E1301 – 電子レファレンス資料の課題と考え方<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.216 2012.06.14

 

 E1301

電子レファレンス資料の課題と考え方<文献紹介>

 

Polanka, Sue ed. E-Reference Context and Discoverability in the Libraries: Issues and Concepts. Information Science Reference, 2012. 294p. ISBN-13: 978-1-61350-308-9.

 資料のデジタル化とウェブによる提供は,図書館におけるコレクション構築に大きな変革をもたらしつつある。特に,レファレンス資料は,通読するというよりは必要に応じて参照する資料であり,その影響は大きい。現実に,出版社は電子コンテンツと全文インターフェースの提供に重点を置いている。古典的なレファレンス資料はオンライン上のインタラクティブな製品となり,印刷体資料の利用は減り続けている。それにも関わらず,完全に電子レファレンス環境へ移行することができないでいる図書館も存在する。学生は調査の出発点として検索エンジンやウィキペディアを頼りにしつつあり,従来のレファレンス資料は忘れ去られつつある。

 このような状況で次のような質問が提起されている。公共図書館,大学図書館,学校図書館でレファレンス・コレクションとなるものは何か?図書館員や出版社が電子レファレンス・コンテンツの発見可能性を高めるにはどうしたらよいか?現代の研究者の変わりつつあるニーズに図書館は十分に応えているのか?

 本書「図書館における電子レファレンス環境と発見可能性:課題と考え方」は,全5部23章の論文から構成される論文集で,上記の課題を分析し,それに対する解決策を提供するものである。各章の執筆者は,図書館員や出版者,他の業界の専門家である。

 第1部は図書館,出版者,エンドユーザの視点から劇的に変化しつつある電子レファレンスの状況を検討する。第2部では調査研究における情報リテラシーの価値を探求する。第3部はレファレンス・コンテンツの設計と提供についてさらに吟味する。第4部は電子レファレンス資料の発見可能性と環境がもたらす可能性を扱い,発見可能性を高めるために図書館及び出版者が取り得る戦略について探る。第5部は図書館と出版者の内部状況を垣間見ることができる事例研究を提供する。

 本書は,電子レファレンス資料の様々な課題について多面的な取り組みをまとめた論文集である。理論編としての第1部及び第2部,応用編としての第3部及び第4部,事例編としての第5部のバランスがよくとれており,今後の電子レファレンス資料の取り扱いを検討する上で非常に参考になるものであろう。

(名古屋大学附属図書館・加藤信哉)

Ref:
http://www.igi-global.com/book/reference-context-discoverability-libraries/53011
http://www.pagegangster.com/p/xWKkA/