CA929 – BNFが発足:BNとBDFの統合なる / 門彬

カレントアウェアネス
No.175 1994.03.20


CA929

BNFが発足−BNとBDFの統合なる−

フランスのジャック・ツボン文化大臣は,昨年7月,前内閣から引き継いだフランス図書館 (BDF : La Bibliotheque de France)の建設を当初の計画どおり1996年の開館を目指して進め,併せてこの計画推進の深刻な阻害要因となっていたBDF建設の母体機関EPBFと既存の国立図書館(BN:La Bibliotheque nationale)との間の軋轢を早期に解消するため,年内に両機関を統合して一つの機関とし,これを統括する一人の長を任命すると記者発表した。この決定は大臣自らがこの問題について諮問に付していた国務院(コンセイユ・デタ)の調査官フィリッブ・ベラヴァル氏の答申を受けたものである。同じ記者会見で,大臣はこの新しい機関の名称を「フランス国立図書館」(BNF:La Bibliotheque nationale de France)とすると予告していた(CA908参照)。

記者発表後,ツボン文化大臣は,図書館界,学界,マスコミ等の大方から支持を得た答申をわずか2か月という短期間でまとめあげたベラヴァル氏の力量を買い,引き続きBNとBDFの具体的な統合作業をも氏に委任した。氏は両者の間に立って精力的に協議を重ね,「双方が鉾をおさめ,戦争終結」(Livres hebdo誌93年10月29日号)に導くことに一応の成功を見た。政府は,昨年12月22日の閣議で,政令により同日付で両機関を統合し,名称も「フランス国立図書館」(BNF)とすることを正式決定した。この決定に伴い,旧BNのE.ルロワ・ラデュリ館長及び旧BDFのD.ジャメ総裁は各々その職を退いた。

一方,注目されていた新館長(president)任命の人事は難航したようである。新館長の条件として,まず高名な学者であること,かつ行政手腕に長けていること,さらに,これまでの経緯に鑑み,BNとBDFの両者から中立的立場にあることなどが必要条件とされ,新聞等では十指に余る候補者名が挙がっていたが,年が明けても決まらず,ベラヴァル氏が新機関の代表を代行していた。

1月18日の閣議で政府は大方の予想を裏切って,フランス国立公文書館管理庁長官(Directeur general des Archives nationales de France)のジャン・ファヴィエ氏に白羽の矢を立てた。現在61才のファヴィエ氏はパリ大学で歴史学を修める傍ら古文書学校を卒業するという二重の学歴を持ち,それが現在の経歴にも反映している異色の人物である。氏はフランス中世史の分野で幾多の業績を持つ碩学として知られ,ソルボンヌ(パリ第IV大学)で教鞭を取る一方,1975年以来フランス国立公文書館管理庁長官 (パリの国立公文書館館長)の任にあり,就任後l0数年の間に全国に散在する古色蒼然たる公文書館からホコリ,カビ,ネズミを一掃し,機械,コンピュータを導入して,近代的な公文書館に変貌させた。さらに,パリ,フォンテーヌブロー,エクス・アン・プロヴァンス,ルべの4つの主要な公文書寄託館間のコンピュータ・ネットワークをも作り上げたのである。ファヴィエ氏の新技術に対する積極的な姿勢も今回の新館長起用につながったものと見られている。また,前記ベラヴァル氏は総務部長(Directeur general)に就任した。

なお,ジャン・ファヴィエ氏は1988年から4年間,国際公文書館会議(ICA)の会長を務め,その間,1989年6月に日本の公文書館法施行1周年の記念行事を機に国立公文書館の招きにより来日した。その折り国立国会図書館を表敬訪問し,憲政資料室などを見学している。

ともあれ,統合がなり,新館長を戴いたBNFにとって,1994年は新しい展開の年となりそうである。もっとも実際に旧BNおよび旧BDFの職員の一部が新館に移り始めるのは今年の第3四半期以降ということである。それまでに職員間に融和と協調を醸し出すことこそが新館長に課せられた最初の仕事であるとマスコミは報じている。

ちなみに, BNFの職員数は2,000名を予定しているが,旧BNの1,500名の職員から約700名,旧BDFのスタッフ350名から約280名の計1,000名弱がBNFの建物に移る予定で,残る1,000名は開館時までに一般からリクルートされるということである。

門  彬(かどあきら)

Ref: Livres hebdo 93.10.29; 93.12.27; 94.1.14; 94.1.21
Livres de France (159) 1994.1
Le monde 93.12.24; 94.1.7; 94.1.9/10; 94.1.18; 94.1.20
Le Figaro 93.10.19; 94.1.17
公文書館法施行一周年記念: ジャン・ファビエICA会長来日報告書 国立公文書館 1989. 8