カレントアウェアネス
No.175 1994.03.20
CA930
LCの人事政策−緊縮財政下の人材活用策−
米国議会図書館(LC)は,1993年5月に,人材育成に関する「6か月計画」をスタートさせた。この計画は,従来の活動方針を見直すことに主眼を置いており,1992年にLCが発表した戦略計画(CA917参照)に基づくものというよりは,むしろその準備段階として位置付けられるべきものだろう。したがって,その内容も,職員の採用や昇進における不公平の是正,研修の充実といったもので,目新しいものではないが,そこには1つの方向性を見てとることができる。
例えば,1994年の1月から開始される,スタッフの経営/管理能力向上のためのプログラムは,LC内外の(図書館員であるか否かを問わず)管理職および専門職以外の職に就いている者の中から,潜在的に高い能力を備えていると思われる者を20名程選び出し,15か月間にわたる研修を行うというものである。その対象者はとくに限定されているわけではないが,従来の人事政策が少なからず偏向していたことへの反省から,主としてマイノリティをはじめとする様々な文化的背景を持つ者が想定されている。そして,これに先立って,図書館学校や大学,図書館協会などに呼びかけ参加者を募っている。こうして選ばれたメンバーは,能力別に4段階に分けられ,それぞれに相応しいメニューのトレーニングを受けることになっている。
このように,リーダーシップをとれる人材を一人でも多く発掘し,育てるという考え方がこの6か月計画の基調を為している。また,その際に,今まで軽んじられていたグループに焦点が当てられているのは,それが人道的に求められているためなのは言うまでもないが,他のグループを対象とした場合よりも大きな効果が期待できるためでもあろう。
しかしまた,こうして人材を育成するかたわら,LCは人員の削減にも乗り出している。LCでは,1993年の10月から11月にかけて,188名の職員が勧奨退職に応じた。職員総数5,000余名のLCにとっても,これは決して小さな数ではない。それは,年齢と勤続年数に一定の条件(例えば,55歳以上かつ勤続30年など)を設け,それをクリアした約1,400名を対象として,退職金の優遇措置などを講じることによって,希望退職を募るというかたちで行われた。
当然のことだが,この背景には逼迫した財政状況がある。1994年度の米国議会の予算(言うまでもなくLCの予算もそこに含まれる)は,l995年度末までにLCの職員を4%削減するよう求めている。
緊縮財政のもとでは,当然スリム化が求められる。これに対応するためには,限りある人的資源の有効利用が不可欠であり,国家機関といえどもその例外ではない。LCも現在この問題に直面しており,上記のような活動は,組織としての生き残りを賭けた試みと考えられる。まだ端緒についたばかりではあるが,その経緯は注目に価する。われわれも対岸の火事として安穏としてはいられないであろう。
渡辺斉志(わたなべただし)
Ref: Dalrymple, Helen. Six-month plan moves Library forward. LC Inf Bull 52 (12) 235-236, 255, 1993.6.14
Lamolinara, Guy. Leadership Development Program announced. LC Inf Bull 52 (14) 279, 1993.7.12
Fineberg, Gail. Library recruits candidates for minority leadership development: 20 persons to be selected for Program. LC Inf Bull 52 (l7) 339, 1993.9.20
Lamolinara, Guy. Optional retirement plan takes effect: as of Nov.1, 188 had accepted incentive offer. LC Inf Bull 52(21) 419, l993.11.15