E1045 – 学術書出版の実際<文献紹介>

カレントアウェアネス-E

No.170 2010.04.28

 

 E1045

学術書出版の実際<文献紹介>

 

Cox, John et al. Scholarly Book Publishing Practice: An ALPSP Survey of Academic Book Publisher’s Policies and Practices: First Survey 2009. ALPSP, 2010, 106p.

 本報告書は,英国の学会・専門協会出版協会(ALPSP)が初めて実施した,学術書出版の現状調査の結果をまとめたものである。調査は2009年夏に,主要な400の学術書出版社を対象として行われた。61%に当たる243の出版社から回答があり,不完全な回答を除く171の回答が分析された。分析された出版社の24%が営利出版社,76%が非営利出版社で,地域別の内訳は英国と米国が83%,欧州(英国以外)が9%,アジア太平洋地域が7%,その他が1%,規模別内訳は大規模(年間出版点数201タイトル以上)が10%,中規模(50~200タイトル)が30%,小規模(20~49タイトル)が19%,ごく小規模(19タイトル以下)が41%であった。

 本調査で扱われているテーマは書籍出版,販売経路と印刷技術,電子書籍一般,デジタルファイルの仕様,電子書籍の価格設定とビジネスモデル,電子書籍収入の増加,電子書籍市場への懸念,と多岐にわたっている。

 調査の主な知見は次のとおりである。

  • 毎年2万4千タイトルの学術書が新たに出版され,約35万タイトルの在庫がある。
  • アマゾンは学術書の主要な販売経路として台頭しつつあり,出版社の3分の2が「なか見!検索」に参加し,その多くは売り上げが増加している。
  • 63%の出版社が何らかの形で電子書籍を出版している。出版社は書籍を印刷版とデジタル版で同時に出版する方向に徐々に動いている。2004年以降 電子書籍の出版が急激に増加している。
  • オンラインで出版される参考図書や教科書の割合は単行本やそれ以外の種類の書籍に比べて低い。
  • 大半の出版社が電子書籍のフォーマットとしてPDFを利用している。半数がPDFに機能性を付加している。全文のXMLを作成しているのは25%,電子書籍の共通フォーマットであるEPUBの利用は15%である。
  • ほぼ全ての出版社が従来のPCで電子書籍を読めるようにしている一方,電子書籍リーダーに対応している出版社は約20%である。
  • 現在出版社が使用している電子書籍のビジネスモデルは多様であり,採用されている方式は複数で,買い切りが80%,年間購読が50%,短期間のレンタルは比較的例外である。
  • 過去2年間に電子書籍の収入が増加した出版社は70%で,収益の増加率は平均で100%以上である。ただし,電子書籍の販売は全書籍の販売の9.4%程度である。
  • 電子書籍が与える影響について,著作権侵害等を懸念する出版社もあるが,全般的に出版社はこれらの問題に対し楽観的である。

 「電子書籍元年」と言われる2010年に,実態が掴みにくかった学術書の出版と電子書籍出版についてのスナップショットが出版された意義は非常に高い。しかし,学術書出版の世界では多様な書籍が多様な目的で出版され,電子書籍の機能性やビジネスモデルもまた多様である。今後は学術書の内容に応じた調査が更に必要になると思われる。

(東北大学附属図書館・加藤信哉)

Ref:
http://www.alpsp.org/ngen_public/article.asp?aid=224142
http://www.alpsp.org/ForceDownload.asp?id=1419
http://www.alpsp.org/ForceDownload.asp?id=1415