E1066 – 電子出版の課題や制度等について検討した3省懇談会の報告

カレントアウェアネス-E

No.174 2010.07.08

 

 E1066

電子出版の課題や制度等について検討した3省懇談会の報告

 

 総務省,文部科学省,経済産業省の3省は,日本の電子出版の課題や必要な制度などについて検討する「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」を設置し,2010年3月以来,懇談会を3回,出版の利活用の在り方に関するワーキングチーム会合を6回,技術に関するワーキングチーム会合を7回開催し,議論を深めてきた。2010年6月28日,これまでの議論の成果をまとめた「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会報告」が発表された。

 この報告は,「デジタル・ネットワーク社会における出版物の円滑かつ安定的な生産と流通による知の拡大再生産の実現」「オープン型電子出版環境の実現」「『知のインフラ』へのアクセス環境の整備」「利用者の安心・安全の確保」に向けた提言として取りまとめられたもので,「第1章 基本的視点」「第2章 出版物の利活用の在り方」「第3章 技術的課題の解決」「第4章 具体的施策の方向性とアクションプラン」の4つの章から成る。

 第1章では,電子出版の利活用推進の基本的視点として,知の拡大再生産を前提とした上で,国民の「知のアクセス」が保障されるような環境整備の必要性が掲げられている。

 第2章では,出版物の継続的創造と市場の活性化を図るための論点がまとめられている。具体的には,(1)「権利の集中管理」を行うための制度的・組織的アプローチについて引き続き検討するため,著作者や出版者などの関係者で検討会議を設置すること,(2) ファイルフォーマットや文字コードの統一について検討する場を設け,具体的な検討に着手すること,(3) 国立国会図書館(NDL)を始めとしたデジタル・ネットワーク社会における図書館の在り方について検討するため,関係者で協議会を設置し,関係者間で合意 が得られたものから逐次実現に向けた取組を実施すること,などが挙げられ ている。

 第3章では,第1章に掲げた基本的視点に基づき,オープン型電子出版環境の実現,知のインフラ構築,国民へのアクセス環境の整備のために必要な技術的課題について,検討を行っている。具体的には,国内ファイルフォーマット(中間フォーマット)の共通化,EPUBなど海外デファクト標準への対応,日本語表現が可能なファイルフォーマットの国際規格化,公共財としての電子出版物の保存,国内の書誌情報(MARC等)の標準化,メタデータの相 互運用,全文テキスト検索,電子出版物の図書館による貸与,アクセシビリティの改善などが挙げられている。これらの中で図書館と関係が深いものを紹介すると,電子出版物の保存について,知的資産の次代への継承と新たな創造の基盤を構築する観点から,NDLにおける出版物のデジタル保存に係る取組を継続・拡充していく必要性が指摘されている。また,国内の書誌情報の標準化について,関係者による会議を設置し,紙の出版物と電子出版物の両方を統一的に扱える書誌情報フォーマットの策定・標準化などについて具体的な検討・実証を進めることにも言及されている。

 第4章では,第2,3章で提起された具体的施策が改めて整理されており,報告の骨子を概観できる。

 この報告の提言を受け,今後どのように施策が推進されていくのか,引き続き動向を注視したい。

Ref:
http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/02ryutsu02_02000034.html
http://www.soumu.go.jp/main_content/000072064.pdf
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/shuppan/index.html
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20100622_376075.html