カレントアウェアネス
No.164 1993.04.20
CA871
シーサイド・ホームワーク・センターの試み
生徒の宿題を公共図書館が手伝うことは,現場ではごく一般に行われていることだろう。しかし,夏休みの宿題を持ち寄ってくる生徒の質問に答える,という個々の事例はあっても,毎日学校で出される宿題を図書館ぐるみで専門に手伝うという試みは日本ではまだ聞かない。カリフォルニア州モントレー・カウンティ公共図書館のシーサイド分館では,ホームワーク・センターと名付けて,地域の生徒達に宿題の解決を手助けするサービスを行っている。以下にその開館前の段階からの奮闘ぶりを紹介する。
シーサイドはカリフォルニアにある人口4万人程度の小さな街である。ベトナム系,韓国系,アフリカ系,中国系,スペイン系と多文化の人々が住み,子供達の親の世代は多くの場合,英語を母国語としない。両親は共働きが多く,上の子が下の子の面倒をみる鍵っ子家庭が大部分である。実際,宿題を見てもらう人のいない共働きの家の子が,図書館にやって来ている。学校図書館は学校のある時間には開いていても,生徒達が宿題をする時間帯には開いていない。学校の予算が削られて開館時間が減り,宿題が出来ないことで落ちこぼれが生れてしまうとしたら,地域の青少年向けサービスの一つとして,公共図書館が宿題を手伝っても良いのではないかと図書館は考えた。公共図書館なら資料も訓練されたスタッフもそろい,時間帯も生徒にとって丁度良い,という訳だ。
センターは'91年3月に開館した。開館前には学校に連絡をとり,ビラを生徒や親,教師達に配り,PTAのニューズレター等を通じて広報活動をした。地元の財団から補助金を受けたが,まだ資金も十分ではなかった。しかし「センターを作ろう。そうすれば皆はやって来る」――まさに図書館の『フィールド・オブ・ドリームス』だ。開館当初はあまり訪れる生徒はなかったが,開館して1ヶ月たつまでに93人の生徒がセンターを利用するようになり,現在では月に200人の生徒が利用している。
センターの開館時間は,初年度が月曜から木曜の午後3時から6時,土曜は午前10時から午後2時である。2年度目から予算の都合上木曜と土曜のサービスを止めている。にもかかわらず,夏休みの前と後ではセンターの利用は8%の増加をみせ,2年度目が始まってから4か月間で21%も増加した。
このセンターは宿題の手伝いをするだけでなく,チューターによる1対1の指導や,Reading Partners Programという読書指導プログラムや,図書館活用法の指導を行っている。1対1のチューター・サービスとは,ボランティアのチューター(10人程)が,予約を入れた子供達に1対1で勉強をみるサービスだ。しかしそのうち,子供達はふらっと来た時にそこにいるチューターを見付ける方がよいとわかり,現在では(予約制もあるが)ボランティアのチューターが,ある時間センター内を自由に動き回る形でサービスを行い,成功を収めている。
Reading Partners Programとは,1対1でまず子供がチューターにお話を読み,次にチューターが子供に読み,最後に自宅で読む本を一緒に選んで子供を帰すプログラムだ。このサービスは英語をよく話せない親を持つ子供に喜ばれ,センターの中で最も人気があり,2年度目が始まるまでに25%も利用が増加した。
開館してまる1年たち,新たな補助金も付くようになった。将来はサービスを拡大して,電話で答えるサービスや,ベビーシッターを養成する講座を開いたり,コンピュータの教育ソフトを使ったりしたい。このセンターが生徒を落ちこぼれから救ったなら,十分役立ったといえるだろう,と著者は結んでいる。
嶋田真智恵(しまだまちえ)
Ref: Brewer, Rosellen. Help youth at risk: a case for starting a public library homework center. Public Libraries 31 (4) 208-212, 1992