CA869 – フランスの図書館界この10年 / 斎藤葉子

カレントアウェアネス
No.164 1993.04.20


CA869

フランスの図書館界この10年

フランス国立高等情報科学図書館学校の刊行するBBF,t.37,no.4(1992)は「フランスの図書館1981-1991」という特集を組んでいる。80年代の公共図書館,パリ市の図書館,貸出中央図書館,公立情報図書館,大学図書館,国立図書館など,ほぼ網羅的にこの10年を振り返る試みである。施設,蔵書,貸出,職員,財政など多岐にわたる統計を中心に,図表やグラフが多用されており,ヴィジュアルに動向を概観できる。ハイテクを駆使した大国立図書館構想の華やかなニュースのかげで,フランスの図書館界全体の情報が,必ずしも十分とは言えない現状で,興味ある特集である。

その中のいくつかの概要を紹介する。

1)市町村立図書館

市町村立図書館に関する統計は,毎年図書館・公読書局が豊富で堅実なデータを我々に提供しており,80年代を通しての充実の様子はこのデータから読み取ることができる。たとえば,1980年に930館であった市町村立図書館は,1989年には1,581館に増えており,それにともない,財政的には,1980年の約14億8千万フランが,1989年には31億8千万フランと総支出が増加し,住民一人当たりに対する図書館費用も約2倍となっている。そのほか蔵書数で約1.5倍(図書),レコード数で約5倍,10年前には所蔵のなかったビデオ資料などの充実も目立つ。登録者は約2倍,貸出数は約70%の伸びを示している。

今後の問題としては,スタッフの専門性の向上,マルチメディアの収集,新しい利用者対策などがあげられており,地域分館のサービスやサービス時間の問題も弱点として指摘されている。また統計で把握されていない分野として,図書館ネットワークやその他の協力活動の充実が今後の図書館の発展にとって不可欠であり,統計の改善なども求められている。

2)貸出中央図書館

公読書の理念の下に,1万人以下の市町村の住民に対してサービスを行う貸出中央図書館(BCP)は,この10年の間に大きく変容してきた。国の施策の地方分散化(decentralisation)政策と地域開発政策を背景に,それまで文化省によって支えられてきたBCPの財政的基盤が県に移された。県の実情に応じて,関係する図書館との協力の構築,ブックモビールによるさらに小さい自治体へのきめ細かいサービス,サービスを農村,障害者,病院,移民や外国人といった個別的な対象へと広げていくことなど,県に課せられた課題は大きい。

3)大学図書館

この10年,フランス大学図書館は恒常的な死活問題に直面してきた。80年代の初めにはその衰退が深刻であり,1986年にミケルリポートがその危機を指摘し,具体的な提言を行うまでは,なかなか再生のきざしを見せなかった。

しかし,1992年の予算では約10億フランと増額が計られ,職員数でも約300人増え,1977年と比較して,図書の購入費で約2倍,逐次刊行物で約1万6千タイトル増加し,1981年に開始されたCADIST(科学技術情報収集提供センター)事業に対する支出は,当初の250万フランから,1992年には1,760万フランと増加している。ミケルリポートが徐々に効果を現しつつあるといえる。しかし,大学図書館の完全な復活には,さらに数年の地道な努力と活動の継続が必要であり,大学自身の活性化がそれを助けるであろう。

斎藤葉子(さいとうようこ)

Ref: Les bibliotheques en France, 1981-1991. Bull. Bibl. F. 37 (4) 1992
CA613 もうひとつの報告書−フランスの大学図書館の改革−