E1739 – 2015年米国図書館協会(ALA)年次大会<報告>

カレントアウェアネス-E

No.293 2015.11.26

 

 E1739

2015年米国図書館協会(ALA)年次大会<報告>

 

 2015年6月25日から30日にかけて,サンフランシスコで2015年米国図書館協会(ALA)年次大会(E669E816E955E1074参照)が開催され,2万2,000人以上が参加した。筆者は米国での在外研究期間中に同大会に参加する機会を得た。本稿では,同大会で印象に残ったことを中心に報告したい。

 ALA年次大会は2015年6月27日から28日に開催されたサンフランシスコ・プライド・パレードと同時期に行われた。そのため,同大会はレズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー・クィア(LGBTQ+)や多様性に関する話題を中心に盛り上がった。マリーグローブ大学のコール(Amy Call)氏は近年小規模の出版社から様々な恋愛の形を描くLGBTQ+のロマンス小説が数多く出版されていることを紹介し,LGBTQ+向けの蔵書を構築する上で,LGBTQ+に対する偏った観念にとらわれることなく,幅広い視野で利用者のニーズに応えていく必要があることを説いた。また,多様性に関する書籍等を扱う出版社のLee&Low社のロー(Jason Low)氏は,様々な来歴を持つ人々を編集者として養成するインターンシップを自社で実施していることと,他社に対しても有色人種,LGBTQ+や障害者を採用する働きかけを行っていることを紹介した。

 ニューヨーク公共図書館(NYPL)のノイアー(Johannes Neuer)氏は,SNS上の情報を用いて利用者の情報行動を総合的に分析し,マーケティングに有効な戦略を導き出すSocial Flowを使った利用促進のマーケティングの取り組みについて,Social Flowの開発会社等と共に紹介した。NYPLでは提供している様々なコンテンツの実際の利用数や利用者によるSNS上の評価に関して詳細に把握し,図書館の利用促進に活用するため,Social Flowを導入したという。分析結果から,NYPLでは利用者がSNSを読む時間帯に合わせてコンテンツの宣伝をすることにした。Social Flowを導入したことにより,NYPLのコンテンツに関するツイート数は増加し,図書館員のモチベーションを高めることに繋がったとのことである。SNSについてはポートランド州立大学図書館のプティ(Joan Petit)氏が,米国の学校現場で問題視されている“Yik Yak”の活用方法について発表した。“Yik Yak”は匿名で投稿するTwitterとも呼ばれ,世界中のツイートが読めるTwitterと違い,周辺に存在する利用者のメッセージを読むことができ,気に入ったメッセージに対して投票できる仕組みの人気アプリである。この匿名性および場所限定の閲覧機能により,学校でいじめに使用され,社会問題となっている。プティ氏はこの性質を逆手にとって,図書館員が学生の本音を知り,同時に図書館を宣伝するツールとして利用していると紹介した。

 筆者が参加した中で最も好評だった発表は,オハイオ州・ウェスタービル公共図書館のヘニング(Jesse Henning)氏の図書館における本の展示方法の発表であった。ヘニング氏は本の展示を通して利用者に笑いを届けることをモットーとしている。重要なのは利用者に展示されている本を手に取ってもらうことではなく,その展示をきっかけに図書館員が利用者と会話することによって利用者のニーズを知ることであると説いた。公共図書館の地元へのアドヴォカシ-活動を支援しているOCLCの“Geek the Library”と公共図書館協会(PLA)の“Turning the Page”キャンペーンの今までの成果,また書籍産業研究グループ(BISG)とALAが共同で調査した公立図書館におけるデジタルコンテンツの動向が報告された。

 役立つコンテンツを紹介する発表も多く,例えばピッツバーグ大学のコリンズ(Lydia Collins)氏は,米国国立医学図書館(NLM)が提供する子ども用のMedline Plusを含む子ども向けツールを紹介し,合わせて研究者用のMedline Plusにも子どもたちの日常生活に役立つ情報が載っていることを言及した。これ以外にも,毎年ALA夏季大会で優れたアプリを紹介している米国学校図書館員協会(AASL)は「2015年度教育現場で使えるベストアプリ25」を発表した。米国の教育現場において,電子書籍と異なってアプリはプラットホームを導入する費用がかからないため,資金力の乏しい学校図書館でよく利用されているという。25のアプリの中で,“Remind”という生徒と親と学校を繋ぐ無料アプリが多くの図書館員の関心を集めていた。このアプリはプライバシー面に配慮しており,個人の電話番号などを知られることがなく,どのデバイスを使用していても直ぐにテキストメッセージや電子メールが届き,また相手がメッセージを読んだかどうかを確認できるという特徴がある。学校は電話連絡網などを使わずに一斉に生徒にテキストメッセージを通知することも,生徒や親と個別にチャットをすることも出来る。メッセージが指定日に届くような予約機能を使ったり,PDFファイルを添付したり,声のメッセージを送ることも可能だという。

 次年度のALA年次大会は6月23日から28日まで,フロリダ州オーランドで開催される予定である。

国際子ども図書館資料情報課・東川梓

Ref:
http://alaac15.ala.org/
http://www.ala.org/glbtrt/glbtrt
http://alaac15.ala.org/m/node/29832
https://www.leeandlow.com/about-us/the-diversity-baseline-survey
http://alaac15.ala.org/m/node/30110
http://www.socialflow.com/tag/nypl/
https://developers.facebook.com/docs/analytics
https://analytics.twitter.com/about
http://www.yikyakapp.com/
http://www.jessehenning.com/displays/
http://www.geekthelibrary.org/
http://turningthepage.org/
https://www.bisg.org/consumer-research
https://www.nlm.nih.gov/medlineplus/childrenspage.html
https://www.nlm.nih.gov/medlineplus/bullying.html
http://www.ala.org/aasl/standards-guidelines/best-apps/2015
https://www.remind.com/
E669
E816
E955
E1074