E1740 – 「岐路」に立つ米国の公共図書館:意識調査の結果から

カレントアウェアネス-E

No.293 2015.11.26

 

 E1740

「岐路」に立つ米国の公共図書館:意識調査の結果から

 

 2015年9月15日,米国のPew Research Centerは,米国民を対象に公共図書館(以下図書館)に対する意識とサービスの利用実態等について尋ねた調査の報告書“Libraries at the Crossroads”を発表した。調査期間は2015年3月17日から4月12日まで,16歳以上の米国民2,004名を対象とした電話調査であった。調査では,「学歴」「人種・民族」「世帯年収」などの属性別の分析結果が示され,Pew Research Centerが実施した過去の調査における同様の質問項目への回答結果と比較されている。

◯米国民にとっての図書館の意義と用途
 まず,回答者の89%が,地域の図書館の閉鎖は地域社会に影響を与えると回答し,65%が本人ないし本人の家族にとって影響があるとしている。

 次に,過去1年間の図書館の利用に関しては,

    (1)図書館または移動図書館を訪れた:46%
    (2)図書館のウェブサイトへアクセスした:22%
    (3)館内で,PCを使用またはインターネット,Wi-Fiに接続した:27%

という結果で,これらの値はいずれも2012年,2013年に実施された調査から数ポイント減少している。 

 一方で,図書館での電子書籍の貸出しサービスに関する認知度が向上しているとされ,地元の図書館に電子書籍の貸出しサービスがあることを認識しているのは,2012年の31%に対し,今回は38%となっている。このうち,実際に過去1年間に電子書籍を借りたことがあるのは,16%(回答者全体の6%)であった。その他,興味深い結果として,(1)の回答者のうち6%が,営業時間外の図書館のWi-Fiに接続して利用したことがあることも報告されている。

 続いて,図書館の用途に関しては,過去1年間に図書館を訪れた回答者を母数とした結果が示されている。特に,紙媒体の資料の貸出しと図書館員へのレファレンスについて,2012年の調査と比較し,前者は73%から66%へ,後者は50%から42%へと落ち込んでいることに言及されている。

 その他,図書館のウェブサイトまたはモバイルアプリを過去1年間に使用したことがあると回答した人の42%,図書館のPCまたはインターネット,Wi-Fiを利用したと回答した人の60%が研究や宿題のための利用であったという。

◯米国民は図書館にどのようなサービスを期待するか
・教育
 米国民の教育に関する図書館への期待は高く,「児童の就学準備のために無料の早期リテラシープログラムを提供すべき」,「児童向けのリソースの提供に関し学校と連携すべき」とした回答者はそれぞれ85%であった。また多くの人(78%)が,図書館はリテラシーの向上と読書推進に有用であると回答している。また,65%の回答者が,図書館は情報が信用できるかどうかを判断する際に役に立つと考えている。

・新しい技術習得の場として
 70%の回答者が,図書館は新しい技術を習得する場として有用であると考えていて,どのようなサービスを図書館に望むか,という質問に対しても78%が,「PCやスマートフォン,アプリなどの使い方を教えるべき」と回答し,76%が「プライバシーの保護とインターネットセキュリティに関するサービスを提供すべき」としている。

・ビジネス支援
 ビジネス支援のサービス等を提供するべきであると回答したのは52%であった。また,45%の回答者が,3Dプリンターなどの機器を購入すべきであると回答している。

 以上のほか,米国民は軍人や移民のためのプログラムやサービスを望む声も大きいことも言及されている。

◯回答者の属性から
 報告書の3章でも扱われているが,世帯年収が3万ドル未満の者,黒人,ヒスパニックの回答者については報告書を通じて特筆されていることが多く,これらの人々は図書館を,様々なサービスを提供する「頼みの綱」(anchor)としてとらえているとされる。

 一方で,紙媒体の資料の貸出しに関しては,大卒のうち80%,世帯年収が7万5,000ドル以上の者(以下高所得層)のうち76%がサービスを利用しているのに対し,黒人は50%,ヒスパニックは58%と利用率が低い。また,図書館に電子書籍サービスがあるという認識が高いのも大卒(52%),高所得層(44%)などである。

◯図書館の「岐路」とは
 本調査においてその結果が特筆されている質問に,「図書館は,紙媒体の本や書架をなくし,技術センターや閲覧室,会議室や文化イベントのための場所を設けるべきか?」がある。2012年の割合と比較されていて,「そうかもしれない」の値は40%程度で変わっていないものの,「全くその通り」は20%から30%に,「全くそうではない」は36%から25%に転じている。また,図書館は敷地面積を縮減すべきか,という質問に対しては,64%の回答者がこれを否定していて,もっとスペースが必要であると回答している。

 以上の回答結果は,図書館の役割については,紙媒体の本の貸出しなど旧来の機能の維持を求める声と,デジタル化社会へ順応したサービスを提供し,コミュニティスペースや技術センターとしての機能も果たすべきであるという声とが存在することを浮き彫りにしたもので,報告書では、図書館は米国民の中で一定の地位を占める施設である一方,「岐路」に在り,図書館への要望は錯綜しているとされている。

 2014年度に国立国会図書館(NDL)が実施した「図書館利用者の情報行動の傾向及び図書館に関する意識調査」の結果と比較すると,日米で共通する点も多いと思われるが,図書館が閉鎖した際の影響の多寡(NDLの調査では,地域に影響があると回答した割合は56%,本人ないし本人の家族については47%)など,結果が大きく異なるものもある。今後,国内においても図書館への意識と利用実態に関する継続的な調査が望まれる。 

関西館図書館協力課・葛馬侑

Ref:
http://www.pewinternet.org/2015/09/15/libraries-at-the-crossroads/
http://www.pewinternet.org/files/2015/09/2015-09-15_libraries_FINAL.pdf
http://libraries.pewinternet.org/2013/05/01/parents-children-libraries-and-reading/
http://libraries.pewinternet.org/2012/12/27/e-book-reading-jumps-print-book-reading-declines/
http://libraries.pewinternet.org/2013/01/22/library-services/
E1519
http://current.ndl.go.jp/FY2014_research