E1098 – アイルランドの公共図書館による小学校へのサービス調査報告

カレントアウェアネス-E

No.179 2010.09.16

 

 E1098

アイルランドの公共図書館による小学校へのサービス調査報告

 

 2010年8月25日,アイルランドの教育・技能省は,「公共図書館と学校:アイルランドにおける小学校への図書館サービスの政策と展望」と題した調査報告書を発表した。

 この報告書は,”Schools Library Service”(SLS)の現状を検証し,今後のサービスの改善につなげる目的で作成されたものである。SLSとは,公共図書館の所蔵資料を,公共図書館ネットワークを利用して,学校へ貸し出すサービスを意味する。報告書の内容は,アイルランド国内の32の公共図書館管轄機関への電話での聞き取りと一部の館へのアンケート調査,同様に小学校の校長や教員に対するアンケートと聞き取り調査に基づくものであり,小学校の教員と児童のニーズに対して,公共図書館ネットワークの行うサービスが具体的にどのような役割を果たしているのかにポイントが置かれている。

 調査結果の一部をまとめると以下の通りになる。

  • 2008-09年の統計によると全小学校3,303校に498,941名の児童が在籍しており,SLSはそのうちの3,200校以上484,000名を越す児童をサービス対象としている。しかし,SLSを実施する個々の公共図書館によってそのサービス内容が異なり,全国的な標準が存在していない。
  • 教育・技能省が1971年から行ってきたSLSに対する財政支援は,2008年では220万ユーロでSLS総予算519万ユーロの42%にあたっていた。しかし,この財政支援が2008年で打ち切られたために,SLSの継続は全国規模で危機に瀕している。
  • SLS以外に小学校が公共図書館へ望むサービスは,教員および児童に対するカレントアウェアネスサービス,オンラインでのレファレンス資料へのアクセスの確保,そして教員と児童の情報スキルの向上のための支援が上位3つを占めた。
  • 2009-10年の小学校側のニーズと活動計画および公共図書館の小学校教育への支援計画を見ると,児童書コレクションの提供,授業での公共図書館への訪問促進,読書活動支援の点では学校側の要望と公共図書館の意図が合致したものとなっていた。また,学校から公共図書館に対するニーズでは,教員や児童へのレファレンスサービスの実施,公共図書館のイベント活動情報の提供,学校図書館の組織・運営支援などが挙げられており,それらを公共図書館側もアジェンダとして認識していた。さらに,学校側と公共図書館側双方ともが電子リソースを活用するためにICT(情報通信技術)の利用を志向していた。

 報告書は結びとして,教育・技能省がSLSから手を引くことを決定したことを受け,これまでSLSに関する政策を実行してきた環境・遺産・地方自治省の”Branching Out Steering Committee”に対して,全国の小・中学校への図書館・情報サービスの提供についての政策を立て直すように求めている。また,公共図書館に対しては,公共図書館による子どもへのサービスの拡大とICT利用の促進,学校との連携強化のために,学校へのサービスの促進を行う必要があることを勧告している。

 この報告書に対して,2010年9月1日にアイルランド図書館協会(Library Association of Ireland)は批判的な見解を表明した。教育・技能省が小学校内の図書館のサービス提供については直接関与しないと述べていたこと,一館当たりの資金援助額が本当に適切な図書館サービスを行うには不十分であること,すでに削減され続けている財政状況の中で,求められるサービスと学校支援を公共図書館が提供することは難しいだろうことなどを憂慮している。

Ref:
http://www.library.ie/wp-content/uploads/School_Report2010.pdf
http://www.education.ie/servlet/blobservlet/web_stats_08_09.pdf
http://www2.libraryassociation.ie/2010/09/01/library-association-response-to-the-report-the-public-library-and-the-school-policies-and-prospects-for-library-services-to-primary-schools-in-ireland/