カレントアウェアネス
No.170 1993.10.20
CA902
日曜開館の是非をめぐって−北欧と英国の例から−
公共図書館の日曜開館は必要か?もちろん,利用者にとって日曜の開館は歓迎されることである。というよりも利用者は,いついかなる時でも,自分が望む時に図書館が利用できることを望んでいる。しかし,利用者にとって開館時間の増大が望ましいとしても,限られた人的資源と予算の中では利用者の要望を無制限に受け入れることはできない。だとすれば,どういう形態での開館が望ましいかが問題になってくる。この観点から日曜開館の問題をとらえると,日曜開館が利用者にとって平日や土曜日よりも利用しやすいものであるのか,あるいはよりよい形態での利用ができるかどうかが争点となる。
デンマークでは長い間,日曜開館の可能性についての論議がなされてきた。殊に,両親が働いている家庭では平日に図書館を訪れることは困難である。また近年メディアの発達や車の普及により人々の活動の場が大都市周辺に移動するにつれて,地域の図書館の利用が減少していることも,日曜開館の必要性に根拠を与えてきた。バーデ図書館で1991年1月から1992年3月にかけて行われた日曜開館の試行は,この長年の議論に答えを出すことを目的としていた。しかし,この試行によっては日曜開館の必要性は完全に証明されなかったようである。日曜開館によって新たに開拓された利用者はわずかに4%程度であり,また全体の貸出量にも増加が見られなかったのである。
この試行の開始に当たっては,労働組合を含めた職員全体には積極的に協力する姿勢が見られたが,この結果によって慎重な姿勢に変化した。職員にとって日曜日に働くということは,決して歓迎できるものではない。その代償によって行われる日曜開館があまり効果的なものでないならば,その労力をより効果的な日曜開館以外の方法で活用すべきだという意見がでてくるのも当然である。
ロンドンのバーネット自治区における日曜開館の試行に対して,Nalgo(国家・地方公務員の組合)が主張しているのも同様の点である。同組合は議会が決定した開館時間の延長,日曜開館の試行に対する非協力を明言している。日曜開館という見せかけだけの改革よりも,もっと有効な方向に,限られた労力と予算を使うべきだというのが,彼らの主張である。しかし,バーネットの住民に対して行われたアンケートで69%が日曜開館を支持しているのは厳然とした事実である。
コペンハーゲン近郊の都市グラズサクセで行われた日曜開館の試行では,利用者,貸出量ともに増大し,日曜開館はここでは定着したものとなっている。もっともここでも,日曜の来館者の85%が日曜が開館する以前にも図書館を利用したことがあり,決して新しい利用者が大幅に開拓されたわけではない。バーデの例においてもグラズサクセにおいても,日曜にしか利用できない利用者のための日曜開館という主張はあまり説得力を持たない。しかし,バーデの試行では49%(平日では25%)の人が,グラズサクセでは30%の人が日曜日に子供連れで図書館を訪れている。このことは,利用の量ではなく利用の質において良い変化だと考えることができるだろう。
バーデの試行からは,確かに利用者像,貸出量といった面からは日曜開館の必要性を積極的に裏付ける根拠は得られなかった。しかし,日曜開館が定着した場合には,利用者像,利用量にも変化があるであろうし,よりよい利用の形態,より余裕のある時間での図書館の利用ということを考えると,日曜開館の必要性は決して否定できるものではない。バーデ図書館では,こうした考えのもと,日曜開館の継続が決定された。
福井祥人(ふくいよしと)
Ref: Kisbye, Morton. Sunday opening in Danish public libraries. Scand Publ Libr Q 25 (4) 25-27, 1992
Brockhurst, Chris. Barnet's Sunday poser. Libr Ass Rec 95 (4) 215, 1993