CA911 – フランス図書館の録音・視聴覚資料コレクション / 佐藤典子

カレントアウェアネス
No.171 1993.11.20


CA911

フランス図書館の録音・視聴覚資料コレクション

フランスでは1938年以来,録音・視聴覚資料も法定納本(depot legal)の対象となっており,同年に国立録音資料館(Phonotheque nationale)が設立された。これを前身として1977年に設置されたBNの録音・視聴覚資料部(Departement de la Phonotheque et de l'audiovisuel)は,納本された録音・視聴覚資料を後世に伝えるべき国の財産として管理し,同時に,一定の方針の下に歴史的資料や外国資料を収集することを使命としてきた。すなわち,録音・ビデオ・マルチメディア資料を対象に,あらゆる知的分野にわたって網羅的に収集,整理,保存し,利用に供しようと努めてきた。この資料部をBDFへ移管することには,そのような資料の位置づけをめぐってさまざまな議論があり,決定が遅れていたものの,1992年までには方針が固まり,最終的に移管される運びとなった。

コレクションには,1938年以降の納本を中心とする録音資料が約110万点あり,円筒式レコードからDAT,CDに至るまで媒体は様々で,その中には,パリ大学音声言語文書館(Archives de la parole)から受け継いだ民俗学および言語学に関するアーカイブも含まれている。さらに,1975年から納本されているビデオが約2万8千点,マルチメディアが約2万5千点ある。多彩な媒体に,メディア技術の発展の歴史を見ることができる。

移転作業にともなって,様々な問題点が浮かび上がった。次にそれらを見てみよう。

目録 1983年以降の納本資料のデータベースに加えて,遡及入力が進められ,また,これまでカードのみの検索に頼っていた購入資料やアーカイブなどについてもデータが新たに入力されることになった。しかし,その量の膨大さから,移転までに作業を終えることは到底不可能である。その上,例えばSPレコードを目録の記録と照合し,新たなデータを付加する作業は,それだけで一寸した目録作業と同じ位の負担となってしまうなど,計画通りに作業が進むかどうか不安を残している。

メディア変換 BNには再生装置を備えた閲覧席は20席しかないため,資料は原則としてオリジナルで提供することが可能であった。ところが,BDFの新録音・視聴覚資料部では332席と飛躍的に増大するため,複製資料群による利用が不可欠となる。しかし,すべての資料を複製することはできないし,また意味もない。

では,何を優先して,どのように複製するのか。資料本来の価値と複製技術の両面から検討した結果,1911年以降に収集した録音資料中で特に貴重なものや,1951年から63年の間に収集したLPレコードなど約7万点が複製の対象となった。それらは,専門家の意見を取り入れ,現時点で最も信頼できる保存用の媒体として,1/4インチのアナログテープにうつされることになる。

一方,主題別の閲覧システム(CA908参照)の構想では,録音資料は,DATの形で蓄積・利用されるべく,デジタル化することが決められている。しかし,そのために雑音を取り除いたり,あるいは圧縮して複製する技術は,未だ確実なものとはなっていない。

なお,BDFでは,個々のオリジナル資料の保存状態や,複製化の状況に関する技術データを記録したデータベースの作成を計画しており,そのモデルが完成した。

要員の確保 以上の作業を行うためには,多くの専門家や技術者が必要となる。93年予算では18人が確保されており,さらに,移転プロジェクトを進める中で養成された技術者が,引き続きBDFのスタッフとしても雇用される予定である。これは,未来のBDFにとっての一つの収穫といえる。

最後に,録音・視聴覚資料部の購入方針について触れよう。本来,購入資料は,納本資料の欠落部分(納本制度以前の資料,外国資料)を補う二次的なものであるが,その一方で,図書館の蔵書構成を評価・修正するものという性格づけがなされてきた。しかし,現在の状況で網羅的収集が実際には不可能であるとすれば,資料価値と利用価値の両面から合理性のある収集方針を提示する必要がある。具体的には,以下のような「メディアテック」の資料群の構築が検討されている。

<文芸メディアテック>:文芸作品に対して,著者や背景をより深く把握するために集められた視聴覚資料。<メディアの鏡>:テレビ,ラジオなどメディアの歴史を示す資料。<音楽メディアテック>:演奏作品と演奏中の奏者,音楽関連職業,音楽と文化の関係を表すマルチメディア。<フランス展望所>:フランス及びフランス人のイメージと,フランスの思想・精神性・社会の歴史を明らかにする映像資料。<ドキュメンタリーシネマテック>:世界で制作された主要なドキュメンタリー映画作品,等々である。

そして,この収集方針を実現するために,国内の関連諸機関との協定締結や協力関係の樹立が着々と進められている。

佐藤典子(さとうのりこ)

Ref: Calas, Marie-France. Le chantier demenagement du Departement de la Phonotheque et de l'audiovisuel. Bull Bibl Fr 38 (3) 40-45, 1993
Wellhoff, Marie-Christine. Politique d'aquisition des documents audiovisuels a 1a Bibliotheque de France. Bull Bibl Fr 38 (3) 46-48, 1993
山川正光 オーディオの一世紀 誠文堂新光社 1992