E2083 – 第1回SPARC Japanセミナー2018<報告>

カレントアウェアネス-E

No.359 2018.12.06

 

 E2083

第1回SPARC Japanセミナー2018<報告>

 

 2018年9月19日に国立情報学研究所(NII)で第1回SPARC Japanセミナー2018「データ利活用ポリシーと研究者・ライブラリアンの役割」が開かれた。

 はじめに国際農林水産業研究センターの林賢紀氏から概要説明があった。2018年6月に「統合イノベーション戦略」が閣議決定され,同月に「国立研究開発法人におけるデータポリシー策定のためのガイドライン」(以下「ガイドライン」)を内閣府が公表するなど,研究者や図書館員がデータポリシー策定や研究データの品質管理,流通,提供に積極的に関与すべき状況にあるという背景が述べられた。

 講演では,最初に科学技術・学術政策研究所の赤池伸一氏と林和弘氏から,統合イノベーション戦略とガイドラインが目指す方向性が紹介された。赤池氏は内閣府参事官を併任する立場から政策的な背景を述べ,オープンサイエンスのためのデータ基盤の整備は統合イノベーション戦略の柱の一つであり,(1)研究データ利活用方針(データポリシー)の策定,(2)競争的資金等におけるデータ管理の要請,(3)研究データ利活用のための基盤の整備が論点となっていると説明した。これに対して日本では,データポリシー策定の遅れ,データの散逸の危険性,国際認証されたリポジトリが少ないことなどが課題であり,その解決のためにデータ基盤を整備し,研究分野の特性を踏まえながらプライバシー,国益などにも配慮して公開と保護の区別を図るオープン・アンド・クローズ戦略に基づく適切なデータ管理が重要であると指摘した。林和弘氏はガイドライン作成の経緯を述べるとともに,各研究機関でポリシーを策定することにより,研究データの不必要な流出を防ぐと同時に,データ作成者の貢献を正当に評価し,データの死蔵を避ける意義があることを指摘した。また,ガイドライン自体も各取り組みの進展に合わせた改訂を想定していると述べた。

 次に国立環境研究所地球環境研究センターの白井知子氏が同研究所のデータポリシーとデータ公開に向けた試みを紹介した。同研究所のデータポリシーは所外におけるデータ利用の推進を目的として,2017年4月に決定,公開された。部門や分野によって研究データの取り扱いに差があるため,研究所全体のポリシーとして技術的な方法ではなく,理念を示すことを主眼としている。策定にあたって,目的,公開範囲,品質・管理,帰属・利用条件,公開期間が論点となり,弁護士のアドバイスも受けて扱いを決めた。例えば利用条件では,意図せぬ転載を防ぐため原則としてデータの二次配布を認めないことにしている。ポリシー策定後は各研究部門や研究者がデータの公開を行い,提供者によってより詳細なポリシーを定める場合もある。今後は,研究現場におけるデータ公開の認識の向上や,人員・予算など運営体制の確立とともに,社会やコミュニティ全体での基盤整備や相互運用性の向上が課題であると指摘した。

 最後に国立民族学博物館(以下「民博」)の丸川雄三氏と石山俊氏から,地域研究画像デジタルライブラリ(DiPLAS)におけるデータベース共同構築の実際が報告された。丸川氏は事業の概要を紹介し,地域研究に関わる科研費プロジェクトで撮影された世界各地の写真を,民博が提供するプラットフォーム上でデジタル化,データベース化してDiPLASを構築していると述べた。また,今後はDiPLASフォトライブラリとして写真利用の窓口機能を備えるとともに,IIIFなどAPIへの対応を検討したいとのことであった。石山氏は具体的な事例に基づいてメタデータ入力作業の実際を述べ,研究分野の特性を踏まえてアーカイブ化することの必要性やメタデータ入力者が対象地域に対して知識,関心を持つ意義を指摘した。

 パネルディスカッションでは林賢紀氏がモデレーターを務め,各講演の質疑と補足に続いて,研究者と図書館員の役割を議論した。研究者は研究サイクルの中で自ら得たデータを管理,公開する適切なタイミングを認識し,他方,図書館員は研究者との対話により,それを実務的に支えることが求められるとの理解が共有されるとともに,両者がデータのキュレーションを担うため,公開を円滑に進めるツールの開発やノウハウの共有にも期待が寄せられた。

 閉会の挨拶でNIIの武田英明氏は,2018年9月5日に公開されたGoogle Dataset Search(ベータ版)を紹介し,こうした検索サービスの出現など研究データを取り巻く環境の変化を含めた,より広い議論が今後行われることを期待したいと締めくくった。

 本セミナーでは国の政策,ポリシー策定の実際,データベース構築の立場から立体的にデータ利活用のあり方が述べられた。今後,国,研究機関,研究部門など各層の動向を踏まえつつ,対話による研究者と図書館員の協力がより一層求められるだろう。一方,マクロに目を転じると,様々なステークホルダー間で研究データを巡る連携と競争が複雑に絡み合う近未来も垣間見えたように思う。

東京大学附属図書館・金藤伴成

Ref:
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2018/20180919.html
http://www8.cao.go.jp/cstp/tougosenryaku/index.html
http://www8.cao.go.jp/cstp/stsonota/datapolicy/datapolicy.html
https://www.nies.go.jp/kihon/kitei/kt_datapolicy.pdf
http://diplas.jp/
https://toolbox.google.com/datasetsearch