カレントアウェアネス-E
No.355 2018.10.04
E2064
公共図書館の障害者サービス:国立国会図書館の調査研究
国立国会図書館(NDL)では,2002年度から,図書館協力事業の一環として,図書館及び図書館情報学に関する調査研究を実施している(E1781参照)。
2017年度は「公共図書館における障害者サービスに関する調査研究」をテーマとして調査研究を実施した。本調査研究では,国内の全公共図書館に対して障害者サービスの実施状況に関する質問紙調査を行うとともに,その結果の整理・分析を通じて,障害者サービスの現状を明らかにすることを試みた。NDLは,2010年度にも今回と同じテーマで調査研究を行っている(以下「前回調査」)。前回調査以降,2016年に障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律が施行され,公立図書館は合理的配慮を提供する義務が課されるなど,障害者サービスをめぐる状況は大きく変化している。そのため,前回調査との比較も行い,サービス状況の変化も分析した。
調査研究を実施するにあたり,日本図書館協会障害者サービス委員会の委員である佐藤聖一氏(埼玉県立久喜図書館),返田玲子氏(調布市立図書館),新山順子氏(相模女子大学非常勤講師),野口武悟氏(専修大学文学部教授)には,本調査研究への助言を頂くとともに,報告書を分担執筆頂いた。また,八巻知香子氏(国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センター)をはじめ,多くの方から貴重な助言を頂いた。
質問紙調査では,1,397館に質問紙を送付し,その82.5%に当たる1,152館から回答を得た。その後,回答の整理・分析を行ったが,分析の特徴として,サービス実施状況の全体傾向を把握するために「指標1」「指標2」という2つの指標を設定したことが挙げられる。指標1は,利用者が図書館に来館せずとも録音資料を利用できるかどうかに焦点を当て,次の3要件を全て満たす図書館を「指標1適合館」とした。
- 録音資料(DAISY形式のCD又はテープ)の貸出を行っており,実績もある
- 特定録音物等郵便物の発受施設の指定を受けている
- 録音資料(DAISY形式のCD又はテープ)の郵送貸出サービス又は宅配サービスを行っており,実績もある
指標2は,音訳者の維持に密接に関わる録音資料の資料製作と,対面朗読の実施体制の整備に焦点を当てた。指標1の3要件に加え,次の2要件も全て満たす図書館を「指標2適合館」とした。
- 録音資料(DAISY形式のCD又はテープ)又はマルチメディアDAISYの資料製作をしている
- 対面朗読サービスの実施体制が整っている(実績の有無は問わない)
調査結果を踏まえ,全14章からなる報告書を作成した。調査結果のいくつかを次のとおり紹介する。無料で利用できる既存の制度・サービスが必ずしも活用されていない点,サービスの実施がそのまま利用に結びついていない点が課題として指摘できる。
- 指標1適合館,指標2適合館の割合はそれぞれ17.6%,10.0%であった。指標1適合館は,特定録音物等郵便物の発受施設の指定を受けていることを要件としているが,指定を受けていない館は50.9%と比較的高い割合であった。
- 「サピエ図書館」(視覚障害者情報総合ネットワーク)と「国立国会図書館視覚障害者等用データ送信サービス」(NDLが収集・製作した視覚障害者等向けデータをインターネット経由で提供するサービス)のいずれかに加入している図書館は12.8%,両方に加入している図書館は4.3%と低い割合であった。
- 障害者向け資料の個人貸出を実施している図書館数に比べて,貸出実績のある図書館数が少なく,個人貸出を実施していても貸出実績のない館が一定数存在した。
報告書のPDF版は2018年8月にカレントアウェアネス・ポータル及び国立国会図書館デジタルコレクションにおいて公開を開始した。冊子体についても,国内の公共図書館等に順次配布を行う予定である。各図書館での障害者サービスの向上のため,本調査研究の成果をご活用頂ければ幸いである。
関西館図書館協力課調査情報係
Ref:
http://current.ndl.go.jp/report/no17
https://doi.org/10.11501/11126532
http://current.ndl.go.jp/FY2010_research
E1781
E1800
E1918