CA868 – BLの引っ越し事情:図書管理システム / 中山森爾

カレントアウェアネス
No.164 1993.04.20


CA868

BLの引っ越し事情−図書管理システム−

既に周知のことだが,英国図書館(BL)がセント・パンクラスの新しい建物への移転準備を進めている。この移動には,千名を越えるスタッフをはじめ,保存,利用の為の器機類も含まれるが,その関心の中心は図書のコレクションの移転である。

現在これらのコレクションはロンドン周辺にある複数の建物の中にあり,またそれぞれの場所で十分なスペースが無かった為に,同一のコレクション内でも,全てが順序正しく,まとまって排架されてはいない。さらに,800万冊に及ぶ図書は,その書架延長が200kmになるとも言われている。それ故に,この移転では,何年もの間物理的に切り離されてきた膨大なコレクションを集めて,正しく書架に並べるという複雑な過程が伴う。このことは数年来認識されており,より適切な方法で行うため,コンサルタント会社としてかねてより実績のあるエルンスト&ヤング社にコンサルティングを依頼することになった。同社はこの事業の為に図書移動管理システム(以下BMCS)と呼ばれるコンピュータ・システムを開発した。それは次の様な段階を経て実施されるシステムである。

計画立案:準備段階

ここでは全体レベルでの情報が集められる。新館の収容能力,各コレクションのサイズ等がそれである。特に各コレクションの利用頻度とお互いの関連性に関する情報は,建物の中でどこに排架されるかの基準となるので重要である。

計画立案:オートメーションシステム段階

ここからが,実際のBMCSを用いた作業となる。まず新館各層の書架の高さ,幅,奥行きのデータが集められる。これは建物の建築上の理由で(柱がある等)書架が計画通りに造られなかった場合もあるからである。次に移転予定のコレクションの現在の書架の長さ,これらの増加見積分,箱に入れる等で増える保存用スペースが記録される。この作業を終えると,各コレクションは管理上の単位に分割される(通常500m)。そしてその単位毎の平均の高さが記録される。このデータに基づいて,BMCSは各コレクションが移転先の予定の場所に収まるか,適切なタイプの書架が使用されるかをチェックする。予定の場所が使用できない場合には,次善の場所を指定する。この作業は排架位置が決まるまで必要なだけ繰り返される。

システムが提供する追加情報

実際の移転開始日に関する情報が手にはいると,BMCSは移動コレクションの長さと,移転業者との約定による400m/日の移転量とに従って,各コレクションの移動日を決定する。この情報は利用者と利用サービス関連部門にも知らされることになっている。いつ図書の移動が始まるのか解っていないため,この情報は現段階ではまだ提供されていない。

移動の実行

移動の実行に当たっては,より詳細なデータが必要になる。BMCSは移転されるコレクションの実測を要求している。移転予定の各々の書架の最も高さがある図書が1cm単位の正確さで計測され入力される。それらのデータが照合されると,BMCSは移転予定の書架ごとにラベルを発行し,それは各々の書架の先頭位置に表示される。各ラベルには現在の書架の位置と新館での新たな排架予定場所が表示される。

この計測データの正確さは2つの意味において重要である。まず新館の自動書架はこのデータに基づいてその高さを決定するからであり,これがうまく行かなければ膨大なスペースが無駄になること。そして,図書を実際に移動してから書架を調節したのでは,400m/日の作業量はとてもこなせないからである。

その後図書は封印され,トレイに入れられ,実際の移転に入るが,その順序を正しくコントロールするために,BMCSはトレイ毎のラベルを発行する。同時にこのシステムは移動管理用のコントロールシート,移動にかかった費用の記録も表示することができる。また,コレクションの脱落等の理由による移転作業の順序の変更にも充分な対応が出来るものとなっているようだ。何かと噂の多い新しいBLの建物だが,一日も早い完成が望まれる。

中山森爾(なかやましんじ)

Ref: Greenwood, Derek et al. Moving the British Library: the book control system. Aslib Information 21 (1) 28-31, 1993