E1058 – 図書館間相互貸借の環境への影響に関するレポート

カレントアウェアネス-E

No.172 2010.06.10

 

 E1058

図書館間相互貸借の環境への影響に関するレポート

 

 OCLCの研究部門であるOCLC Researchは2010年5月17日,図書館間相互貸借(ILL)業務が環境に与える影響に関するレポート“Greening Interlibrary Loan Practices”を公表した。このレポートは,2010年1月に完了した委託調査の結果をまとめたものである。調査では,ILL業務における環境への影響を減らすためのベストプラクティスを見出す目的で,OCLCのネットワークに参加する12館に対し,聞き取り調査が行われた。さらに,10館からは配送方法やガイドライン,梱包材の成分などのデータが収集された。

 レポートでは,環境に影響を与える要因が,「梱包」「配送」「紙の使用」「廃棄物」という4つのカテゴリーに分けられている。「梱包」「配送」「廃棄物」の3つのカテゴリーについては,2004年に実施された米国Franklin Associates社の調査が紹介されている。それによると,ILLの処理1件当たりの温室効果ガス排出量の内訳は,梱包材の作製過程による排出が51%,配送が48%,廃棄物処理が1%とのことで,「廃棄物」の割合は小さい。

 調査対象館からの聞き取りで得られた,ILL業務における環境への影響を減らすためのベストプラクティスは,影響の大きい「梱包」「配送」「紙の使用」という3つのカテゴリーに関するものを中心に,以下のような推奨事項としてまとめられている。

  • 梱包材を再利用すること
  • 他の機関が再利用しやすい梱包にすること
  • 必要最小限のサイズの梱包材を使用すること
  • 最も近い所蔵館から貸出すること
  • 同一の宛先への貸出資料と返却資料を一つの梱包にまとめること
  • 航空輸送ではなく陸上輸送を使うこと
  • 再生紙を使うこと

 また,「紙の使用」については,ILL管理システムや電子的な文献伝送システムが紙の使用量の削減に貢献しているとのことで,文献複写の処理では受付から文献の送付までを電子的に行うことで紙の使用量をゼロに,現物貸借の処理では紙の再利用によって使用量を半分以下にすることができるとされている。そのほか,関連業者の協力により可能な事項として,電子送信を認める記事の購読契約や,配送にハイブリッド自動車を使用すること,物流面のベストプラクティスを実行してもらうことなどが挙げられている。

 レポートのイントロダクションでは,2008年7月から2009年6月までの,OCLCのネットワーク上でのILL処理件数は前年に比べて30万件多い1,030万件で,その3分の2は梱包と配送を繰り返す現物貸借によるものとの統計値が紹介されている。この処理件数の多さは,上記のベストプラクティスの実践が環境への影響を大きく減らしうることを示すものであり,今後の動向に注目したい。

Ref:
http://www.oclc.org/research/publications/library/2010/2010-07.pdf
http://www.oclc.org/research/events/webinars.htm#gi