CA870 – ヒスパニック系アメリカ人のための多文化サービス / 柳下み咲

カレントアウェアネス
No.164 1993.04.20


CA870

ヒスパニック系アメリカ人のための多文化サービス

多様な民族が混在するアメリカにおいて,図書館の多文化サービスは重要な課題である。アメリカでは,1960年代後半よりエスニック・マイノリティを対象とする図書館サービスが,連邦政府の援助を得て,活発に展開されてきた。スペイン語を母語とするヒスパニック系のアメリカ人は,アメリカの中でも急激に増加した民族集団のひとつであるが,以下,Library Journal誌の報告を基に,彼らを対象とする図書館サービスの現状についてまとめてみる。

「ライブラリアンは,スペイン語の図書の需要が多いことを出版社に説く必要がある」と,実際にヒスパニック系の人々へのサービスに携わっているロサンゼルス・カウンティ公共図書館のゴンザレス(Rafael Gonzalez)氏は主張している。もちろん出版社側もその重要性は認識しているが,スペイン語図書の流通体制が整っていないという問題があるため,売る側,つまり書店はどうしても及び腰になってしまうのが現状である。そこで,注目されているのが,図書館におけるスペイン語図書の充実の必要性である。さらに,その資料を利用してもらうための「アウトリーチ・プログラム」もまた,重要な課題である。

「無料である,ということから説明しなくてはいけません」と言うのはニューヨークのハンツポイント図書館のチャベス(Daniel Chavez)氏。彼はまた,スペイン語でいうところの1ibreriaが「書店」という意味で「図書館」ではないので,誤解を生じやすいことも指摘している。

イリノイ州のローリング・メドーズ図書館では,遠距離で来館できない利用者のために,ヒスパニック系住民が多く住む地区に分室を開設した。また,ラジオやテレビを通しての図書館の宣伝活動や,人々が集まりそうな場所に図書館の広告を貼ることも,利用者へ「手を差しのべる」テクニックのひとつとして行っている図書館がある。

また,利用者のニーズに対応する資料の充実も大切である。多くの利用者が「ハウツーもの」の本を捜しているという点では共通しているものの,子ども,大人,移民してきたばかりの人,三世,メキシコ系,キューバ系,ニカラグア系等々と,実にさまざまな人が含まれているために,その需要は多岐にわたっており,あらゆるレベルの資料が必要とされている。そこで,サンディエゴ公共図書館では,お年寄りから若者まで異なった年齢の人々をそれぞれ代表するグループを作り,各グループがどのような本を必要としているかを把握する試みがなされている。

このような地道な図書館員の努力により,現在,ヒスパニック系の人々への図書館サービスは,日々培われているのである。

柳下み咲(やぎしたみさき)

Ref: Hoffert, B. [逆感嘆符]Se les Espanol aqui! Library Journal 117 (12) 34-37, 1992. 7
深井燿子 多文化社会の図書館サービス 青木書店 1992.10p
Seymore, W.N., Jr. ほか だれのための図書館 日本図書館協会 1982.151p