CA908 – フランス図書館建設の現況 / 門彬

カレントアウェアネス
No.171 1993.11.20


CA908

フランス図書館建設の現況

フランスのミッテラン大統領が1988年,既存の国立図書館(BN)にとって代わる最新のハイテクを駆使した世界最大の図書館,「フランス図書館」(BDF)の建設構想を打ち上げてからすでに5年以上が経つ(CA564,CA595,CA633参照)。当初のスケジュールでは,この大図書館は大統領の2期目の任期が終わる1995年春に開館の運びとなる予定であったが,その後の経過はどうなっているであろうか。最近の新聞・雑誌の記事などからBDFのその後を追ってみた。

89年夏建築デザインが決まり,10月文化省外局としてこの計画を推進する機関「公施設法人フランス図書館」(Etablissement public de la Bibliotheque de France:EPBF)が創設され,ここで1年間図書館のハード,ソフトの両面から計画が練られていった。90年12月鍬入れ,以後現在まで建物自体の工事は急ピッチで進められてきている。途中,図書館の機能・役割の無視,税金のムダ使い等々の批判をかわすため,4棟の塔の高さを当初の100mから79mまで下げるなどの設計変更を行ったり,閲覧席数を6,000席から3,565席に縮小するなど,紆余曲折はあったものの,現在セーヌ河畔トルビアクの7.5ヘクタールの用地に,未だ剥き出しのコンクリートながら巨大な塔がすでに聳え立っているのである。

ところで,今春の総選挙で与党・社会党が歴史的大敗を喫し,その結果,社会党のミッテラン大統領の下に保守連合内閣が成立した。BDFのプロジェクトを引き継いだJ・ツボン新文化大臣は2つの事実に当惑した。1つはBDFに関わる予算である。計画当初40〜50億フランと見られていた総工費が現在72億フランにまで膨れ上がっており,その内の90%は契約済み,かつ半分はすでに消化済みという。新聞・雑誌によれば,最終的には80億フラン(約1,500億円)はくだらないだろうとまで言われている。建築費は致し方がないとしても,大臣が目を剥いたのはBDF完成後の年間運営予算である。最も少なく見積っても10億フラン,恐らくは15億フランに達するだろうと見込まれている。ちなみに現在のBNの年間予算は3億8000万フランで,10億フランという額は文化省の年間予算の約10%に当たる。これにBNの跡地に予定されている国立美術図書館(CA839参照)の運営費が加わるのである。

もう1つの大きな問題はEPBFとBNの間に横たわる深い亀裂である。EPBFはBDF完成の最終段階でBNの蔵書と職員を吸収合併するべく計画を進めてきた。EPBFにはルロワ・ラデュリBN館長をはじめBNのスタッフも少なからず参画している。しかし文化省の同じ外局,公施設法人BNにとって,BDFの開館準備のためにのみBNの業務について一方的に指示・注文を出してくるEPBFのやり方は面白かろう筈がない。BNの分割,BDFの建築設計案に当初から批判的だったルロワ・ラデュリ館長は,総選挙後の雑誌インタビューで,前文化大臣から発言を慎むよう口封じされていた上,議論には参加できても,重要決定は常にEPBF上層部でなされ,BN側は蚊屋の外に置かれていたと憤懣をぶちまけているのである。

ツボン文化大臣は就任後,行政・立法上の諸問題を扱う諮問機関であり,行政訴訟も司る国務院(コンセイユ・デタ)に対し,6月30日という期限を切って,BDFの現状とBNの将来という2つの問題について諮問した。結果は,社会党内閣の計画を引き継ぐべしというものであった。建物の工事が変更のきかないほど進みすぎていることと,これまでに投下した資本が余りにも莫大であることが主たる理由である。大臣は7月21日記者会見を行って,国務院の判断を受け入れ,さらにBNとBDFの協力体制を早急に確立するため今年末までに両機関を統合し,新たな長を任命する,そして新図書館の名称を「フランス国立図書館」(La Bibliotheque nationale de France:BNF)とすると発表した。

今後のスケジュールを紹介すると,この11月に建物の骨格ができ,来年6月までに外装を終える。引続き内装に入り,94年末までには建物すべてを完成する。その後設備,備品などを入れ,95年10月にはすべて完了。あとは資料の移送その他の準備に一定の期間を設けて,96年中には晴れてオープンの予定である。

こうしたハードな日程に疑問を呈する声もある。建物はともかく,最大のネックはBDFが目指す機械化システム開発の大幅な遅れである。資料の収集,整理,バーコードによる管理,閲覧者の制御,さらには外部機関とのネットワークに至るまで,すべてをコンピュータでコントロールするというトータル・システムの開発はとても一朝一夕にできるものではない,というのが専門家達の指摘するところである。

最後に図書館の中味について,詳細は別の機会に譲るとして,概要を紹介しておく。

4棟のガラスの塔は地上22階,うち各塔とも3階から9階までを事務室,建物上部の各11階分を書庫に当てる(総延長195km)。直射日光を避けるため事務室は開閉自由の木の鎧戸で覆い,書庫部分は厚さ45cmの内壁で遮蔽する(温室効果による温度上昇を案じる声は未だにある)。

4棟の塔で囲まれた敷地に,深さ21mまで掘り下げて樹木を植えた広大な庭をつくる(約180m×60m)。この庭を取り囲むように,これもまた広大な閲覧室が設けられる。庭と同じレベルの地下2階が研究者用閲覧室で(天井の高さ13m,一部中2階付き),座席数は2,009席。約50万冊の専門書が開架式で備えられる。地下1階が一般閲覧室で(天井の高さ7m),座席数は1,556席。ここにも一般書約40万冊が備えられる。両閲覧室とも 1)哲学・歴史・人文・社会学部門,2)政治・経済・法律部門,3)科学・技術部門,4)文学・芸術部門の4部門に区分けされ,研究者用閲覧室には,これに貴重書室及び視聴覚資料室等が加わり,一般閲覧室には新聞閲覧室,参考図書室等が加わる。内外の雑誌も総計5,000タイトル以上が開架式で備えられるということである。

これらの閲覧室の周りに事務室,機械室等が配置され,さらにその背後に塔とは別に地下書庫が造られる(総延長200km)。

朝9時(又は10時)から夜9時(又は10時)までの1日12時間,土・日曜日を含む1週6日(72時間),年間300日開館することを目指している。1日の入館者数を一般閲覧者4,700人,研究者3,000人,計7,700人と見込んでいる。一般閲覧室の利用資格は18才もしくは大学入学資格試験合格者以上とする予定で,パリの各大学図書館が施設,蔵書とも極端に貧困なため(CA613参照),学部の学生が殺到することが予想され,1年間有効の有料利用カードの発行が考えられている。

職員数は最低でも2,000名を予定している。

門  彬(かどあきら)

Ref: Bibliotheque de France. l'annee du socle. EPBF 1992
Jamet, Dominique. La Bibliotheque de France, bibliotheque de toutes les recherches. Documentation et bibliotheques 39 (2) 1993. 4/6
Grunberg, Gerald. Bibliotheque de France – from conception to implementation. IFLA General Conference-Barcelona 1993. 8. 25
La lettre d'information, nos. 10〜14 (1993.fev.〜aout) EPBF
L'express 93. 1. 8; 93. 4. 22; 93. 8. 5
Liberation 93. 7. 22
Le monde 93. 3. 3; 93. 7. 11-12; 93. 7. 23
Livres hebdo 92. 11. 6; 93. 5. 14