E1338 – 大学図書館でのディスカバリツールの計画と実装<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.222 2012.09.13

 

 E1338

大学図書館でのディスカバリツールの計画と実装<文献紹介>

 

Popp, Mary Pagliero; Dallis, Diane. Planning and Implementing Resource Discovery Tools in Academic Libraries. Information Science Reference, 2012. 732p. ISBN-13: 978-1-4666-1821-3.

 ウェブスケールディスカバリ(CA1772参照)の現状と課題を多面的に取り扱った研究書であると共に導入を検討する際に参考となるハンドブックが刊行された。本書は,図書館利用者が複数のウェブリソースを同時に検索し,利用可能な検索結果を入手するソフトウェアであるディスカバリ・ツールの評価や選択,実装を扱っている。

 本書は,第1部「ディスカバリの枠組み」,第2部「ディスカバリ・ツールの選択」,第3部「利用者の経験(1)利用者の行動と経験」,第4部「利用者の経験(2)ディスカバリ・ソリューションの実装における利用者テストと利用者中心デザイン」,第5部「実装」,第6部「現場のディスカバリ:利用されているディスカバリ・ツールの代表例」,第7部「ディスカバリへの批判」から構成され,インディアナ大学図書館のポップ(Popp)氏とダリス(Dallis)氏による編集の下に,主に北米の大学図書館の管理者や業務担当者89人が執筆した40編の論文が収録されている。

 本書は様々な利用の仕方が可能であろう。北米及び英国の大学におけるディスカバリ・ツールの導入事例の実際を知りたければ,第6部を見れば良い。OCLCのWorldCat Local,Serials Solutions社のSummon,EBSCO社のEBSCO Discovery Service,Ex Libris社のPrimo Central及びInnovative Interfaces社のEncore Synergyの導入事例が報告されている。また,ディスカバリ・ツールの評価については第2部,利用者テストと利用者中心デザインを含む導入の際の留意点については第3部及び第4部,実装までの具体的なプロセスを知りたければ第5部がそれぞれ参考となろう。

 さらにコンテンツ中心から利用者中心へ舵を切ったディスカバリ・ツールの意義,今後の大学図書館サービスに及ぼす影響やその限界についても考える必要がある。なぜなら,ウェブスケールディスカバリは,利用者が求める情報を即座に単一の場所から検索できる大変便利なものであるが,利用できるデータの量や質に多くの制約がある。そしてウェブスケールディスカバリによって個別の情報がいくら素早く出てくるからといって,研究論文の作成を初めとする,情報や知識の統合とクリティカルシンキングが求められる大学の学術目標がそれだけで支援されるわけではないからである。この点から,第1部の最初の章「教員及び学生の情報探索行動の理解」,第7部の第38章「ウェブスケールディスカバリ:バベルの図書館?」や第39章「ウェブスケールディスカバリ環境と変わりゆく図書館サービス及び業務処理」が問題を理解し,考えを深めるのに役立つであろう。

(名古屋大学附属図書館・加藤信哉)

Ref:
http://www.igi-global.com/book/planning-implementing-resource-discovery-tools/62623
CA1772