CA909 – フランス図書館の資料収集方針 / 斎藤葉子

カレントアウェアネス
No.171 1993.11.20


CA909

フランス図書館の資料収集方針

BDFはBNから図書1,000万冊,35万タイトルの逐次刊行物,110万件の録音物,2万8千のビデオ,2万5千のマルチメディアを受け継ぎ,1994年の終わりまでに,約40万冊のモノグラフ,5,900タイトルの逐次刊行物,主要な視聴覚資料を,さらに最終的には90万冊の資料を開架資料室で提供しようとしている。当初はBNの蔵書を,コレクションの種類によって,あるいは年代で区切って分割し,BDFに一部のみ移管する案もあったが,1989年の公開シンポジウム後,利用者の利便を考慮し,手稿本,版画,写真などを除く図書,逐次刊行物,視聴覚資料のすベてをBDFが所管することになった経緯がある(CA595,CA633参照)。

BDFは研究者のために,4つの主題と貴重書,書誌,視聴覚など計8つの開架室を備える一方,一般利用者のためにも同じ主題別の開架室と参考図書室,新聞閲覧室など6つの閲覧室を備える予定である(CA908参照)。従って,その資料収集方針はBNと大きく変わろうとしている。

フランス革命以前,BNの前身である王家の図書館の蔵書は,18世紀後半の記録によると30万件を越えていたが,そのうち1537年に制定された納本制度による収集は約3万件に過ぎず,残りは大口の寄贈,遺贈と購入によっていた。特に外国資料の購入は意欲的に行われており,王家と教会の強大な権力と富が可能にした,あらゆる資料を集めようとするエンサイクロペディズムの思想によって,現在「人類の記憶」とも言われるBNの蔵書の基礎が築かれた。しかし19世紀の終わりには,世界の出版物の爆発的な増大と価格の高騰,すでに不十分であった財政状態が,エンサイクロペディズムを追求することを許さず外国資料の購入が制限されるようになり,第1次大戦後には外国資料の購入は人文・社会科学の分野に限られるようになった。

BNが不十分な予算の下で現実に行ってきた購入方針の要点は次の様なものである。 1)引き継がれた蔵書の欠陥を補うこと。納本の徹底によりフランスの出版物の網羅的収集を図ると共に,外国で刊行されたフランス関係資料,フランス語を母国語とする国々で刊行された研究レベルの著作を収集する。 2)貴重書の充実。 3)外国語資料の充実。文学と人文・社会科学の研究的水準の外国語の図書,逐次刊行物は現在111か国から購入されている。 4)目録室,参考資料室用の資料の収集。

これらの業務のうち,3)を主として遂行する外国資料収集部門に割り当てられる年間予算は,この10年間ほとんど横這い状態を続けてきたが,1991年にはBDFの蔵書構築のために5百万フランがつき,1995年までに5千万フラン(10億円弱)がBNに一任されることになった。この予算は主に,研究者向け開架室用の外国資料の購入と,それによって増加した資料にかかわる,選書,目録,典拠ファイルのメンテナンスといったあらゆる段階で必要となる人件費に当てられる。

BNの収集業務はいずれBDFの主題別の開架室に対応する各部門に分割・吸収され,伝統的な収集のメソッドと専門的知識を継承しつつ,機機化が進むことが予想されるが,現在は資料購入のプログラムを指揮するEPBFと,BNの各部門の職員によって,図書,逐次刊行物を始め,CD-ROMやマイクロ資料などの選定が進められている。

BDFは一般利用者と研究者の利用目的に二つながら適合し,完全に公開された図書館として,かつてBNが理想としてきたエンサイクロペディックな蔵書構成を持ち,米国議会図書館(LC)や英国図書館(BL)といった世界の大図書館のリーダー的位置に列するという野望を実現しようとしている。

出版量の爆発的な増大,ニューメディアの予想を越える可能性,情報処理と通信の新しい技術,文献領域のますます進む専門化,国内的,国際的な協力の必要性などが高まる今日,図書館は単なる書物の入れ物にとどまっていられない情勢にある。BDFはひとつの機関で全領域を収集することはもはや不可能であることを知っており,内外の学術資料の網羅的なコレクションを「ほかの専門図書館との組織的なパートナーシップ」を通じて実現するエンサイクロペディズムを提唱する。

このようなエンサイクロペディックな使命を果そうとして,世界の大国立図書館はさまざまな道を探っている。BLでの選書範囲の拡大(CA689参照),LCの「壁のない図書館」(CA838参照),日本の関西館の将来像に見いだされる思想など。これらの試みは,CD-ROMによるテクストのデータベース化の驚くべき飛躍とデータ通信の引き続く発展といった背景の下で,フランスの大図書館,BDFの文献政策に大きな示唆を与えるであろう。

斉藤葉子(さいとうようこ)

Ref: Simon, Nicole. Chantier et politique d'aquisition de la Bibliotheque nationale. Bull BiblFr 38 (3) 26-39, 1993