政府レベルから地域,さらに国外にいたるまで公共図書館の存在を知らしめる,(4)平等・多様性・包括性そして社会的公平性(Equity, Diversity, Inclusion, and Social Justice:EDISJ)-これらを広め認識してもらう,(5)組織としての万全性-組織としての財政的安定維持と成長,となっている。
以前の計画,「2014-2017年計画」と大きく異なった点は,(4)のEDISJを加え,それまで掲げていた読書する国literate nationを削除した点である。また,全体的に米国内にとどまっていた視点が国際的な視点へと変わっている点であろう。計画や具体的な行動の策定の過程はPLAのウェブサイト内で公表されているのだが,最初は100%北米の図書館員会員に対してのみの計画と明記していたのが,多様性や包括性を踏まえて修整されていったのを見る限り,PLAも少しずつ視野を変えつつあるのかもしれない。
●課題
以前のものは3年間の計画(2014-2017年計画)であるが,社会の変化に短期間では対応しにくいということから5年計画へと変更された。そのAppendixで米国の公共図書館を取り巻く課題について細かくあげて,その対応をすることを求めている。具体的な課題としては,民間資金の活用を含め,費用対効果を考えた公共図書館活動の経済・ビジネス環境や,著作権・電子情報のライセンス・個人情報の秘密保護などの法政策問題,公共図書館がない国・地域からの新移民やベビーブーマー世代の高齢化といった地域コミュニティの住民の変化,情報技術の変化のなかで,技術よりもコンテンツを創造する場としての図書館の役割,伝統的な公共図書館と構造的な変化への対応,といった点をあげている。まず公共図書館員にその意識変化を求め,対応するためにこのPLA2018-2022年計画があることを示している。
獨協大学経済学部・井上靖代
Ref:
http://www.ala.org/pla/about/mission/strategicplan
https://www.bls.gov/ooh/education-training-and-library/librarians.htm#tab-1
https://www.imls.gov/about/mission
https://www.congress.gov/bill/115th-congress/senate-bill/2271
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000001-I083297783-00
http://iss.ndl.go.jp/books/R100000002-I000006411782-00
https://connect.ala.org/pla/communities/community-home/librarydocuments?LibraryKey=0ea0854a-f19d-4a4c-a04f-90c1b51315f1&CommunityKey=b390a850-462c-4f1c-a072-2a24ff9c02d1&defaultview=folder&libraryfolderkey=adfaf17d-06cc-48bc-9602-686a0aa16f5d
https://connect.ala.org/HigherLogic/System/DownloadDocumentFile.ashx?DocumentFileKey=b45483fc-34ec-bb42-9d85-db8298fc5c3b&forceDialog=0