学術出版におけるジャーナルの評価・分析ツール等を提供する米国のCabells社が、2020年9月2日付のブログ記事上で、英国を拠点に出版に関する調査研究等を行うCIBER Research社との共同調査の報告書が公開されたことを発表しています。
両社は学術出版を巡る環境への理解を深めるため、医学研究の出版物に特化した観点、ハゲタカジャーナルによってもたらされる継続的な問題に関するより広範な観点の両側面から共同調査を数か月間実施しました。調査は投稿先雑誌の選定・ハゲタカジャーナル等の学術出版の新動向に関する認識について、医療分野の研究者や図書館員等の研究支援者へのアンケートとインタビューを組み合わせて行われています。共同調査は非公開で進められましたが、調査の知見を広く共有するため報告書として、“Assessing Journal Quality and Legitimacy: An Investigation into the Experience and Views of Researchers and Intermediaries – with special reference to the Health Sector and Predatory Publishing”がCIBER Research社のウェブサイトで公開されました。Cabells社はブログ記事上で、調査から得た主要な知見を次のように紹介しています。
・医療研究分野では、投稿先雑誌の選定や学術出版をめぐる情報収集は、自身の経験を頼りに自己完結している研究者が多数を占める
・医療分野の研究者の多数が、図書館員による学術出版をめぐる情報支援を重視していないと回答した一方、図書館員は研究者向けに研修等を通した情報支援に取り組むことを重視している。研究者と研究支援者の意識の間に軽視できないミスマッチが存在している
・健全なジャーナルの「ホワイトリスト」の国・機関レベルでの運用や、投稿を注意すべきジャーナルの「グレーリスト」の運用を確認したが、医療研究分野では投稿を推奨するジャーナルのリストを運用することは行われていないようである
・中国では研究成果の出版の急増によりハゲタカ出版への懸念が高まっており、政府主導による「ブラックリスト」や「早期警戒リスト」作成の動きが見られるが、「ホワイトリスト」の作成は大学・研究機関が主導していることから、数十の異なる「ホワイトリスト」が存在する状況になっている
・インドは、教育・研究の拡大に対処できる基盤を欠き、法的制約により大学主導で学術雑誌を創刊できない状況にある。結果として、ハゲタカ出版が研究者の需要を満たす形になり、インドからハゲタカジャーナルによる出版が急増する要因になっていると思われる
Special report: Assessing journal quality and legitimacy(Cabells,2020/9/2)
https://blog.cabells.com/2020/09/02/special-report-assessing-journal-quality-and-legitimacy/
Assessing Journal Quality and Legitimacy: An Investigation into the Experience and Views of Researchers and Intermediaries – with special reference to the Health Sector and Predatory Publishing [PDF:94ページ](CIBER Research)
http://ciber-research.eu/download/20200915-Assessing_Journal_Quality.pdf
参考:
CA1960 – ハゲタカジャーナル問題 : 大学図書館員の視点から / 千葉 浩之
カレントアウェアネス No.341 2019年9月20日
https://current.ndl.go.jp/ca1960
米国・カナダ・ラテンアメリカの大学図書館におけるハゲタカ出版に対する取り組み(文献紹介)
Posted 2020年8月11日
https://current.ndl.go.jp/node/41711
ユサコ株式会社、信頼できるジャーナル・ハゲタカジャーナルに関するCabells社提供のデータベース商品について総代理店契約を締結
Posted 2020年8月31日
https://current.ndl.go.jp/node/41868