カレントアウェアネス
No.172 1993.12.20
CA913
BL新館の利用者サービス支援システム
開館間近の英国図書館(BL)のセント・パンクラス館(CA868参照)では,設計当初からサービス支援の機械化が進められてきた。利用者サービスを支援する主なコンピュータ・システムは,1)利用者登録(Reader Admissions:RAS),2)オンライン目録(OPAC),3)自動資料請求(Automated Book Request System:ABRS),の三種類である。
現在のBLの利用者は,コンピュータ・システムを利用しなくても基本的なサービスを受けることができる。しかしセント・パンクラスでは,目録検索や資料請求など,普通のサービスを受けるためにも,必ず利用者自身がコンピュータを使わなくてはならない。従って,システム設計に際しては,利用者にとって分かりやすく,簡単であることが最重要課題とされた。
初めて入館する利用者は,コンピュータ管理のゲートを通行できる利用者パスの発行を受けなければならない。先ずエントランス・ホールの事務室でパス発行に必要な書類に記入し,写真を2枚提出することが求められる。データがRASに入力されると,利用者パスが発行され,これでゲートを通過することができ,ABRSで資料を自動請求することもできる。ゲート管理もRASの仕事である。なお93年開館時には,自然・社会科学閲覧室3室と一般・人文閲覧室,貴重書・音楽閲覧室の計5室の閲覧室が開室される。そのうち,貴重書・音楽閲覧室に入るためには特別な資格が必要とされ,その資格も利用者パスにデータとして入る。貴重書・音楽閲覧室でしか利用できない資料以外は,利用者はどの閲覧室でどの資料を見てもかまわない。目録はオンライン化されており,どこででも見られるので,目録ホールはない。
OPACで見られるのは,次の5つの目録である。1)人文・社会科学(H & SS)目録(1971年以降),2)英国図書館目録,3)科学参考図書館(SRIS)目録(1974年以降),4)音楽目録(1981年以降),5)音楽印刷資料目録。それぞれの目録は,データ要素に異なっている点があるが,データベース検索の際に混乱を招かないよう,利用者画面はできるだけ同じになるように設計された。ギリシャ文字やキリル文字も端末で調べることができる。OPACを利用する際には,最初に利用者パスの番号を入力するよう求められるが,これは,画面で検索結果に印を付けると,直ちにABRSに請求がゆき,資料出納に進めるからである。
ABRSは,先ず利用者のOPAC画面での請求について,利用者の資格や請求資料の状況をチェックし,利用可能かどうか確認する。資料利用資格や利用閲覧室に問題があったり,資料が他の利用者に利用されていたり,展示や修復などのために他の部署に移されていたりして利用不可能な場合,OPAC画面に直ちに表示される。問題がなければ,ABRSが地下書庫内の配架地図に基づいて配架先に最も近い書庫内ステーションを選択し,プリンターから請求票を2枚,出力する。請求票には,利用者番号と閲覧室,座席番号,請求資料の著者名,題名が記されている。職員が請求票に基づいて出納する際,一枚は資料の代わりに書架に残し,もう一枚は資料と一緒に閲覧室に送る。資料は,ベルトコンベアーと連結式リフトから構成される自動資料運搬システムで,適切な閲覧室へ送られる。直ちに利用される資料については,利用者の机の上のランプが光り,資料の到着を知らせるようになっている。請求資料の80%が30分以内に閲覧室に到着するように設計されている。
セント・パンクラスは,3年後の96年にはさらに閲覧室6室と書庫,事務所の増築,キングズ・ライブラリーのためのグラスタワーの開館を予定しており,それまでにさらにシステムを拡張することが予定されている。アジアの文字を端末で扱うことや,オンライン目録利用と同様に,館外からの資料請求予約にも応えられるようにすることなど,課題は様々である。
泉 眞樹子(いずみまきこ)
Ref: Butcher, Roger. An overview of British Library Automation at St. Pancras. Program 27 (3) 281-292, 1993