カレントアウェアネス-E
No.172 2010.06.10
E1057
アクセシブルな電子書籍プラットフォームに向けて
2010年4月,英国情報システム合同委員会(JISC)の一部門であるJISC TechDisとJISC Collections,及び英国の出版社団体Publishers Licensing Societyは連名で,“Towards Accessible e-Book Platforms”(『利用しやすい電子書籍プラットフォームに向けて』)という実践ガイド集を刊行した。文字の拡大,テキストの音声読み上げといった操作が可能な電子書籍は,印刷された文字を読むのが難しい障害(ディスレクシア,視覚障害,肢体不自由等)を持つ人々に,新しい可能性をもたらす。こうした特徴を持つ電子書籍を,誰にとっても使いやすい形で提供できるプラットフォームとはどのようなものなのだろうか。このような問題意識の下,上述の3機関が資金提供を行い,出版社が実際に提供している電子書籍プラットフォームを障害のある人に試してもらうという実験が行われた。この実践ガイド集は,実験で得られた障害のある人の意見を参考にして,今後の開発に役立つポイントをコンパクトにまとめたものである。
ガイド集はまず,「ログイン」「検索」「ナビゲート」「テキストへのアクセス」「テキストのエクスポート」という操作の各段階における課題等をまとめている。例えば,「ナビゲート」では「プラットフォームでは文字の拡大が可能だがテキスト本文ではできない等,全体で機能が一貫していない」「音声認識やキーボードのみでの操作では使用できない機能がある」といったことが,「テキストへのアクセス」では「テキストの文字の拡大機能,文字を拡大するとページにフィットするよう自動的にテキストが調節される機能が必要である」「テキストの文字の色やコントラストをカスタマイズする機能が必要である」といったことが指摘されている。
実験全体を通じて得られた重要なメッセージとしては,「電子書籍は,障害のある人に一定の自立と伝統的な印刷メディアでは難しかったカスタマイゼーションをもたらす」「それぞれのプラットフォームのよい要素を集めれば,非常に使い易いものになる。アクセシビリティとは遠い目標ではなく,実現可能なものである」「多くの課題は技術の限界ではなく,技術の実装に関わっている」を含め,9つのポイントが指摘されている。
では,上記のような指摘を踏まえ,これから出版社はどういった電子書籍プラットフォームを開発していけばよいのだろうか。ガイド集では,戦略的優先事項として「よい実践例に基づくアクションプランを作成する」「様々な支援機能の利用者実験を計画する」等,実践的優先事項として「アクセシビリティに関する声明を作り,アップロードする」「支援とフィードバックのために,コンタクトパーソンへの電子メールリンクを掲載する」等を挙げている。なお,このガイド集よりさらに詳細な情報は,JISC TechDisのウェブサイトで入手することができる。
Ref:
http://www.techdis.ac.uk/resources/files/e-books%20leaflet%20final.pdf
http://www.techdis.ac.uk/getebookplatforms
http://www.jisc.ac.uk/Home/news/stories/2010/05/ebooks.aspx