文献レビューに基づいた「ハゲタカジャーナル」に対する認識の調査:Jeffrey Beall氏の影響力と弊害の指摘(文献紹介)

2020年11月10日付で、Elsevier社が刊行する査読誌“The Journal of Academic Librarianship”に、ポーランドのアダム・ミツキェヴィチ大学の2人の研究者による共著論文“How is open access accused of being predatory? The impact of Beall’s lists of predatory journals on academic publishing”のオンライン速報版(In Press, Journal Pre-proof)がオープンアクセス(OA)で公開されています。

同論文は、「ハゲタカジャーナル」が文献上で、どのように特徴づけられているかを調査する目的で執筆されました。調査は、Web of Science、Scopus、Dimensions、Microsoft Academicの4種類の文献データベースに収録されたハゲタカ出版を扱う英語文献280件のレビュー及び質的分析として行われています。

著者らは調査の結果から、ハゲタカ出版に関する議論全般において、米国の図書館員Jeffrey Beall氏の影響の深さが示されたことを報告しています。一例として、Beall氏がハゲタカジャーナルの主な特徴として言及している「新しい現象」「故意に欺く意図」「劣悪な査読体制」「投稿者の金銭的負担」「ゴールドOAモデル」の5要素は、Beall氏以外が執筆した文献にも広く確認できることを指摘しています。

とりわけ、Beall氏が本来別概念であるはずのゴールドOAをハゲタカ出版の定義に含め、一部のOAジャーナルの欠点を誇張する形で議論を展開し、その影響力が強く見られることについて、ハゲタカジャーナルとOAジャーナルの混同を招き、学術コミュニティにおけるOAへの不当な評価の原因になっている、と指摘しています。

Krawczyk, Franciszek; Kulczycki, Emanuel. How is open access accused of being predatory? The impact of Beall’s lists of predatory journals on academic publishing. The Journal of Academic Librarianship. 2020, 102271.
https://doi.org/10.1016/j.acalib.2020.102271

参考:
CA1960 – ハゲタカジャーナル問題 : 大学図書館員の視点から / 千葉 浩之
カレントアウェアネス No.341 2019年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1960

単なる“金もうけ”の疑いのあるオープンアクセス出版社のリスト(2013年版)
Posted 2012年12月10日
https://current.ndl.go.jp/node/22481

「ハゲタカ出版」のリストとブログの内容が削除される
Posted 2017年1月20日
https://current.ndl.go.jp/node/33292

ユサコ株式会社、信頼できるジャーナル・ハゲタカジャーナルに関するCabells社提供のデータベース商品について総代理店契約を締結
Posted 2020年8月31日
https://current.ndl.go.jp/node/41868

ハゲタカジャーナル・ハゲタカ出版に対する「警戒リスト」「安全リスト」の質的内容分析(文献紹介)
Posted 2020年9月24日
https://current.ndl.go.jp/node/42063