CA910 – フランス図書館の資料デジタル化計画 / 豊田透

カレントアウェアネス
No.171 1993.11.20


CA910

フランス図書館の資料デジタル化計画

資料のデジタル化とそれを用いた新しいサービスは,BDFの大きな目玉のひとつである。文字資料についてのみ言えば,開館時に10万点相当の文字資料をデジタル化して提供する計画になっている。

資料のデジタル化には,原資料の保存や,物理的に離れた場所への送信といったメリットがある。しかし,これらは資料一点一点についてのメリットである。新時代の図書館としてのBDFにとって,デジタル化資料とは代替物ではなくそれ自身がひとつのコレクションであり,従って,デジタル化作業はニーズに応じて進められるだけではなく,予め体系的に準備された,新図書館の土台となるものでなければならないと認識される。

デジタル化は,テキストを逐一コード化する方法(mode texte)ですべて行なうことが望ましいが,目標数の膨大さからしてコスト面で困難であり,一旦マイクロフィッシュ化してから画像のままデジタル化する方法(mode image)を併用せざるを得ない。この場合,コード化するには後々マニュアルないしOCR装置によって入力し直す必要が生じるが,当面のコストは1/10で済み,資料の保存と遠隔への送信はとりあえず可能になる。また,既製のフィッシュを活用すれば更にコストを下げられる。1991年から,mode texteの方法で購入による4,000冊を,mode imageの方法では,従来のBNの資料を元に作成したフィッシュ3,000冊相当を対象に,試験的に作業が実施されている。

対象となる資料は,まず文学・語学,哲学,科学一般といった分野について,“classique”“textes de reference”となる基本文献,さらに評論・解説書のデジタル化が行われる。これに加え,学術研究には欠かせない雑誌(記事)のテキストも含めて,各分野のコレクションが構成される。

一方,Frantext(国立科学研究センター:CNRSの作成になる3,000タイトルに及ぶフランス語文献のテキスト・データベース)を始めとする様々な機関の既製のデジタル化資料やCD-ROM資料を,契約や購入によってフルに利用できるよう計画されている。また,ネックとなる著作権処理についても,出版社協会等との調整が進展しているようである。

これらの資料を図書館で有効に提供するためには,利用者が使う機器も,新しいコンセプトに基づいて開発されなければならない。こうした機器をPLAO(poste de lecture assistee par ordinateur)と略すが,既に1990年より専門家による各社試作品のテストが実施されており,現在はAIS社とCap Gemini Innovation社に絞られている。

このPLAOは,計画通り進めば,次のような機能を持つ研究ツールとなるはずである。

  1. 図書館のデータベースの端末として,目録はもちろん,デジタル化資料を呼び出し,画面で閲覧できる。
  2. 利用者は,自分が使っているPLAOの画面にこれらの資料を複数呼び出し,テキストの比較やカット&ペーストなどの作業を行なったり,別のデータベースを呼び出したりして,自分だけの研究環境,自分だけの「図書館」を作り出せる。
  3. 引き続きの研究のため,これらの環境と資料をPLAOに記憶させ,更には図書館の外からもオンラインによりアクセスできる。

こうしたPLAOを最終的には260台設置する計画である。

以上が,現時点での計画のあらましであるが,レベルの高い研究者を対象としたこの高価なデジタル化計画が,旧BNの閉鎖性への反省から生まれた「すべての市民に開かれた新図書館」という基本理念の中でどういう位置を占めるのか,今ひとつ明確ではないと感じられる。

豊田 透(とよだとおる)

Ref: Gattegno, Jean. La Bibliotheque de France a mi-parcours. Editions du Cercle de La Librairie, 1992. 259p
Richard, Michel. Le programme de numerisation de la Bibliotheque de France. Bull Bibl Fr 38 (3) 53-63, 1993