E1971 – 第1回SPARC Japanセミナー2017<報告>

カレントアウェアネス-E

No.337 2017.11.16

 

 E1971

第1回SPARC Japanセミナー2017<報告>

 

 2017年9月13日,国立情報学研究所(NII)において第1回SPARC Japanセミナー2017「図書館員と研究者の新たな関係:研究データの管理と流通から考える」が開催された。

 京都大学大学院理学研究科助教の能勢正仁氏から,本セミナーの趣旨として,オープンアクセス(OA)の更なる推進のためには教育研究活動の成果である学術情報だけでなく研究活動の過程で生み出される研究データの管理・流通についても求められていること,研究データの管理・流通のためには図書館員と研究者が共通の視点を持ち協力関係を構築するための対話が必要であり,今回のセミナーはその議論の場としたいとの説明がなされた。

 慶應義塾大学文学部教授の倉田敬子氏からは,研究データの共有や公開に関する日本の自然科学系研究者を対象としたインタビュー調査および日本の大学・研究機関を対象とした研究データの管理,保管,公開状況調査の概要が紹介された。研究データの管理には研究支援全体の文脈の中で研究プロセスを理解することが必要であり,研究プロセスおよび研究データのライフサイクルの両方をよく理解しないと研究者と研究データの管理担当者の認識を一致させることができないとの指摘がなされた。また,図書館員の新しい役割の一つとして研究データの保管や管理計画を支援する広義の学術情報支援部門の構築が考えられるが,これは図書館だけでなく大学全体としての研究支援の枠組みであり,その中で図書館の役割を考えることには意味があるはずであるとの期待が述べられた。

 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構農業環境変動研究センターの大澤剛士氏からは,オープンデータを利用し研究する立場から,研究データのオープン化は研究情報および研究データの円滑な流通が鍵となることが示された。研究データをオープン化することの研究者と図書館員双方のインセンティブは何か,またデータ管理という視点から図書館員の新しい役割を創出できるのではないかとの問題提起がなされた。セミナー参加者との意見交換が行われ,図書館が組織として研究データの管理・流通に携わる協力関係が望ましいとの意見が参加者より述べられた。

 鹿児島大学の西薗由依氏からは,オープンアクセスリポジトリ推進協会(JPCOAR)研究データタスクフォースの活動として研究データ管理(RDM)トレーニングツールが紹介された。RDMトレーニングツールは研究データ管理に関する基礎的な知識やスキルを習得できるだけでなく,各機関による組織的なサービス構築の足掛かりとなるよう構成されており,基礎知識の習得以上の様々な活用が期待されている。同ツールをベースにNIIが制作した無料オンライン講座も準備されている。

 お茶の水女子大学の片岡朋子氏からは,日本の機関リポジトリのメタデータ交換フォーマットであるjunii2の改訂版となる新しいメタデータスキーマとしてJPCOARスキーマの概要が紹介された。同スキーマではオープンサイエンスへ対応した要素の拡充が行われている。例えば,研究データに対応した要素として,研究データのバージョン情報や研究データへの寄与者の役割を示す属性が追加された。ORCID(CA1740参照)などの識別子の活用や各種サービスとの連携による更なる国際的な学術情報流通の促進が期待される。

 NIIの武田英明氏からは,研究データ利活用協議会(RDUF;E1831参照)の紹介がなされた。RDUFは研究データ利活用に関する国内外の事例の共有などにより,日本における研究データ利活用の推進に寄与することを目的として設立された協議会である。研究データに関する会員間の議論の場として研究会や報告会,メーリングリストを介した意見交換を実施している。2017年度には新たな活動として小委員会が設置された。2017年度の小委員会は研究データの管理計画やライセンスの検討,国内の分野リポジトリ関係者のネットワーク構築をテーマとし,関係者間で利用可能な提言等の作成が予定されている。

 各氏からの講演に続き,能勢氏をモデレーターとして全体議論が行われた。議論はTwitterから寄せられた質問を交えて進められた。図書館が組織として研究データ管理に関わる上での望ましいサポート体制とはどのようなものか活発な意見交換がなされたほか,研究者の退職時や研究テーマ変更時におけるデータの保管方法といった既に直面している具体的な課題についても関心が寄せられた。

 本セミナーでは,様々な職種,部署の者が共通認識を持ち協働すること,そのための対話の必要性が繰り返し提示された。研究機関における研究データの管理・流通サービスへ図書館員が果たす役割とは何かについて,当事者の一人としてまずは身近な関係者とコミュニケーションを取るところから始めることになると考える。

一橋大学附属図書館・山口友里子

Ref:
https://www.nii.ac.jp/sparc/event/2017/20170913.html
https://jpcoar.repo.nii.ac.jp/
https://japanlinkcenter.org/rduf/
E1831
CA1740